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街八ちよのレビューコレクション

  • キミまで700km
    キミまで700km
    扱われている広島のスポットや文化などについてきちんと取材や勉強されているのが見て取れるので、非常にリアリティのある構成だなと思いました。 当方は広島に行ったことがないので、登場する名所やグルメなどは知らないものばかりで、純粋に勉強になりました。 辞書機能も、それぞれの項目を眺めているだけで詳しくなった気分になれました。作者さんの「広島を知ってほしい」という気概がとてもよく伝わってきます。 等身大の青年像で描かれる主人公と薫についても、それぞれのキャラクター造形がとても素朴で地に足のついたものだったので、「実話を元にしているのではないだろうか」と思うほどに世界観の解像度が高くて良かったです。 @ネタバレ開始 「実は以前から関係があった(子ども時代に出会っている)」というエピソード、大変好きです。 こちらが照れてしまいそうなくらい純粋な気持ちを持つこのふたりなら、それを『運命』と呼んでも過言ではないほどの結びつきを終始感じました。 その後晴れて結婚し隣で暮らせるようになったふたりをちゃんと見ることができて安心しましたし、末永く仲良くいてほしいなと思いました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 菊花と雨
    菊花と雨
    この作品を構成するすべてが、その場の温度や湿度、匂いまで感じられるような空間を作り出していて、とても心地が良かったです。 特にテキストが端正でしっとりとした雰囲気で、たとえグラフィックやBGMなどがなかったとしても『秋雨の中の京都』を肌で体感できるような確かな文章力を感じました。 @ネタバレ開始 ひょんなことから『非日常』を体験しに行くことになった碧衣とその非日常の中にいた浅葱が邂逅し、心を通わせる様は、まるで雨が大地にしみこむようにゆっくりと、しかしそれが確実に新たな美しい情景を育てていくかのような光景でした。 そのときはお互いに非日常だったとしても、やがてお互いが存在する新たな日常が生まれるのだろうという未来が想像できます。 彼らが今後どのような経験と関係を結んでいくのか、最後まで見てみたいという気持ちになりました。 @ネタバレ終了 30分という短いプレイ時間を感じさせない、濃密でゆったりとした時間を過ごせる物語でした。 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 噫、井戸に流るる
    噫、井戸に流るる
    タイトル画面や序盤のシーンからではいい意味で全貌が全く予想できないものの、演出や会話のテンポが非常に良く、続きが気になるフックが適切に配置されていたので最後まで一気にプレイしてしまいました。 ルウちゃんのキャラクター設定が明快で好感が持てるのも要因だったと思います。あれこれ説明されなくても、彼女自身が話す自己から、彼女の生い立ちや生活の様子などのバックグラウンドまで透けて見えるようなキャラクター造形および情報の出し方が巧みでした。 @ネタバレ開始 全体としては、『象徴』に対して人間が抱く意味や価値について、負の部分もしっかり描きつつ最後に『光』に昇華させる構成がとても良かったです。 パイセンが喜びや楽しみを思い出す方法として歌と踊りが用いられるのも、「人間の原始的な娯楽に立ち返る」というようなことが想起されて素敵だなと思いました。 神とアイドルという趣向の異なる偶像をうまくミックスさせ、今ここに新しい希望が生み出されたような、そんな気持ちのいい読後感でした。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 人を喰った話
    人を喰った話
    かしこまった文体と淡々と論を積み重ねる作風が、近代文学を連想させる雰囲気の作品でした。 冒頭で提示される設定で「禁室型の異類婚姻譚だ!」とテンションが上がり、ちりばめられた伏線的要素を読みながら「ラストはどうなるのだろう?」とストーリーに期待感を持ち続けたまま、一気に読み進めました。 特に何か大きな出来事が起きるわけではないのですが、上記のような引きで読ませるテクニックはすごいなあと感心しました。 @ネタバレ開始 「主人公も人喰いだった?」、「オティーリエはふたりいた?」というようなことは予想していたのですが、まさかオティーリエが人間(人族)の男の子だったとは思いませんでした。 それを知ると、それまでの描写の意図が一気にわかったり、違う意味に受け取れとれたりできるなあと物語がより味わい深くなりました。 オティーリエは自身にある(と思っていた)しがらみがなくなって心から主人公の『花嫁』になれると思った時点で、もうかなり幸せそうで何よりだったのですが、主人公がオティーリエをその後どう『幸せ』にしていくのか気になるところでもあります。 食べてしまう(食べられてしまう)のもまた、『幸せ』のひとつなのかもしれないな、などと考えたりしました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 教室に巣食う悪魔たち
    教室に巣食う悪魔たち
    作品の趣旨にきちんと沿っているという意味で、終始嫌な感じのする空気を持つ作品でした。 演出や立ち絵などのグラフィックが武骨で退廃的な雰囲気に統一されているため、世界への没入感が非常に良かったです。 事件について様々な立場の他者から聞いたことのまとめを振り返るという形で物語が進行しますが、それぞれの話者の主観や思惑、推論やステレオタイプ的考えの偏重などが強いなあという感じがしたので、「どれがファクトでどれがオピニオンだ」と悩む楽しさがありました。 また、変に『いい人』が出てこないので、登場人物全員を真っ向から気兼ねなく疑ってかかれるのが個人的に良かったです。 @ネタバレ開始 久住さんが犯人なのは妥当だなあと思っていましたが、協力者がいて、最初にくれたキーホルダーにあんな細工が施されていたとは思いもしませんでした。 画面の構図(カメラアングル)がシナリオに意味を成す作品が好みなので、それも相まって真実がすべて明らかになったときはある種のカタルシスを得られました。 久住さんがこちらをのぞき込むグラフィックは素直にすごくぞっとしました……。 @ネタバレ終了 (あくまでもこれはフィクションなのでわざわざこういったことを書くのは野暮かもしれませんが)一定の特性や体験を持つ人にとっては辛辣・苦痛に感じる可能性のある描写が多いですが、設定や演出がよく練られた、プレイヤーに楽しんでもらおうという試みがよく感じられる作品でした。

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  • 目覚めた宇宙にアメが舞う
    目覚めた宇宙にアメが舞う
    児童文学のような、幻想的かつ感傷的な雰囲気の作品でした。 それに加えて散見されるほの暗い描写に、穏便にはいかないのだろうなあと思いながらこわごわとプレイさせていただきました。 しかしながら1~3のエンディングは「ハッピーエンド」と言えるような希望溢れるものばかりだったので「良かったなあ」と思いながらも少々拍子抜けしつつ、「いや、でもあのアイテムは何だったのだろう」と思い返しながら最後のエンディングを拝見しました。 @ネタバレ開始 しいなちゃんは目的を果たすために虎視眈々と『経験』を積み重ねており、みあさんがくれた「あと一歩踏み出す勇気」がそんなふうに作用してしまうとは思ってもみませんでした。 母親の支配下から脱出するために意志を持ち、行動しようとすることは賢明だとは思いますが、それが社会的に許されない行為であるのはどうにもジレンマであり、とはいえしいなちゃんを救えない(救わない)のも社会なんだよなあとやるせない気持ちになりました。 あと私も、みあさんは髪が短い方がかわいいと思いました! @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • Dear Virgin. - ディア・ヴァージン -
    Dear Virgin. - ディア・ヴァージン -
    当方は断じてドMではありませんが、アーティスティックな雑誌のスクラップ記事のようなスクリーンショットに惹かれてプレイいたしました。 ゲーム本編も上記のような素敵なイラストがふんだんに使用されていたり、ムービーを画面合成して演出のひとつとしていたり、相手役の彼氏くんがフルボイスだったりと、オートモードで進められることも相まってまるで映画を観ているようなゲーム体験でした。 @ネタバレ開始 恋くんはなんだかんだ言っても幻想的(精神的)なものに憧れているのだろうということがよく感じられましたが、それに対して主人公は即物的(肉体的)なものでしか満足感を得られないようだったので、利害は一致していても心がきちんと交わることはないのだろうと思っていました。 しかしながら終盤で主人公は恋くんの気持ちに気づいているし後天的で作為的なマゾヒストであることがわかるので、まさに『両片思い』と言えそうな感じですが、表面上はすれ違いがまぬがれないのがもどかしくて切ないなあと思いました。 客観的に見れば歪な関係に感じますが、彼らの身上や立場を考えればこれが絶妙なバランスで彼らにとっての安寧を生んでいるのだと思うと、『よくない関係』とは一概には言えない、そんなレッテルを張ってしまいたくないなと感じます。 自分とは全然違う環世界に生きる人々の日常が体感できて、とても興味深かったです。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • リボン仕掛けのアンドロイド
    リボン仕掛けのアンドロイド
    レトロフューチャー感あふれるタイトルに惹かれてプレイしました。まさに世界観が近未来的で、全体的に男児向けアニメのようなコミカルでポップな雰囲気があり、親しみが持てました。 選択肢によって物語が分岐しますが、選んだものによってがらりと展開が変わるので、毎回驚かされました。 また、主人公のエントの飼い犬の名前が『ドリー』なのが、個人的にセンスがあるなあと思いました。 @ネタバレ開始 「アンドロイドが人間になる」というのはかなり王道な設定だと思うのですが、本作は逆に人間(アンドロイドを制作した側)がアンドロイドになるために、珍しくて新鮮でいいなあと思いました。 「博士が好きだからこちら側の存在になってほしい」と願うベルベットさんは、かなりアクティブな存在だなあと感じます。 それゆえに少し間違うと暴走してしまいますが、心根は素直で優しい性質なんだろうなあと思います。 それというのも、エントがそのような感情(タユラさんへの想い)を込めてリボンをつけてあげたから、そんなベルベットさんが生まれたのだと思いました。 タユラさんもそっけない人なのかと思いきや、実際は思いやりのある人で好感が持てました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • ヤンデレくんは今日も平和
    ヤンデレくんは今日も平和
    主人公の玲くんが、自身が監禁されている状態だというのにあまりにも冷静に自分の置かれている状況を分析してのけるので、開幕からかなり笑ってしまいました。 特に最初のスチルの玲くんが玉座に座る王のごとき威風堂々さを醸し出していたため、「タイトルにも『平和』とあるし、玲くんが全部円満に問題を片づけてくれるのでは……?」と期待していました。 しかしプレイすればプレイするほど「平和はどこ……?」と思ってしまうほどにはいろいろな意味で救われないエンドが複数あるので、見ていてつらかったです。 とはいえ玲くんのつわものっぷりで伊智くんをなだめるさまはなんともほのぼのとした雰囲気で、基本的には和気あいあいとしたコミカルな掛け合いが楽しかったです。 選択を誤ると即死するので周回プレイ必須ですが、一周がそれほど長くないのでセーブとスキップを駆使すればサクサクプレイできるのも良かったです。 @ネタバレ開始 伊智くんは素直であるがゆえにふきこまれた終末論的な話で思い詰めてしまったけれど、素直だったからこそ玲くんの言葉で救われたのではないかなあと思いました。 実際の世界は終わらなかったけれど、今回のことでそれまでのふたりの世界は終わりを迎えて新しい世界が始まったんじゃないかなあと、ふたりが生還するエンドを見て感じました。 でももうひとつのエンドの穏やかな顔で笑う伊智くんにも心惹かれました……! そしておまけでその後のふたりが垣間見れるのが嬉しかったです。なつかしのBL設定あるあるだ……! いつまでも穏やかに他愛ない日常を楽しんでいってほしいと思うふたりでした。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 夢魔さんと死にたがりさん
    夢魔さんと死にたがりさん
    人生に希望を持てなくなり身を投げようとした男性(死にたがりさん)が人間の魂を食べて生きる悪魔(夢魔さん)と出会い、命を渡す代わりに一日だけ自分の彼女になってもらう……というお話なのですが、その導入がシンプルだったのと夢魔さんがかわいくて常にふわふわしたオーラをまとっているおかげで、暗い気持ちにならずに純粋に彼女とのデートを楽しむことができました。 行き先がたくさんあって選ぶ楽しさがあり、場所によってふたりの意外な一面や過去を知ることができて楽しかったです。 周回プレイをすることでどんどんふたりのキャラクター性が明らかになっていくところがおもしろかったです。当方が抱いていた第一印象からふたりの印象がかなり変わりました。 最後には「希望って思いがけないところにあるものだよなあ」と前向きな気持ちになれました。 グラフィックやキャラクターの設定から作者さんの作品に対する愛情が伝わってくる、とてもあたたかい作品だと思いました。 素敵な作品をありがとうございました。

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