街八ちよのレビューコレクション
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この恋は賞味期限切れです紹介文の通りサクッと読める短編でした。 「恋心」にまつわる諸々の設定が、とてもユニークでおもしろかったです。 @ネタバレ開始 おそらく勝手に生じるもののはずなのに、賞味期限が切れたら法的には有料で廃棄処理しなければならないのは、非常にやっかいだなあと思いました。 大量に不法投棄されても致し方ないと思ってしまうほどです。 だけど主人公は自分のものについて、ぞんざいに捨てられた他の人たちの恋心と同じようには扱わず、結果的に綺麗な形で終わらせることができたので、その恋心も少しは報われた気がしました。 また、賞味期限を守って消費すると恋心の賞味期限は伸びるのか、それとも別の何かに変わるのか……などとこの設定だけでいろいろと想像が膨らむので、この世界観での成就した恋心も見てみたいなあと思いました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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死と令嬢(リメイク版)テキストにおける言葉や引用句の選び方で、序盤から知的で洗練された印象を受けました。 哲学的な話は当方も好きなので、非常に興味深く拝読いたしました。 ほの暗くも柔らかさを感じるグラフィックが、文章と合わさることで作品全体がいい意味でよりニュートラルに感じられて良かったです。 @ネタバレ開始 地の文において、「彼女」「私」と用いられていますが、その視点が「死」でも「令嬢」でもなくまた「三人称視点」とも少し違うような……と思っていたところ、終盤で「死神」が現れたことでようやく腑に落ちました。 冒頭で死が「自分は死神のような高次の存在でない」という旨の発言をしたことで、この世界観には死神は存在しない、と勝手に思い込んでいたので舌を巻きました。 死が語る死の概念、というのも大変おもしろかったです。 「死は苦しい」「死は救い」などというのは今「生」の状態であるから言えることで、「死」そのものはどちらでもない、という論旨には同感でした。 世界には事象が存在しているのみで、観測者によって「それ」の意味や価値が変わる、というのは存在のすべてに言えることだよなあと改めて思います。 それがこの「死神」にも同じことが言えて、令嬢の認識した(そうであるはず、そうであってほしいと願った)死から「自分は彼女の死神である」と認識する過程が、構成的に美しいなあと感じました。 また、浅学なため引用句のほとんどの元ネタを存じ上げなかったのですが、クリア後のコンテンツから、使われた用語等の解説が読めるのがありがたいなあと思いました。 物語に合わせて格言などの主語を入れ替えるなど、意味に対して徹底された姿勢は、とても素晴らしいなあと思います。 今後も作品の公開予定があるとのことなので、そのときはまたプレイさせていただけたらと思います。 当方もこういう話が好きなので……。 @ネタバレ終了 大変好みな作風で、よい時間を過ごせました。 素敵な作品をありがとうございました。
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友待つ雪の歌声は幻想的な童話のような、ほんのり温かくも物悲しいお話でした。 立ち絵が可愛くて綺麗で、物語にとても合っていて素敵だなと思います。 @ネタバレ開始 「世界観の考察を楽しんでください」と記載されていたので少し考察をしてみるのですが、この街は「氷期を作り出す存在で、そのために依代のようなものが必要だった」のではないかと思いました。 その存在になるために必要な条件として、「最後まできちんとその役割を全うできる性質」を持っていなければならなかったのかもしれません。 ニーヴェちゃんは自分のルールを徹底したがる性格であることや、ごっこ遊び(≒役割を演じる行為)が好きだったということから、洞窟にいたという女の子の歌が聞こえてしまったのかなと考えました。 一方でルークくんはルールや細かな違いにあまりこだわらない性格であることから、ニーヴェちゃんがいくら呼んでも聞こえなかったのかなと思います。 そして「冷たいしんぞうの持ち主」が待っているのは、温暖な気候だったのではないかと思いました。 人間にしてみれば、地球はとてつもなく長い時間をかけて氷期と間氷期のサイクルを繰り返すので、そう考えれば必ず来るけれど人間の精神を持って待つのは恐ろしく孤独なことだよなあと感じます。 ニーヴェちゃんが成長しないままなら、半永久的に自分が置かれている立場をあまり深刻に捉えられないだろうと考えると、傍観しているこちらがつらいなあと思いました。 どちらのエンディングでも(1だとルークくんは忘れてしまって幸せになる可能性があるけれど)ニーヴェちゃんは根本的には孤独なまま存在することになるので、なるほど救われないなあと思いました。 @ネタバレ終了 子どもたちの視点で物語が展開するので複雑さはなくすんなり読めますが、深堀りしようと思えばいくらでもできそうな奥深いお話でした。 素敵な作品をありがとうございました。
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KISAHALOスチルやBGM等がないという旨の説明文を読んで、むしろ気になったのでプレイさせていただきました。 ハロウィンの日に、3人いる知り合いのうちひとりの部屋に遊びに行ってあれこれする……という感じのラブコメ作品です。 まず主人公が無邪気でいつも楽しそうなのが、とても好印象でした。 確かにスチルや立ち絵はないのですが、代わりに動物のアイコンが表示されますし、何よりキャラクターそれぞれがしっかり立っていてストーリーやセリフに反映されていたので、ビジュアルの脳内再生が容易でした。 むしろそれらがないほうが想像を掻き立てられていいのではないかと感じるくらいには、密度が濃くて満足度の高い作品だと思いました。 システムも丁寧に制作されていて、ブラウザでもサクサクプレイできるし、エンド後に周回プレイが簡単にできる設計が嬉しかったです。 @ネタバレ開始 いろいろゆるふわなスーくん、ツンデレで苦労人気質なサネちゃん、無表情で礼儀正しいけど実はしたたかなムツ、どの男性もとても魅力的でした。 仮装によってちょっとそういう雰囲気になっても、主人公が彼らを信頼しきっているし彼らも主人公のことをそれぞれ大事に思っているので、終始ほのぼのとした空気で和やかに終わるため安心して楽しめました。 あえて自分のお気に入りを挙げるなら、サネちゃんでしょうか。わざわざ手作りカボチャプリンを振る舞ってくれるの、嬉しすぎる……! 主人公には伝わっていないけど、第三者から見たらバレバレなほどに主人公を意識しているのも可愛かったです。 気軽に周回プレイしてコンプリートできる作品ですが、おまけまで充実していて最後まで楽しめました。 最後に見られる設定にて、彼らの本名が知れるのが個人的に嬉しかったです。 @ネタバレ終了 ハロウィンだけでなく、他のイベントでの彼らの様子も見てみたいと思える楽しい作品でした! 素敵な作品をありがとうございました。
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あなたと東武動物公園で東武動物公園は良いところですよね。当方も来訪経験があり、懐かしくなってプレイさせていただきました。 グラフィックの多くにアスキーアートが使われており、今の時代にむしろ新鮮で目を引きます。 園内の風景まで再現されているのに、思わず感心してしまいました。 テキストの淡々としていてちょっとエスプリの効いた雰囲気が、アスキーアートにマッチしていて全体の空気感がとてもいいなと思いました。 合間に挿入される実際の動物たちの写真にも、「こんな子いたな! 懐かしい!」と和ませていただきました。 @ネタバレ開始 プレイ前は「ほのぼのデートものかな?」と想像していたのですが、実際はふたりが終始すれ違っていて、グラフィックが楽しげな分、余計にメランコリーを感じました。 「あなた」が「そのとき」ではなくて「そのときの写真や経験を誰かに共有しているとき」のほうが楽しそうだ、という描写が本当に切ない気持ちになります。 ラストシーンは、「わたし」はこのデートで「あなた」がもし一緒に楽しんでくれたら、という最後の期待が結局叶わなかったがゆえの別れの決断なのかなと思いました。 10分程度でプレイできる短編ではありますが、「付き合ってはみたものの最初から最後まで嗜好が合わなかったカップル」のような、見えないところまで想像を掻き立てられる作品でした。 余談ですが、「コブがぷよんぷよんするラクダ」の様子が実際に動画で観られて個人的に嬉しかったです……! @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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MarieRecord試作段階のAIロボットが4人のモニターのもとへ行き、そこで過ごした10日間の記録を見ていく、というスタイルの作品です。 そのAIロボットであるマリーちゃんの立ち絵がとてもかわいくて気になったので、プレイさせていただきました。 モニターになる人間によって、それぞれ全く異なる展開の話が手軽に楽しめました。 目的や願望によってマリーちゃんの雰囲気も変わるので、(それがプログラムであったとしても)マリーちゃんのさまざまな表情や側面が見られて良かったです。 @ネタバレ開始 各ストーリーのどれもに言えることなのですが、外部の存在が自分に介入してくることによって、自分の本当の感情や今まで気づかなかったことに気がつける、という点においてはそのようなきっかけ自体が重要なのであって、それがロボットであれ何であれ関係ないのだろうと思いました。 現在ではまださまざまな点で課題があり発展途上なAI技術ですが、いつかマリーちゃんのような存在が現実になるくらい技術や文化が発達したら、存在の是非は結局のところ受け手である人間の感情次第になってくるのかなあと想像しました。 ちなみに個人的にはCASE3が一番好みです。 実は創作活動をこっそり応援してくれていた家族、素敵ですね……! 曲を一緒に作ってアップロードしたことでネットワーク上に記録が残り、それを記憶として思い出せるマリーちゃんという設定も心に響きました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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雨音と君とコーヒーX(旧Twitter)でお見かけして、気になっていたのでプレイさせていただきました。 まるで精巧でモダンなジオラマのような雰囲気の作品で、そこで展開される物語を、静かな部屋でゆったりと覗き込んでいる気分になれました。 祖父から継いだカフェを運営するフェリックさんと、学生時代の後輩であり店の常連のアレットさんとのやりとりが、終始かわいくて和みました。 特にアレットさんは外見も中身もふわふわでかわいく、くるくる表情が変わる立ち絵がとても魅力的でした。 様々な種族が存在するという世界観やその関係性も、物語を進めていくうえですんなり理解できるのも良かったです。 @ネタバレ開始 冒頭からふたりの関係は両片思いだなあと思っていたので、それとなく気持ちを伝えるフェリックさんと、自分の「好き」はあくまで推しに対する感情だと思っているアレットさんには「もどかしいなあ、早く付き合っちゃえばいいのになあ」と思いつつ、そのじれったさや距離を縮めるプロセスも見ていて楽しかったです。 資料集めと称して某ホテルへふたりで行った際には「ついに始まるか……!?(?)」と思ったものの、そうはならなかったので少し残念でしたが、その後出かけた旅館で素晴らしく美しい光景が見られたので結果的に大満足でした。 恋人同士になっても推しという視点からなかなか抜け出せないアレットさんと、それを温かく受け入れつつも悶々とするフェリックさんというほのぼのカップルを、いつまでも眺めていたいという気持ちになる作品でした。 余談ですが「せんぱいのこーひーがほしいです……」の時点でだいぶニヤニヤしてしまったので、自分もかなりBLに脳を焼かれてしまっているな、と自覚せざるを得なかったです……。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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あなたが見えなくてもかわいらしいグラフィックに惹かれてプレイいたしました。ふわふわしたファンタジックな世界観で、綺麗な装丁の童話を読んでいるような気分になれました。 短い時間でプレイできる作品にもかかわらず、立ち絵の差分やスチルなどがふんだんに用意されていて、満足感が高かったです。 キャラクターがぴこぴこ動いたり感情表現のエフェクトが表示されたりなど、細かい演出まで丁寧に制作されている印象を受けました。 @ネタバレ開始 フロレラちゃんが生まれつき目が見えないということは彼女にとって普通であり、そのままでも十分幸せだったけど、周囲の人々にとってそれは「かわいそう」なことだというのは、確かに多数派からすればそのように見えるかもしれないけれど、フロレラちゃんの気持ちを考えると、それはとても残酷なことだなあと思いました。 それを踏まえると、周囲の人からすればフロレラちゃんの目が見えるようになることが最善だったのかもしれないけれど、フロレラちゃんにとってはそれまでの幸せが壊され、友達になったニエちゃんを犠牲にしてしまったことになり、「この世の終わり」のような状況になってしまったのだと考えると、最後に彼女があのようなことをしてしまうのに至極納得しつつ、とてつもなく悲しい気持ちになりました。 ニエちゃんと空を飛んだり、本を読んでもらったりする様子がとても和やかで幸せそうだっただけに、「もうふたりにはあんなふうに楽しい時間を過ごすことはできないのかな、どんな姿になってもまた再会して一緒の時間を楽しんでほしいな」と強く思いました。 ニエちゃんがその後どうなったのか言及されていないので、せめて生きていてほしいな……と個人的には思います。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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秘密鮮やかで色彩豊かなグラフィックが印象的な、双子の芸術家の動向を追いながら『秘密』へとたどり着く作品です。 序盤の明るく賑やかな印象からは想像もつかない結末へ着地するので、度肝を抜かれました。 非常におもしろく、夢中になって読ませていただきました。 @ネタバレ開始 ドニとミシェルは双子という近い立場同士だからこそ、わからない部分や相手をうらやましく思うところもある反面、「正反対」という性質こそが自身の見えない部分を相手が理解してくれる一面もあり、共同制作者としてとてもぴったりな存在だったのではないかなと思いました。 だからこそミシェルの『秘密』が明らかになったあとのシーンは、「これからもふたりで助け合って活動を続けていくのだろう(でも『暗い表現・流血表現』って何だったんだろう?)」と非常に温かい気持ちになりました。 その後戻ったタイトル画面を見て「あ、おまけが増えたのかな」くらいに思いながら『サイゴ』をクリックしたのですが、「むしろここからが本質」と言わんばかりの衝撃的な展開で、思わず呆然としてしまいました。 直接的にせよ間接的にせよ「作品などの受け手が逆恨みで人を(再起不能なほどに)傷つける」というのは今でも実際に起きる話ですし、不特定多数に自分の作品を公開する恐ろしさやそのような事案の対応の難しさなど、改めて考えさせられました。 そしてドニが死ぬ前に書いた自伝的小説がこの作品そのものであり、もうひとつの『秘密』だったという結末には、非常に感服いたしました。 特にドニが「後世の人」という言葉を使ったとき、このような問題は今も昔も、そして未来にすらも存在しうることであると直接呼びかけられたような感覚を覚えました。 @ネタバレ終了 いろいろな意味で、気軽な気持ちでプレイしてはいけないのかもしれない、と思わずにいられない作品でした。 こちらがはじめて制作されたゲームとのことですが、もし今後もゲームを制作されることがあるなら、ぜひプレイさせていただきたいと思うほどに心に残る作品でした。 素敵な作品をありがとうございました。
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探偵助手は恋がしたい自称名探偵のまほろさん、その助手(のアルバイト)をしている霧緒くん、そして事務員の柊眞さん……という、とある探偵事務所に所属する人々のちょっとした日常と事件について描かれた、コミカルで楽しい(ところによりちょっとシリアスな)雰囲気の作品です。 立ち絵が非常に魅力的で、特にまほろさんは自他ともに認める美しさだけあり、非常に目を惹かれました。 本作は短い時間でプレイできますが、ストーリーの前後に広がりが感じられ、もっと彼らの活躍をいろいろと見てみたいなあと思いました。 霧緒くんはいったいどんなふうに成長していくのかな……? というのがかなり気になるところです。 @ネタバレ開始 霧緒くんが女の子だったことには驚かなかったのですが、まほろさんが男性だったことにはとても驚きました。 当方の偏見・先入観を自覚させられましたが、だからこそまほろさんは自分の性質が性別で左右されないし自身も判断をしない、確固としたアイデンティティを持っていらっしゃるんだろうなと感じました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。