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街八ちよのレビューコレクション

  • あなたと東武動物公園で
    あなたと東武動物公園で
    東武動物公園は良いところですよね。当方も来訪経験があり、懐かしくなってプレイさせていただきました。 グラフィックの多くにアスキーアートが使われており、今の時代にむしろ新鮮で目を引きます。 園内の風景まで再現されているのに、思わず感心してしまいました。 テキストの淡々としていてちょっとエスプリの効いた雰囲気が、アスキーアートにマッチしていて全体の空気感がとてもいいなと思いました。 合間に挿入される実際の動物たちの写真にも、「こんな子いたな! 懐かしい!」と和ませていただきました。 @ネタバレ開始 プレイ前は「ほのぼのデートものかな?」と想像していたのですが、実際はふたりが終始すれ違っていて、グラフィックが楽しげな分、余計にメランコリーを感じました。 「あなた」が「そのとき」ではなくて「そのときの写真や経験を誰かに共有しているとき」のほうが楽しそうだ、という描写が本当に切ない気持ちになります。 ラストシーンは、「わたし」はこのデートで「あなた」がもし一緒に楽しんでくれたら、という最後の期待が結局叶わなかったがゆえの別れの決断なのかなと思いました。 10分程度でプレイできる短編ではありますが、「付き合ってはみたものの最初から最後まで嗜好が合わなかったカップル」のような、見えないところまで想像を掻き立てられる作品でした。 余談ですが、「コブがぷよんぷよんするラクダ」の様子が実際に動画で観られて個人的に嬉しかったです……! @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • MarieRecord
    MarieRecord
    試作段階のAIロボットが4人のモニターのもとへ行き、そこで過ごした10日間の記録を見ていく、というスタイルの作品です。 そのAIロボットであるマリーちゃんの立ち絵がとてもかわいくて気になったので、プレイさせていただきました。 モニターになる人間によって、それぞれ全く異なる展開の話が手軽に楽しめました。 目的や願望によってマリーちゃんの雰囲気も変わるので、(それがプログラムであったとしても)マリーちゃんのさまざまな表情や側面が見られて良かったです。 @ネタバレ開始 各ストーリーのどれもに言えることなのですが、外部の存在が自分に介入してくることによって、自分の本当の感情や今まで気づかなかったことに気がつける、という点においてはそのようなきっかけ自体が重要なのであって、それがロボットであれ何であれ関係ないのだろうと思いました。 現在ではまださまざまな点で課題があり発展途上なAI技術ですが、いつかマリーちゃんのような存在が現実になるくらい技術や文化が発達したら、存在の是非は結局のところ受け手である人間の感情次第になってくるのかなあと想像しました。 ちなみに個人的にはCASE3が一番好みです。 実は創作活動をこっそり応援してくれていた家族、素敵ですね……! 曲を一緒に作ってアップロードしたことでネットワーク上に記録が残り、それを記憶として思い出せるマリーちゃんという設定も心に響きました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 雨音と君とコーヒー
    雨音と君とコーヒー
    X(旧Twitter)でお見かけして、気になっていたのでプレイさせていただきました。 まるで精巧でモダンなジオラマのような雰囲気の作品で、そこで展開される物語を、静かな部屋でゆったりと覗き込んでいる気分になれました。 祖父から継いだカフェを運営するフェリックさんと、学生時代の後輩であり店の常連のアレットさんとのやりとりが、終始かわいくて和みました。 特にアレットさんは外見も中身もふわふわでかわいく、くるくる表情が変わる立ち絵がとても魅力的でした。 様々な種族が存在するという世界観やその関係性も、物語を進めていくうえですんなり理解できるのも良かったです。 @ネタバレ開始 冒頭からふたりの関係は両片思いだなあと思っていたので、それとなく気持ちを伝えるフェリックさんと、自分の「好き」はあくまで推しに対する感情だと思っているアレットさんには「もどかしいなあ、早く付き合っちゃえばいいのになあ」と思いつつ、そのじれったさや距離を縮めるプロセスも見ていて楽しかったです。 資料集めと称して某ホテルへふたりで行った際には「ついに始まるか……!?(?)」と思ったものの、そうはならなかったので少し残念でしたが、その後出かけた旅館で素晴らしく美しい光景が見られたので結果的に大満足でした。 恋人同士になっても推しという視点からなかなか抜け出せないアレットさんと、それを温かく受け入れつつも悶々とするフェリックさんというほのぼのカップルを、いつまでも眺めていたいという気持ちになる作品でした。 余談ですが「せんぱいのこーひーがほしいです……」の時点でだいぶニヤニヤしてしまったので、自分もかなりBLに脳を焼かれてしまっているな、と自覚せざるを得なかったです……。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • あなたが見えなくても
    あなたが見えなくても
    かわいらしいグラフィックに惹かれてプレイいたしました。ふわふわしたファンタジックな世界観で、綺麗な装丁の童話を読んでいるような気分になれました。 短い時間でプレイできる作品にもかかわらず、立ち絵の差分やスチルなどがふんだんに用意されていて、満足感が高かったです。 キャラクターがぴこぴこ動いたり感情表現のエフェクトが表示されたりなど、細かい演出まで丁寧に制作されている印象を受けました。 @ネタバレ開始 フロレラちゃんが生まれつき目が見えないということは彼女にとって普通であり、そのままでも十分幸せだったけど、周囲の人々にとってそれは「かわいそう」なことだというのは、確かに多数派からすればそのように見えるかもしれないけれど、フロレラちゃんの気持ちを考えると、それはとても残酷なことだなあと思いました。 それを踏まえると、周囲の人からすればフロレラちゃんの目が見えるようになることが最善だったのかもしれないけれど、フロレラちゃんにとってはそれまでの幸せが壊され、友達になったニエちゃんを犠牲にしてしまったことになり、「この世の終わり」のような状況になってしまったのだと考えると、最後に彼女があのようなことをしてしまうのに至極納得しつつ、とてつもなく悲しい気持ちになりました。 ニエちゃんと空を飛んだり、本を読んでもらったりする様子がとても和やかで幸せそうだっただけに、「もうふたりにはあんなふうに楽しい時間を過ごすことはできないのかな、どんな姿になってもまた再会して一緒の時間を楽しんでほしいな」と強く思いました。 ニエちゃんがその後どうなったのか言及されていないので、せめて生きていてほしいな……と個人的には思います。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 秘密
    秘密
    鮮やかで色彩豊かなグラフィックが印象的な、双子の芸術家の動向を追いながら『秘密』へとたどり着く作品です。 序盤の明るく賑やかな印象からは想像もつかない結末へ着地するので、度肝を抜かれました。 非常におもしろく、夢中になって読ませていただきました。 @ネタバレ開始 ドニとミシェルは双子という近い立場同士だからこそ、わからない部分や相手をうらやましく思うところもある反面、「正反対」という性質こそが自身の見えない部分を相手が理解してくれる一面もあり、共同制作者としてとてもぴったりな存在だったのではないかなと思いました。 だからこそミシェルの『秘密』が明らかになったあとのシーンは、「これからもふたりで助け合って活動を続けていくのだろう(でも『暗い表現・流血表現』って何だったんだろう?)」と非常に温かい気持ちになりました。 その後戻ったタイトル画面を見て「あ、おまけが増えたのかな」くらいに思いながら『サイゴ』をクリックしたのですが、「むしろここからが本質」と言わんばかりの衝撃的な展開で、思わず呆然としてしまいました。 直接的にせよ間接的にせよ「作品などの受け手が逆恨みで人を(再起不能なほどに)傷つける」というのは今でも実際に起きる話ですし、不特定多数に自分の作品を公開する恐ろしさやそのような事案の対応の難しさなど、改めて考えさせられました。 そしてドニが死ぬ前に書いた自伝的小説がこの作品そのものであり、もうひとつの『秘密』だったという結末には、非常に感服いたしました。 特にドニが「後世の人」という言葉を使ったとき、このような問題は今も昔も、そして未来にすらも存在しうることであると直接呼びかけられたような感覚を覚えました。 @ネタバレ終了 いろいろな意味で、気軽な気持ちでプレイしてはいけないのかもしれない、と思わずにいられない作品でした。 こちらがはじめて制作されたゲームとのことですが、もし今後もゲームを制作されることがあるなら、ぜひプレイさせていただきたいと思うほどに心に残る作品でした。 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 探偵助手は恋がしたい
    探偵助手は恋がしたい
    自称名探偵のまほろさん、その助手(のアルバイト)をしている霧緒くん、そして事務員の柊眞さん……という、とある探偵事務所に所属する人々のちょっとした日常と事件について描かれた、コミカルで楽しい(ところによりちょっとシリアスな)雰囲気の作品です。 立ち絵が非常に魅力的で、特にまほろさんは自他ともに認める美しさだけあり、非常に目を惹かれました。 本作は短い時間でプレイできますが、ストーリーの前後に広がりが感じられ、もっと彼らの活躍をいろいろと見てみたいなあと思いました。 霧緒くんはいったいどんなふうに成長していくのかな……? というのがかなり気になるところです。 @ネタバレ開始 霧緒くんが女の子だったことには驚かなかったのですが、まほろさんが男性だったことにはとても驚きました。 当方の偏見・先入観を自覚させられましたが、だからこそまほろさんは自分の性質が性別で左右されないし自身も判断をしない、確固としたアイデンティティを持っていらっしゃるんだろうなと感じました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • キミまで700km
    キミまで700km
    扱われている広島のスポットや文化などについてきちんと取材や勉強されているのが見て取れるので、非常にリアリティのある構成だなと思いました。 当方は広島に行ったことがないので、登場する名所やグルメなどは知らないものばかりで、純粋に勉強になりました。 辞書機能も、それぞれの項目を眺めているだけで詳しくなった気分になれました。作者さんの「広島を知ってほしい」という気概がとてもよく伝わってきます。 等身大の青年像で描かれる主人公と薫についても、それぞれのキャラクター造形がとても素朴で地に足のついたものだったので、「実話を元にしているのではないだろうか」と思うほどに世界観の解像度が高くて良かったです。 @ネタバレ開始 「実は以前から関係があった(子ども時代に出会っている)」というエピソード、大変好きです。 こちらが照れてしまいそうなくらい純粋な気持ちを持つこのふたりなら、それを『運命』と呼んでも過言ではないほどの結びつきを終始感じました。 その後晴れて結婚し隣で暮らせるようになったふたりをちゃんと見ることができて安心しましたし、末永く仲良くいてほしいなと思いました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 菊花と雨
    菊花と雨
    この作品を構成するすべてが、その場の温度や湿度、匂いまで感じられるような空間を作り出していて、とても心地が良かったです。 特にテキストが端正でしっとりとした雰囲気で、たとえグラフィックやBGMなどがなかったとしても『秋雨の中の京都』を肌で体感できるような確かな文章力を感じました。 @ネタバレ開始 ひょんなことから『非日常』を体験しに行くことになった碧衣とその非日常の中にいた浅葱が邂逅し、心を通わせる様は、まるで雨が大地にしみこむようにゆっくりと、しかしそれが確実に新たな美しい情景を育てていくかのような光景でした。 そのときはお互いに非日常だったとしても、やがてお互いが存在する新たな日常が生まれるのだろうという未来が想像できます。 彼らが今後どのような経験と関係を結んでいくのか、最後まで見てみたいという気持ちになりました。 @ネタバレ終了 30分という短いプレイ時間を感じさせない、濃密でゆったりとした時間を過ごせる物語でした。 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 噫、井戸に流るる
    噫、井戸に流るる
    タイトル画面や序盤のシーンからではいい意味で全貌が全く予想できないものの、演出や会話のテンポが非常に良く、続きが気になるフックが適切に配置されていたので最後まで一気にプレイしてしまいました。 ルウちゃんのキャラクター設定が明快で好感が持てるのも要因だったと思います。あれこれ説明されなくても、彼女自身が話す自己から、彼女の生い立ちや生活の様子などのバックグラウンドまで透けて見えるようなキャラクター造形および情報の出し方が巧みでした。 @ネタバレ開始 全体としては、『象徴』に対して人間が抱く意味や価値について、負の部分もしっかり描きつつ最後に『光』に昇華させる構成がとても良かったです。 パイセンが喜びや楽しみを思い出す方法として歌と踊りが用いられるのも、「人間の原始的な娯楽に立ち返る」というようなことが想起されて素敵だなと思いました。 神とアイドルという趣向の異なる偶像をうまくミックスさせ、今ここに新しい希望が生み出されたような、そんな気持ちのいい読後感でした。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • 人を喰った話
    人を喰った話
    かしこまった文体と淡々と論を積み重ねる作風が、近代文学を連想させる雰囲気の作品でした。 冒頭で提示される設定で「禁室型の異類婚姻譚だ!」とテンションが上がり、ちりばめられた伏線的要素を読みながら「ラストはどうなるのだろう?」とストーリーに期待感を持ち続けたまま、一気に読み進めました。 特に何か大きな出来事が起きるわけではないのですが、上記のような引きで読ませるテクニックはすごいなあと感心しました。 @ネタバレ開始 「主人公も人喰いだった?」、「オティーリエはふたりいた?」というようなことは予想していたのですが、まさかオティーリエが人間(人族)の男の子だったとは思いませんでした。 それを知ると、それまでの描写の意図が一気にわかったり、違う意味に受け取れとれたりできるなあと物語がより味わい深くなりました。 オティーリエは自身にある(と思っていた)しがらみがなくなって心から主人公の『花嫁』になれると思った時点で、もうかなり幸せそうで何よりだったのですが、主人公がオティーリエをその後どう『幸せ』にしていくのか気になるところでもあります。 食べてしまう(食べられてしまう)のもまた、『幸せ』のひとつなのかもしれないな、などと考えたりしました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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