街八ちよのレビューコレクション
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「君も助けてくれないんだね。」いわゆる「マジョリティの世界」に迎合できなかった者たちのお話です。 かなり極端ではありますが、彼らの言動や思想にはある種の『正しさ』が一貫して存在しているので非常に納得感があります。 綺麗ごとが一切存在しないのでむしろすがすがしささえ感じました。 特に主人公の嗜好に関しては早々に察することができ、変に期待を抱かずに冷静に事の顛末を見守ることができたので、いくらか気が楽でした。 それでも『お隣さん』の境遇には思わず目を覆いたくなってしまうほどの悲痛さと無情さを感じました。 @ネタバレ開始 イブキちゃんは「生に縋り付いている」というよりも「括りつけられている」という感じがしていたので、通常エンドでは自分で自分の行く末を選択する意思が残っていて良かったなあと思っていたのですが、真エンドを見て「むしろそんな意思は持たないほうが楽だろうなあ」と思いました。 そして『同居人』という名の神さまは一体どのような存在なのだろう、やることがあまりにも直接的で人間臭いのでやはり『神』という名目の人間なのだろうか、と勝手ながら想像しました。 ヒトは不条理に耐えられないためすべてに意味や原因を設定したがりますが、そのような「人間特有の営み」をプリミティブなモチーフで描いた稀有な作品だと思います。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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ネコと和解せよ!しっかり練られたSF設定も感じつつ、いい意味でつっこみどころ満載の設定がおもしろかったです。 現実世界でもヒトはネコを友達だと思っているけれど、猫もまたそのように思ってくれていたらいいなあとストーリーを読み進めながら温かい気持ちになりました。 かわいいネコがたくさん見られて楽しかったです! @ネタバレ開始 途中まで「アイリスがヌコウイルスによってヌコになった姿が猫猫」だと思っていたのですが、終盤で「いや右下のメニューボタンがアイリスだったんかーい」と盛大に笑わせていただきました。 その他にもくすっと笑えるポイント(おにぎりとか選択肢とか)がちりばめられていて終始楽しかったです。 ハッピーエンドでみんなが仲良く暮らしている姿を見て再び心が温かくなりました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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コイサクカガミ早春を思わせる深いブルーとパステルピンクの背景が印象的な、きらきらしたかわいらしい作品でした。 立ち絵のバリエーションが豊富だったり、まばたきのアニメーションが用いられていたりと、グラフィックにこだわりを感じます。 システムもシンプルかつ操作しやすくブラウザ(PCとタブレットでプレイしました)でも快適に遊べたのでとても丁寧に制作されているなあと思いました。 ストーリーは学生と青春特有の香りをすごく感じて、甘ずっぱい気持ちになりました。 鏡水ちゃんも桜月くんもけなげで、とても愛おしいです。 @ネタバレ開始 選ぶ選択肢によって告白する人物が変わるので、相思相愛という雰囲気が感じられて幸せな気持ちになりました。 おまけエピソードもかわいらしくて、最後まで『かわいい』と『ときめき』がたっぷりつまった作品だなあと思いました。 モミジ様を無言でなでる桜月くんがかわいいです。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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人生はつづくよ、どこまでも伝えたいテーマが終始一貫しており、プロットがシンプルな構造だったのでストーリーが非常にわかりやすく読みやすかったです。タイトルと同様の趣旨のセリフが作中何度か登場しますが、人物によって、または時間経過などによってそれをポジティブにとらえているかネガティブにとらえているのかが異なるのは興味深いなと思いました。 登場人物が皆不器用で、必死に前に進もうともがくさまがとても人間らしく、現実味がありました。どこまでも続く人生を前向きに生き抜いてほしいとエールを送りたくなります。 グラフィックやボイスなどのサウンド面も洗練されていて、非常に印象的であり没入感があってよかったです。 @ネタバレ開始 心春ちゃんの伯父があまりにもモラルに欠ける発言をしていたので唖然としました。主観的で加害性のある意見を子どもである心春ちゃんに言ってしまう時点で一番迷惑なのはこの人のような気がしますし、このような人が身内にいることのほうが心春ちゃんにとって不憫なことかもしれないなあと思いました。しかしそのことを心春ちゃんが「つらかった」と絢人くんに打ち明け受け入れてもらえたことで、心春ちゃんはとても救われたのではないかなと感じました。 絢人くんが心春ちゃんを抱きしめるスチルも相まって、そんな存在に出会うことができてよかったと心から思いました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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身の程知らずの恋と嘘グラフィックがかわいらしい雰囲気なので、あらすじの時点で主人公の鳴海くんが仁坂くんのストーカーであると知っても「見かけたらこっそりあとを追ってしまうくらいのかわいいものなんだろうな~」と想像していたら、弁解できないほどがっつりとストーカー行為を行っていたので思わず笑ってしまいました。 前半はシナリオがコミカルだったこともあって、この時点では鳴海くんの『ストーカー』という立場と『嘘』を重く感じずに済み、純粋な気持ちでふたりの仲が深まっていくのをほのぼのした気持ちで見守ることがとても楽しかったです。 @ネタバレ開始 ずっと『本音』を隠して生きてきたふたりが、仁坂くんの記憶喪失による表層の『嘘』がなくなったことで知らず知らずのうちにお互い本当の自分で接していたことが終盤に判明しますが、すごくいい構成だなあと感動しました。 本編でも言及されていますが、お互いまっすぐに相手に向ける勇気があったなら必要以上に傷つくこともなかったかもしれないけれど、傷ついたからこそお互いの『本音』についてきちんと向き合う覚悟が生まれたのではないかなと思います。 エンドロール後にタイトル画面が嘘のスマホを構えている鳴海くんひとりの構図から本物のスマホに鳴海君と仁坂君のツーショットが写っているものに変わっているのも凝っていて良かったです。 思わず「末永く幸せになってくれよな!」と言いたくなりました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
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修学旅行 ~性格不安定なまみちゃんと僕の物語~丁寧につくり込まれたシステムとテキストで、終始楽しくプレイさせていただきました。 ストーリーは基本的にギャグではあるのですが、雑学や専門知識等が嫌味なくふんだんに盛り込まれていて、大変教養的であるとも感じました。 状況に応じて本当に様々な行動を取ることが出来るので、いろいろと試してみるのが面白かったです。 @ネタバレ開始 行動に応じてまみちゃんの性格が変化しますが、まみちゃんが「じこしゅちょうができるおんな」と自称しているように根本的にはどの性格でも自分をしっかり持っていてきちんと行動に移せる子だと感じたのでとても好感が持てました。 そのシーンで「あれ……? さりげなく過去作『エレベーター』に登場するみよちゃんをディスっているような……」と不思議に思ったのですが、後にみよちゃんとの意外な関係性が判明して、『エレベーター』のファンとして嬉しく思いました。 なお、エンディングには関係ないものの新幹線でお弁当を食べる際にしおりを選ぶとモブおに「おまえはヤギか!」と言われるのが個人的にツボで好きでした。 そういった進行上意味のない行動にも気の利いたテキストが用意されているのがプレイに没頭する一因だったように思います。 また、登場するキャラが皆見た目も性格も個性的で見ていて楽しかったです。 個人的にたなかせんせいがめちゃくちゃひどい教師ではあるもののお酒でころっと機嫌が良くなっちゃうところが何だか憎めなくて好きなのですが……関わりたくはないですね……!(笑) そして作中のミニゲームが非常に完成度が高くて脱帽しました。どうやってつくられているのか想像もつきません……。 クリアするのに結構苦労したのですが、最終的に自力で勝負に勝つことが出来たのでとても気持ち良かったです。 エンディングにつきましては、バラエティに富んでいてどれも面白かったのですが、やはり「さいこうエンド」が演出も凝っていて一番素敵だと思いました。 思考錯誤して晴れてまみちゃんと結ばれたときは本当に嬉しかったです。 一方でモブこと結ばれるエンディングも個人的に好きです。まさかモブキャラも攻略できるとは……! モブこはモブこで知的で魅力的ですね……! @ネタバレ終了 すべてのエンディングを拝見するために何度もプレイいたしましたが、周回する際にストレスのないようにしっかり工夫がされていて最後まで飽きることなく遊ぶことが出来ました。 大変思い出深い修学旅行でした! 素敵なゲームをありがとうございました!
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交響曲第十番「融合」「雨」という「音楽」で奏でられる神秘的で普遍的な人間の在り方が描かれた作品でした。 @ネタバレ開始 特に説明がなくても情景描写だけで最初に登場する男女が耳が聞こえない・目が見えないということは感じ取れましたし、最初の女性が歌う歌の歌詞で使われる近代英語が「とても古い」というところから「人類は一度滅亡したのではないか」と察しがついたので、情報の出し方や世界観の理解のさせ方が上手いと思いました。 そのおかげで特殊な設定ではありますが説明的な言葉を並べ立てられなくてもすんなりと物語に没頭することが出来ました。 彼らが感じ取ることの出来る情報によって「雨」をはじめとする世界に対する感じ方が異なる描写が繊細で、読んでいて気持ち良かったです。 このお話はフィクションですが実際のはるか昔に生きた人間も、現代の私たちのように最初からコミュニケーション手段が幅広く確立されていたわけではないでしょうから、この物語の彼らのように「手探りで」他者を知り、世界を広げていったのだろうなと想像を掻き立てられます。 文明が発展し、生活様式が変容しても「人間が人間を求めるということ」という本能的な欲求は変わらないしそれを繰り返すことで人間は進化していくのだと感じました。 読了するのに一時間もかからないコンパクトな作品ですが、「人間」というものの根柢や人類を取り巻く世界の動き方がしっかりと描かれていて大変壮大な気分になり満足感が高かったです。 @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました!
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忘れ傘の矜持「人」と「モノ」をテーマとしたコミカルで明るい、でもいろいろと考えさせられるお話でした。 くるくると表情の変わる立ち絵が大変愛らしかったです。 @ネタバレ開始 ツンデレお嬢さまの高級な傘のペチュちゃんと、のじゃロリで中二病(?)なビニール傘のニュンちゃん、どちらも可愛くてとても愛着がわきました! ペチュちゃんのエピソードを読み終えた後はまず、「モノと人間、どちらもお互いを大事に想っているのっていいなあ」と思いました。 家庭の事情で家にペチュちゃんを持ち帰れないけれどペチュちゃんが大好きな牧野さんと、何があっても彼女の傘であり続けるという強い意志を持ったペチュちゃん、お互いの絆がよく感じられて素敵でした。 こんな風に自分が大事にしているモノも自分を大事に思っていてくれたら嬉しいなあと思わずにはいられません。 普段目立たない存在の主人公であるツグミくんがペチュちゃんのために勇気を出して行動するところも好感が持てました。彼もモノをとても大事に思っているのだということがよく伝わってきます。 ペチュちゃんのルートが派手さはないけれど人とモノとの温かいつながりを感じるお話だったので、ニュンちゃんのエピソードもそのような感じのテイストなのかなと思いながら読み進めておりました。 しかしながら実際は人類滅亡の危機にまで発展してしまったことがかなり予想外で先の展開が気になり、読み進める手が止まりませんでした。 ニュンぺの主張を聴いて、人間はモノを簡単に捨ててしまうけれど、モノに助けられて生きているのだということを今一度痛感しています。 そのようなシリアスさもありつつもキャラクターのやり取りがコミカルだったので重くなりすぎず、楽しく読めました。 まさかツグミくんの脚フェチがあんな風に活かされるとは思いませんでした……! モノに対して「これはどんなことを考えているんだろう?」と想像するきっかけを与えてくださったモノ愛にあふれた作品でした。 ツグミくんのモノ述べ師としての活躍がもっと見たいので、続編があれば是非読んでみたいです……! @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました!
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メンヘラにだって理由があるふんわりとした可愛らしいイラストが特徴的な、女子高生たちの複雑な心模様が上手く描かれた作品だと思いました。 @ネタバレ開始 ナルちゃんのことが大好きなあまり暴走してしまうアイちゃんが引き起こすバッドエンドの数々は、プレイしていて生々しい怖さを感じました。 しかしながらEND5のルートでアイちゃんの事情や心情について詳しくわかると、やはり彼女たちに必要なのは「話し合うこと」だということを強く実感しました。 自分が何気なく言ったことが相手にとってとても大事、もしくは逆に傷つけてしまう言葉になる可能性があることを意識して気を付けるべきなのだなと考えさせられました。 自分の発言に責任を持つことの大切さをひしひしと感じます。 あの3人が仲良く友達でいられるエンドがあって本当に良かったです。 @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました! ※追伸:ファンアート記載のタイトルを誤ってお書きしてしまいました。大変失礼いたしました。深くお詫び申し上げます。
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天使の飼い殺しまずタイトル画面のマウスや指で操作できる演出が素晴らしくてしばらくゲームをスタートせずに楽しんでおりました。 ゲームを開始した後もどのようにプログラミングされているのか見当もつかない視覚的に鮮やかな演出のオンパレードで、ただただ息をのむばかりでした。 ストーリーの内容も、「綺麗なバラにはとげがある」とでも言いましょうか、美しくも切ない、やりきれない感情が沸き上がります。 数分で楽しめる本作ですが、満足度がとても高かったです。 素敵なゲームをありがとうございました!