天凱彼岸花(テンガイ ヒガンバナ)のレビューコレクション
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からっぽのやくそく配信にてプレイさせていただきました。 前作の感想コメントを送らせていただいた際に続編も制作予定とうかがっていたのでやらない選択肢はないとばかりに楽しませていただきました。 @ネタバレ開始 前作の時点で、シンシアちゃんが唯一のキメラ実験における成功例だった事やエンドによってどんな状態かという情報は判明しておりましたがよりその詳細について踏み込むという事でドキドキしました。 視点主人公となる「僕」はこの施設で働いている割にはまだ倫理観が比較的まとも?寄りというのか…。 一体どういった経緯でこの仕事に就いたのかが疑問ですが、逆にこういう人物だからこそ今回迎えたエンドたちは成り立つというのも納得でした。 シンシアちゃんのバイタルチェックをする係になるも、理由は前任者が死んだというもう危険しかない前提。 命の価値が軽くて済む、仕事上替えがきかない人よりは雑用係程度の仕事しか任されていない僕だからまぁ危険な事も任されるよね…という組織の形態はわかってるけど…となりつつ。 いざ、シンシアちゃんの部屋に行ってみればやけに殺風景というか暗い事もですが何とも異質な雰囲気。 「あなたが新しいお話相手?」 前作で実験成功後のシンシアちゃんの姿を見た際は見た目だけなら普通の人間と変わりがなかったので、背後に生えている触手はインパクトがありました。 タコと合成をされたらしいですが、本数は足りないとしても九尾の狐(漆黒版)とかそういった神秘的なイメージにも感じましたね。 とりあえず初見プレイは素直に思ったままを選ぶ方針で。 外に興味を持つのは仕方がないし、楽しいかどうかは場所とか感じ方にはよれどまぁ楽しいかな?と肯定。 ここで出てきた「海」というワードが前作の某エンドとの繋がりを感じるというのでしょうか…一緒に行けたのなら良かったよなぁという気持ちも少々ありました。 ただ、現状シンシアちゃんは外に出られない以上あまり良くない選択肢だったらしい? 翌日、検査というか恐らく耐久等の実験として電気を流されたのであろう事を話してくれたシンシアちゃん。 当然それを行う人は実験結果が知りたいのでありシンシアちゃんの人権はない前提の者ばかり。 「痛いって言ってもやめてくれないの」 定着実験をされるまでは、自分は難病が治ったら外に出られる患者だと信じて疑わなかった少女である以上やはり彼女が受けている事は非人道的だと改めて思い。 記憶障害のせいで大切な思い出もどこかへいってしまった事を合わせどうしたら彼女に救いがあるのか…を悩んでいると 「この触手が無かったら 毎日の検査やらなくていいの?」 確かにそうだね、と思う言葉をかけられました。 あくまで彼女が今こんな事になっているのも唯一の成功例としてさらにデータを取るべく実験をされているせいである以上。 なので肯定はしましたが…。 (たまたま実験が成功したおかげで生かされたのに) 失敗に終わった子供達は全員死んでしまい処分をされている。 被験体に選ばれた時点で、選択肢は成功して生き延びるか失敗して死ぬかのどちらかしかないのに。 そう思えば皮肉なのはそうですが…と会話を進めれば若干それに対するシンシアちゃんの様子がおかしいような…? 翌日、いつものようにバイタルチェックに向かうとそこには自分で触手を切り落としたシンシアちゃんの姿が。 断面図を見ると、やはりこの触手はタコの物なんだなとわかる…痛々しさはあれどこの状態だからこそ際立つ異常さと解像度がありました。 シンシアちゃんにしてみれば、前日言われた言葉を実行しただけ。 もう検査なんて受けたくないのだから、元凶である触手がなくなればいいと切り落としただけ。 だけど僕にはそんな意図もなく、ただ相槌を打ったにすぎない。 今日もあの子の話に相槌を打たないといけないのか… ここが、プレイヤーとしては純粋に彼女の話を聞いてそうだと思ったから肯定をしていても僕にとってはそこまでの意図があったかが怪しく。 安易な判断や同情、余計な知恵となりかねない事は破滅を招くという教訓となりました。 シンシアちゃんと会話するの、別に楽しかったんだけどなぁ…by心の声 そして、嘘をついたの?と僕の右腕は失われ…。 痛みを感じる主人公に対しシンシアちゃんが放った言葉が、もはや彼女が人間ではない段階になってしまったという点でも印象的でした。 「私ね 痛くなかったんだ 切る感触だけ残って 全然痛くないの」 切られている、という事は触覚としてわかっても痛覚が機能をしていない。 逆に、後付けであれ体の一部を失う事に痛みを感じないはずなのに検査の際には痛みを感じる程の苦痛は与えられている。 その事から、彼女に行われている行為が本来なら人間には耐えられない程の痛みや刺激を伴うレベルではないか?という推測ができました。 これが終われば解放される、そんな気持ちで一時的に痛覚が麻痺していたという解釈もできそうですが…。 だとすれば、僕を殺害後に時間差で痛みを感じる事も想定しましたがシンシアちゃんの台詞を見るに多分その可能性は薄そうですね。 とりあえず、2日目の質問は肯定したら死ぬと学習をしたのでここだけは絶対NOの方針に変更。 そこで自分の立場があまり偉くないのが彼女にも伝わり…何とも言い難い気持ちはあれど生還はできた。 その翌日、ヘビの定着実験を開始した結果今日からしばらくバイタルチェックを行わなくてもいいという話を研究員から聞く事に。 最初はてっきり別の子供がまた被験体になったのか?今度はラミアでも作るのか? と頭に「?」を浮かべておりましたが、シンシアちゃんがタコだけでなくヘビまでくっつけられたと理解した際にはどんだけ触手を増やしたいのだ!?と眩暈がしました。 とはいえ、唯一の成功例と考えれば他の子に比べて他の生物を定着させる際に適合率が高い体質である可能性はありますね。 キメラというと複数の生物を組み合わせているのが一般的とすれば、タコだけで終わるなんてのも甘い想定すぎた…。 選択肢としては、自室に行っても何も起きないと思ったので解放病棟へ。 すると道中で中庭が見え、そこには紫色の花が咲いていた。 前作、手術が成功するようお守りとして黒髪ちゃんから渡された…あの花と同じ種類でしょう。 直接手渡す事はできないものの、研究員にこの花を彼女に届けてもらうようお願いする事には成功。 何か重要なアイテムというか、フラグっぽい気は何となくしないでもないですね。 そして久々に彼女と対面できるようになるも、バイタルチェックができるようになったとはいえまだその様子は万全とは言えず。 選択肢としては一見すると気遣ってあげる事が正解かと思いましたが、あえていつも通りである事が優しさになる事もなるかなと上を選択。 シンシアちゃんとしては、何か聞いてくると思っていたのかこちらの行動を疑問視したようですが…話したくない事もあるでしょう。 心身共に疲弊しているでしょうし、そんな時に負担をかけるのも無粋かなとも。 こちらがそういうスタンスでいれば彼女としても特に問題はなかったようで。 新しい服が欲しいという要望は何故?と思いましたが別に拒否する理由もないよなと了承の一択。 一応手続きの関係で理由もいるでしょうしそこを問えば「私には子供っぽすぎる」というファッションにこだわる女の子らしい一面が。 後日、新しい服を着た彼女の姿は大人っぽくなったのもそうですが…これって「春のシンシア」のすがたじゃないかー!? さらに、スカートの時ならともかくズボンとなると尻尾穴のように処理が必要であろうに触手がない。 「縮めた」 もう自分の意思で触手をただ動かすだけでなくサイズまで変える事ができるとは…。 それだけ定着実験の成果が出ているという事でもあるでしょうが、同時にどんどん普通の女の子からは遠ざかるのをどう考えるべきか。 等と思っていればここでお見舞いに渡した花についての話題が。 どうやらあの花がきっかけで、完全にとはいかずともシンシアちゃんの記憶は一部戻ったようでした。 「私は誰かと約束してた」 その誰かと、外を見ると約束していた事を。 僕はそれは叶わない事であり、相手がもう死んでいると思っているようですが前作を知っているとまだ生存しているはず…という事は想定できたのでここから今作の新展開として何か起きるのか? という一抹の希望はあるのかもしれない…限りなく、可能性は低くとも。 …なんて思っていた時期が、私にもありました。 そこからさらに日数が経過すれば、シンシアちゃんの髪が短くなり他にも容姿に違いが…。 確かにかなりのロングヘアだったので重たいというのはそうだよね…と思いましたが、この部屋にハサミを含め刃物がないというので疑問が生じ。 どうやら彼女は自分の触手をハサミのように扱い髪を切ったようで…記憶の限りだとあの触手ってそこまで鋭利な形状ではなかったよね? つまり形や硬度すら変えられるようになったのか?と何とも言えない危うさがあり。 「昨日右目からヘビが出たんだ」 失敗したと思われたヘビの定着実験も、実は成功しており彼女はその力も身に着けていた。 話を聞く分には、右目から出ると言ってもタコの触手みたいな生物的な物でなく概念…?光のように出す事ができるという事。 目からヘビの姿をしたビームが出るようになったと想像するのが一番イメージとして近そうでしょうか。 どちらにしろ、塞がれていない左目も赤くなっている時点で何かしら影響は他にも視認できる状態なのでしょうが。 そして唐突に、明日からは担当を変えてもらったから来なくてもいいと言われる展開へ。 しかし、医師からは何も言われていないというのは矛盾でしょう。 単なる通達ミスか、彼女から直接伝えるという事で省かれたのか、それとも……嘘か。 どちらにせよ、直感的にシンシアちゃんがこなくていいと言った以上関わらない方がいいという野生の勘に従いました。 早めの就寝をしようと思えば、突如外で響く警報の音。 たくさんの足音と悲鳴、しかも少しずつ数が減っているという事から想定できる事態は…。 自室のドアにもたれかかる何か。 それを確認すれば予想通り、死体だったようで たくさんあった足音や悲鳴が減る=犠牲者の分だけ減っている という予想は大当たり…(あまり当たって欲しくはないとしても) 致命傷となった部位を確認すれば、こんな事をできるのはシンシアちゃんしかいないという事でとにかく警報のなる方へ。 大きな扉の向こう、恐らくシンシアちゃんの部屋であろう場所から誰かの声が聞こえる? 中を確認すると血まみれの彼女と黒髪の…女の研究員が。 この世界は、前作の黒髪ちゃんが研究員になった際と繋がっていた…!? 確かにその場合、タコ野郎(シンシアちゃん)が暴走したという証言がある中で黒髪ちゃんがシンシアちゃんのいるであろう場所に向かうという所でそのエンドは終わっていました。 そう考えれば、ここから先はあの続きの物語なのだと。 実際、黒髪ちゃんであろう研究員の特徴や台詞は完全にそうであろうと思わせる物であり。 しかし、シンシアちゃんは黒髪ちゃんの事を思い出せなかったであろう事から殺してしまった。 思わず恐ろしさから目を瞑ってしまうも、このままでは僕も殺されると再び状況を確認すればそこには思わぬ光景が。 自分の手を見つめるシンシアちゃん、断片的にだけれどこぼれる言葉は忘れていた大事な事を思い出したと思わせる内容で…。 「私が…………破った」 花をきっかけに、思い出した事。 私は誰かと約束してた、その時は思い出せなかった相手が誰だったのか。 もう少しだけ早く思い出せたなら、こんな事は起きなかったのに…。 研究員からの通報を受けてやってきた警察により拘束されるシンシアちゃん。 その際も、虚ろな目で自分が殺してしまった黒髪ちゃんを見ているだけだった…。 ゲーム名でもあるエンド6については 記憶障害により、思い出す事もなくからっぽとなったシンシアちゃんと黒髪ちゃんのやくそく。 黒髪ちゃんを殺した事によりからっぽの抜け殻となり果たされる事がなくなったやくそく。 といった解釈なのかな、と思いました。 そして、前作でもあった特定のエンドを見た場合だけ解放されるキオク。 内容を確認すれば、やはり分岐点というべきか重要だったのは花についての部分であり。 部分的にであれど、誰かとした約束を思い出せたシンシアちゃん。 ただただ楽しかった思い出。 彼女の境遇を思えば、身寄りもない孤児として表向きはともかく実は人体実験が行われている施設に囚われているというのは幸せと言い難い事でしょう。 だけど、そんな日々であれ彼女にとって黒髪ちゃんとの思い出や過ごした日々は優しい物だった。 本当に自分の記憶か疑ってしまうくらい眩しかった 数々の記憶を思い出しても、いくら会いたいと思っても相手の顔は思い出せない。 こんなに辛くなるなら思い出せない方がよかった。 けど、そう思ってしまうのはそれだけ大切だった事も裏返しでもあると思うとやりきれない気持ちになりますね。 今回に関しては、このキオクが解放されるのがエンド6を見た時のみであり…花とその会いたい誰かである黒髪ちゃんと再会できた事を観測できた時のみ明かされる情報である事含め。 他エンドに関しては、最初の方で僕はまだ倫理観はまとも?と表現をしました。 しかし、もしそうであってもシンシアちゃんにしてみれば研究員というだけで他の人と違いはない。 同情しようが仲良くなれたと思おうがそれはこちらの一方的な思い込みや思い上がりでしかなかなかった。 だって、本当に良い人がこんな研究に関与なんてしているはずはないのだから。 この、どうしようもない立場による事実と壁を突きつけられるのがとても現実的と思えました。 最後に生存のチャンスとして与えられる「担当を変えてもらった」という言葉すら、あくまで花のお礼だけの物。 その分の義理しかなく、それ以上彼女から見て親密になっていた訳でもなかった。 好感度のような物があるのには気づいたので、それを下げつつ進行した際にエンドを発見した際は内心ガッツポーズをしました。 内容としては死亡エンドですが、この後は僕が死んでいる以外はエンド3と同じ流れになりそうかなと。 基本は黒髪ちゃんが研究員になったエンドと繋がっている世界かと思っていますが、唯一エンド3に関してのみはもしかすると黒髪ちゃんが復讐の為に爆破した方のエンドと繋がっているようにも感じました。 根拠としては、研究に関わっていた人間が一斉検挙された事。 エンド6だけを見ると、完全にこの研究は国規模で容認されているからこそ警察はシンシアちゃんを拘束しても他の研究員は逮捕されず無事だった事。 (通報ができた時点で、警察を頼れるしそこに問題がないと想定できるので) しかし、エンド3で一斉検挙がされ実態が暴かれたというのは前作の爆破エンドと共通してるのではないかと。 その場合、結果的にそこから3年後にシンシアちゃんの遺体が発見されたはず…と思いますがそこは今回ぼかされたまま。 黒髪ちゃんは生存し、そこまでの経緯から自責の念エンドか海エンドに派生はしていそうですがせめて彼女が生きている可能性がある分マシなのかどうか…。 一応、エンド3ではシンシアちゃんのその後は不明なのでワンチャン外を見る事ができた可能性も残されてはいます。 確定するのは情報が出た時か、観測して確定した時のみと思えば。 ただ、素直に考えると上記のような流れとは思うので…果たしてその3年の間に何があったのか? ここは謎のままですね…。 @ネタバレ終了 エンドの傾向や、物語としてどうしてそうなってしまったのか? そこに納得できるだけのものがあるので鬱要素はあれど、覚悟や想定はできる結末だった。 “実験で人間ではなくなってしまった少女が堕ちていく様を見届けるだけのゲーム” という看板に偽りなしの内容でした。 前作も遊んでいると、一方その頃何があったのか?等の続編だからこそ楽しめる部分やエンドに対する解釈が深まる面でも良かったです。 その意味でも、もし未プレイの方なら先に前作から遊ぶ事をおすすめしたいですね。 それでは素敵な作品をありがとうございました。
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狐の格子尾猫シリーズを制覇するぞ!とワクワクしつつ実況動画としてプレイさせていただきました。 現状こちらが最新作という事で、少しの寂しさやもっと葦島さんの物語に触れていたいという気持ちもありつつのスタートへ…。 @ネタバレ開始 タイトルの時点でもしや?とは思いましたが、狐の窓の続編でもあると明確に記載されていたのでその意味でもワクワクはありました。 ゲーム紹介部分にある「老人」とされている人物が葦島さんだとは予想もしていたので、とうとう年をとる…老化という人間らしい事ができるようになったのか!? と、彼が人間属性を手に入れたのかという期待半分、だったらこれが終わりの物語になるのか?という寂しさ半分。 からの…結果的に、そんな事はなかったぜ!と判明。 だけど、次回作が最終回とあとがきも把握しておりますのでそちらの方をお待ちしております。 と、前書きが長くなりました。 ここからはゲーム本編に対しての感想となります。 「名前は、在りとあらゆる意味で、重要なんだよ」 まず、鬼太郎4期京極堂回必修済の者としては開幕この概念から導入された時点でテンションが跳ね上がりました。 名前があるという事は存在を定義されるという意味を持つ。 逆に、名前を失ったり無いとされる物はこの世に存在しない事となる。 ここは本編で葦島さんが述べている通り。 呪いをかけるよりもっと前の段階として、それは存在しているからこそ誰かにとって呪いをかける対象になる事が成立する…云わば次の段階である事。 『相手を呪う』というわかりやすく怖い子供でもできる思い付きながら、名前の持つ存在定義の前提を想定するにおいてここはいい例えだと思います。 それに、人間なら名前は産まれてから付けられるのが一般的でしょう。 そういう意味でも、名前の重要性を葦島さんが語るからこその説得力もあります。 学校の先生みたいな事を言うね、と指摘をされた際に二度目の経験だというのも過去作であった事を思い出す(けど、今回は未プレイでも成立する思い出の一部)要素として、にやりとしました。 老人の姿ではありながら、やはり基本の性格は素直であり一緒にお菓子を食べようと誘う所はどこか子供っぽくもある。 いつもと違う部分はありながらもやっぱりいつもの知っている彼だなぁと会話をまったり眺め。 帰宅をした瑞季君は何故かさっきまで遊びに行っていたはずの場所等を思い出せない? 敷地から出ると関連する記憶が消えてしまう領域…という概念の空間は確かにあると思いますが、とうとう葦島さんもそういう場所を定住の場とする者へなった…!? 今までが今までなので、まぁ彼に関する事で不思議があっても(理屈は不明だけど)おかしくはないだろう程度に解釈しました。 ただ、結果的にあの神社に立ち寄れたのは作中で瑞季君だけだったと考えると魂だけになったものだけが到達できる場所というのが概念としてありそうでしょうか。 記憶は曖昧なのに何故か葦島さんの事だけは覚えているようで、彼の三日月のように笑っている口元からチェシャ猫を連想し猫みたいに笑う変なお爺さんと表現するのは何となく納得を。 そして、それを聞いて何やら心当たりがありそうな反応をするお婆ちゃんはもしやあの時の…? 後日、忘れてしまったけれど近所にあの神社らしき場所がないかを探索すれば突如現れた黒いワンピース姿のお姉さん。 年頃の少年がいきなり綺麗なお姉さんに声をかけられたら動揺するよね~と微笑ましく見守り、結果的にはまた目的に神社へたどり着いた瑞季君。 道中の事を語れば楽しそうに笑われてしまうも、それは瑞季君が遊びに来てくれた事が嬉しいという純粋な理由からというのがとても“らしい”なぁと。 少なくとも、今回が時系列としても一番現代である事を思えばそれこそ葦島さんが老人の姿になるまでかかるだろう期間をそういった色恋の話と縁がないまま過ごしていたというのはそうだよなとしか言えず。 恋愛以前の話として、彼はまず母性愛を欲している赤子の段階にいるでしょうし普通の人間と同じように生きる事もできない。 もし彼が誰かと夫婦となったとしても、置いて行かれる側になるのがわかりきっているからこそ特定の誰かと深い関りを持ち続けるのも難しいのでしょう。 それこそ、2作目である狐の窓で彼女が名前を明かさないままそれ以上関わらない事を選んだように。 難しい話ですが、いつまでたっても見た目の年齢が変わらないで死ぬ事もない存在は、同じ地に定住をする事に向いていない…というのが常ですからね。 生物らしい変化がない事に気づかれたらどうなるかを考えると…。 そしてやはりというか、瑞季君のお婆ちゃんの話題になり元気にしている事を知れば嬉しそうに笑う葦島さん。 台詞からも、瑞季君のお婆ちゃんがあの時の彼女なのはほぼ確定でいいでしょう。 2作目の終わりではその後全く縁がなくまた長い月日が流れているように思いましたが、長生きをしていれば案外また近くにいたなんて事もあるのだなぁと。 また帰宅をすれば曖昧となってしまう記憶。 それでも、お婆ちゃんに初恋に関する質問をすれば語られる内容は完全に過去に見た…「狐の窓」の出来事だった。 思わず確定演出きたー!?と声をあげる程度には胸アツな展開でした。 同時に、あれからもうそれだけの時が過ぎていたという重みも感じながら。 ここでははっきりお婆ちゃん側から明言をされていなかったのか、それとも瑞季君側が要約した覚え方をしたのか。 狐の窓により妖怪を見たという認識はしていてもそれがどんな姿をしていたのかが明かされなかった。 実況中は「あー、あの野良犬の低級霊だねぇ」という感じで懐かしい思い出話を一緒に聞いているノリでしたが、ここで具体的な描写がなかったのも後になれば伏せる必要があったんだなと納得しました。 それと並行して、瑞季君が片思いというワードやお婆ちゃんの初恋が自分位の年頃の話という部分で反応しては黒いワンピースのお姉さんが頭に浮かぶのは一目惚れだったのだろうなぁと甘酸っぱい気持ちにもなりつつ。 婆孫して初恋としては遅い方だなぁと思うも、お婆ちゃんの方があの時の事を初恋の記憶として大切にしながらも素敵な人生を歩んでくれていたであろう事は喜ばしく思えました。 語られなかった部分に関しては、狐の窓における彼女の記憶を見れば「好きになったではなく、良いなと思った」この表現も理解できたので過去を知っているプレイヤーと彼女だけが知る秘密と言いましょうか。 自分にとって初恋と言える場面に至った理由も、彼の善性はあれど全ては母性を求めてるが故に行われた無意識下の行動からだった。 勝手に期待をしたのは、私の方だ。そう独り言ちていた部分も合わせ説明をするにも理解が難しいからなぁと、昨日の事のように共に懐かしい気持ちになります。 (実際に狐の窓をプレイしたのは前日の事でしたが) しかし問題は、話題として出た狐の窓に関して瑞季君が興味を示してしまった事。 実際にそれで危険な目に遭ったお婆ちゃんとしては絶対に教える訳にはいかず、当時の彼女のように好奇心から孫が危険な目に遭って欲しくないと思う以上ここは当然の対応でしょう。 だけど禁止される程、人は知りたい・やりたいという心理になってしまう。 元々、他愛もない子供の遊びとして知られているような物である以上少し調べれば方法を知る事は簡単だったでしょう。 それに偶然彼方側にいる何かを見つけたり正体を見破る事がなければ問題そのものは起きない。 だから図書室で試した際に何もなかったのだからそこで諦めてくれれば良かったのですが…。 それと、ホラゲー経験則から同級生の誰か一人でも人間ではないのを見破ったら大惨事待ったなしなので面白いでは済まないんだよなぁ…!? という起きなかったから良かったけど…と個人的にはひやりとする場面でもありました。 宇宙人とか人形とか幽霊とかそもそも図書室にいる七不思議に偶然ピントが合ってしまうとか…割と何が潜んでいてもおかしくないですからね、ホラーの世界では。 ここで語られる、思春期特有のあるあるな悩み。 もう少し大人になるとまた違うのでしょうが、この位の年齢になると段々異性と遊ぶ事がおかしいとされるのはありましたね。 何故か会話をするだけで付き合っているだの冷やかされたり…あれって何だったんだろうなぁと大人になれば思うのですが、当事者世代の頃はそう考える余裕もないでしょうし。 結果として、内向的な性格だった瑞季君は友達が作れなくて困る事になってしまった。 学校という閉鎖空間の社会にいる子供はそういう部分が大変だよなぁ…と続きを見ていればまたあの黒いワンピースのお姉さんと対面。 発言の傾向から、どうやらお姉さんは何かを探しているようで質問してみればそれは「友達を殺した人」というなかなか物騒なワードが。 殺人犯を探す?と思えばどうやらそうなるように仕向けてはいるけれど直接手を下した訳でもない。 精神や状況的に追い詰めたのか実行犯が他にいたのかわかりませんが、いわば首謀者に該当する相手という事でしょう。 あの男、という事で何となくこれは葦島さん絡みで何かあった人なのだろうという目星はつきました。 候補としては…今作は狐の窓の続編ですが、女性からの恨みとなると3作目で先生が行方不明になったのを特に悲しんでいた女生徒が候補としては濃厚か? 直接肉塊の刑にしたのは小夜ちゃんだったし、一応後日に黄泉平坂を汚したままは良くないという理由でこの世に肉塊は捨てられる予定だったはずですし。 (そこから、どうやって葦島さんへ結びついたのかはわかりませんが…) 黒いワンピース姿なのも復讐を果たすまで喪服としてそういう格好をしていると解釈するなら? と、推理をした所で瑞季君がなんとお姉さんと友達になろうという提案をする事に。 この時点では勝手にワンピース姿の彼女は身長差の描写があった事も合わせ大人のお姉さんだろうと想像していたので、子供からナンパみたいな事をされてもまだ怪しいよりは微笑ましいで済む話だろうし大丈夫でしょ! なんて考えていましたが、実際は高校生位だったのでしょうね。 そこからの瑞季君の様子は完全に恋の病になってしまったんだなぁと微笑ましさはあったのですが… 再び神社に到着した際、葦島さんが何かに気づいた様子なのから何とも言えない不吉さというのか。 よからぬ何かがあるというのは察知できました。 恐らく葦島さんが感知したのは悪意のある霊的なものに干渉した痕跡、と思うのですが…。 そして、葦島さんの言う通り今のままではお姉さんの探す男は無論として友人に関する情報も足りていない。 ここで葦島さんが犯人の特徴でなく、友人の特徴に目を向けたのはある程度想定があったのでしょう。 犠牲者である友人の情報も、もちろん判明すればその周辺人物なりを探る手掛かりになりますが犯人がわかっているならそっちについての方が通常優先順位として先でしょうし。 どんな子だったのか分かれば協力できるかもしれない。 そう前置きをした上で、どうして協力をしてくれるのかを問われれば… 私は、子供達の味方で在りたいのさ。 何も知らない人が聞けば、特に子供の年齢ならば何でこの人そんな恥ずかしい事が言えるんだろう?と作中のような事を思うのかもしれません。 けど、葦島さんはずっとそういう人だったよなぁとこれまでを見ていれば納得しかなく。 それが、あの時の彼女の孫であるならそれも合わさり。 けど、あくまで個人の意見ですがその考え方に関しては全面同意ですね。 子供が健全に在れるように努めるのは大人の義務ですから。 それが知っている子か知らない子かはまたアプローチが変わる点で別の問題だったとしても。 もうこの時点で、今後起こる事への想定があったのでしょう。 何かあったらここにおいでと瑞季君に言う葦島さん。 とはいえ、何もなかったとしても純粋にここで会話をして過ごすのが楽しいという意味で何事もないまま顔を見せてくれるのもそれはそれで良かったのでしょうが。 そこからの帰り、再びお姉さんと対面する瑞季君。 先程の会話から情報を知るべきと質問をしようとすれば、以前瑞季君がお姉さんに対しあだ名を付けてくれたと言われ? そんなやりとり…あったっけ?と初見時はもしかして記憶から抜け落ちているのかと瑞季君と一緒にないはずの記憶があるはずと困惑し。 改めて読み返せば、やっぱりなかったよな!?となりました。 しかし、ここで思い出されるゲーム冒頭のやり取り。 名前という物がどういった意味を持つのか? このお姉さんが人間ならともかく、怪異のような名もなき概念であったなら。 名前を付けるという行為はあやふやであろう存在を確立させるきっかけとなる。 そして、向こうはそのあだ名という行為による命名を待っているのなら…。 思わず、やめろ早まるなやめろ!!となりましたが、願い届かず「みーちゃん」と声に出されてしまった。 後に何があるのか…とても気が気でない部分はありましたが、みーちゃんは割と素直に…それこそ無邪気に笑って喜んでいる様子。 そして、瑞季君の名前を確認してみーちゃんとみー君でお揃いである事が嬉しいのか今度は大人っぽく笑う。 みーちゃんにしてみれば、嘘をついて自分に名前をつけさせた張本人ですから…恐らく、瑞季君の名前から由来も何となく察したのでしょうか。 それが、どこか子供の発想っぽく思えて可愛いと感じたから大人っぽい笑みとなったのか。 ここからはようやく本来の目的である、みーちゃんの友達についての話題へ。 話題を切り出せば、みーちゃんはさっきまでとは違い表情に陰りが。 けれど、その理由が瑞季君も犯人探しに協力をしたいからだと知れば驚いたような表情へ移り変わり。 この行為に対する表現、それは借り物の言葉を用いたとしても瑞季君がみーちゃんの助けになりたいという気持ちは本物でしょう。 後々の事を思えば、自分に対してそういってくれる人と出会えたのはみーちゃんにとっての救いだったのだなとも。 いよいよ明かされるみーちゃんの友達の特徴。 当初の推理ではあの先生と予想はしていましたが、友達か?と言われたら冷静になると違う気はして…。 (小夜ちゃんの時のように、将棋なり遊びに付き合っていたなら遊び友達ではある?と若干無理はあっても言えなくもない?) それよりは、今作が狐の窓の続編である事。 と考えると、笑わない?という問いかけや彼女の服装が“黒”のワンピース姿…黒いもや、野良犬の低級霊も候補としてありえるはず。 「犬なの」 あ、やはりそちらでしたか…。 という事はこのみーちゃんはやはりそちら側の存在なのが自動的に確定して……。 それに対し、何も知らない瑞季君が馬鹿になんてするものかと気持ちを理解している事は素直に好印象でした。 自身の感じていた孤独と合わせ、友達を失えばその分寂しさがもっと強くなるのだとどこまでもみーちゃんの気持ちに寄り添おうとした事。 そういう部分がどこまでも、あのお婆ちゃんの孫だなぁというのでしょうか。 そして、神社に行き手に入れた情報を葦島さんに伝えれば元から薄々とあった心当たりが核心になったのでしょう。 素直に読み取れば、子供が犯人探しをするなんて危険な行為だから出たのだろう制止の言葉。 殺人でこそないとしても、動物であれ容赦なく殺せるのなら犯人が危険人物なのは違いはないでしょう。 しかし、葦島さんには明確にこれまでの情報から全てがわかっている。 その友達はかつて瑞季君のお婆ちゃんに飛びかかろうとした犬の霊であり、復讐の対象は他でもない自分である事を。 そこから様子が豹変する瑞季君は、みーちゃんの持っていた復讐心等といった感情にあてられてしまったのか。 魂だけの状態である分、剥き出しであるから影響を受けやすいのか? 葦島さんが真相を伝えようとしても、耳を塞ぎながら走り去っていく瑞季君。 帰宅後も、こっそり狐の窓でお婆ちゃんの正体を確かめようとした結果どこでそれを知ったのか問いただされる事に。 そこでお婆ちゃんが言う言葉の意味は、狐の窓において彼女が葦島さんから忠告された事であり実際に身をもって知った出来事でもある。 だからこそ、必死にもなるでしょう。 けれど、瑞季君はまたも逃げ出してしまった。 結果、行きついた先でみーちゃんとぶつかり自分が今どんな顔をしているのか理解する瑞季君。 自分が強くあれない事、みーちゃんに頼られる男で在りたいと思いながらそれには力が足りないのだという悲しみ。 みーちゃんは、自分の為に瑞季君がそこまで思ってくれるだけでも嬉しいと抱きしめ…結果として犯人をどうにかできてもあの子は帰ってこないと言葉をこぼす。 …あれ程、犯人探しや復讐に執着していたのに? 次の台詞と、聞いたことのない音さえなければ…復讐は何も生み出さない論や自分の為に親身になってくれた瑞季君に触れて何かが変われたとか良い話もありえたかもしれませんね。 しかし、ぞぶ……。という音と共に瑞季君の中に入っているみーちゃんの腕。 魂を狙われている事、助けを求めようにもお爺さん…葦島さんの名前を瑞季君は知らない事。 名前を知らないという事は、助けを呼ぶべき場面でその相手がわからないという事でもある…? その点から最悪の状況を想定しましたが、ちゃんと助けがやってきた事に安堵しました。 そして直前まで自分を害しようとしていたにも関わらず、幽体故に身体に穴が開いてもそこに何もない…明らかに人間ではないみーちゃんを心配するというのも底抜けに人がいいというのか。 ただの惚れた弱みだけでもない、瑞季君の持つ善性なのだろうなと思います。 瑞季君が気を失っている間、視点は葦島さん側へ。 やはりみーちゃんとその友達の正体は予想通りであり、彼としてもまさか自分の行いが今回の事へ繋がるのは想定外だったでしょう。 生者でもなければ死者でもない葦島さん。 流れを見るに、まだ肉体が生きているものの魂を使えばその犬の霊も復活できたのでしょう。 だから作戦を切り替えて瑞季君の魂を奪おうとしたが、失敗をした。 不可抗力というか、もしあの時葦島さんが犬の霊を祓わなければ瑞季君のお婆ちゃんは無事じゃなかったでしょう。 だけど、それはみーちゃん側にとっては知った話ではなく『勝手に彼方の世界を覗いた小娘のせいで、その小娘を守る為に友達を理不尽に失った』 元を辿ればあの時お婆ちゃんが狐の窓をしなければ良かったという話になります。 それでも、葦島さんが言う「私が君の望みを叶えられるのなら、そうしてあげたいんだけれど」という台詞。 直接手を下したのは自分だった以上、責任として命を差し出せるなら死ぬ前提でいた事。 けれど不完全な、命の様な物しかない葦島さんはその命もなければみーちゃんがどんなに願っても殺す事はできない存在である。 謝る以外に何もできない葦島さんに対し、その髪を掴んで苦痛に歪む顔を見てやろうとしても困惑を浮かべるだけであり。 彼に、魂だけでなく肉体すらない。 みーちゃんから、同情のような響きも含んだ声が思わず漏れてしまう辺り、それは本当に特殊な状態であり本来ならありえない事なのでしょうね。 となれば、もうみーちゃん側にできる事はなく。 このまま留まり続ければやがて悪霊になってしまうかもしれない。 ならばせめて、自分にできる事は…。 その時、瑞季君の名を呼ぶ悲痛な声がして。 長い年月の果てに、知っている物とは変わっていても…もう一度聞きたいと願っていたあの声。 母と似た声を持つ、時代が流れて誰もが忘れてしまっても…自分位は、なるべく覚えておこうと思った…。 すっかり老婆の姿となった彼女は、孫に駆け寄っていく。 かつて、彼女の中に見出した母性は今も在るべきものとして存在していた。 だからこそ、大切な孫を害したであろう少女の霊に対し向けられる強い眼差し。 それを見届けた葦島さんは、全ての責任は自分にあり少女の霊は悪くなく瑞季君を巻き込んでしまった事を詫びた。 ここも、簡単な言葉で表現するのなら人柄というのでしょう。 確かにあの犬の霊を祓った事で少女の霊から友達を奪ったのは葦島さんではある。 けど、それだって元をただせば始まりは遊びとして行われた狐の窓であり、それだって一度忠告をされたのに行われた事だった。 関係者の誰にも、悪意はなかった。 子供特有の好奇心から狐の窓をしてしまった事も。 その結果出現した犬の霊に対する行いだって、目の前で襲われそうになっている人がいたから助けただけにすぎない。 自分勝手な理由だとしても、理不尽に失った友達を取り戻したい。犯人に復讐をしたいと長い時間苦しんだ末の強行はある意味…祖母が払うべき代償を孫の代に持ち越した因果とも言える。 そう考えると、確かに生きている人間の目線では少女の霊は間違いなく危険な存在でしょうが完全な悪と断じる事はできないと思いました。 そして、体に穴が開きながらも瑞季のお婆ちゃんに飛びかかろうとするもすでに少女の霊は力が弱っている状況。 瑞季君が涙を流したように、彼女もまた自分の弱さを悔いる一人でしかなかった。 生きるには弱い存在であった事。 しかし、未練が残ったせいで死んでも死にきれないままでいた事。 弱い物同士でも、友達がいた事は救いだった事…。 けれど、今ようやく未練がなくなった事で彼女は消滅しようとしている。 その中で思い出す、瑞季君と話していた時はあの子と一緒にいた時のような気持ちに近かったという事。 もう、誰にも名前を呼ばれなくなって久しい彼女に「みーちゃん」とあだ名をくれた彼。 夕陽の中、様々な面を見せていた彼女は間違いなくあの時はただの少女とかわりないものだったのでしょう。 友達をなくして復讐の為に存在し続けた彼女へ、友達になろうと言ってくれた瑞季君。 あだ名を付けてくれたという嘘にも悪意はなく、友達として親しみを込めてつけるあだ名という概念が純粋に欲しくて嬉しかっただけなのだと。 だから、情報を求める為とはいえあの子話題からなくした辛さを思い出した事で表情が陰り。 それでも瑞季君が自分を助けたいという気持ちである事に驚きながらも心は和らいだ。 最終的に瑞季君の魂を奪いにいったのも、それが手段として有効なのはありますが 瑞季君の魂を使用してあの子が蘇るのなら、それは事実上同時に二人の友達とそばに居続ける事ができるから。 そんな意図があったのではないかと推測します。 消滅のトリガーは、もう彼女の復讐は果たせないという事実から。 けれど、少女は瑞季君と関わる事で報われた上でやっと成仏ができる。 死んだ時に悲しんでくれる人が誰もいなかったとしても…死後であれ、自分の為に本気で寄り添おうとして悲しんでくれる相手は現れた。 その事実は内緒のままで、優しく瑞季君の頭を撫でながら。 自分の時にはいなかったけれど、彼には心配してくれる人がいるのだからと戻るように促して。 あなたのくるべきはこっちではない、大事な人と同じ所で生きていて欲しいと突き飛ばした。 …感想文の為に現在2周目としてこの部分を読み返しておりますが、改めて解像度があがるというのでしょうか。 彼女の中にあった気持ちに触れて読み解こうとすると、自然と目元が潤む感覚がします。 最期に優しい人に出会えた事が、本当に良かったなと。 そして、ようやく意識を取り戻した瑞季君。 今までの不穏要素も誤解だったと判明し、まぁ良かったな!?と苦笑を浮かべ。 ようやく、葦島さんは老人でなくいつもの姿に戻ったようで。 知り合いだったような記憶も、お約束の認知の歪みによるものだったという事でした。 本来の姿を見ても恐怖心がないというのは血を感じるというべきか、それより恐れるべき事も…とても瑞季君らしいと思える内容でした。 肉体に魂が戻った事で、抜け出していた頃の記憶が薄れていくのでしょうか。 自分がみーちゃんと呼んでいたあの子の事を、自分は何も知らない上に彼女の事を思い出せる時間が少なくなっていく状況。 利用されてあげる事すらできなかった、それを悔いるのはほんっとうにどうしようもないお人好しなのでしょう。 本来なら恨むべきなのに、恐れるべきなのに、こんな事なら… 続きは制止されたけれど、自分の命を差し出すべきだったという気持ちがあるのだろうなと。 本当に、危なっかしくて仕方がない。 けど、そんな優しい瑞季君だからこそ大切にされるのはわかります。 そこまで誰かの為に親身になれるのは間違いなく美徳ですから。 だからって軽率に命は投げだすなよ?と念入りに…それはもう念入りに釘は刺しておきたいですけど。 そこから茶化した調子の流れになりましたが、まぁ…今はそれ位でいいのかなと。 君を大切に思っている人の為にも、生きてください。プレイしているお姉さんの望みも以上です。 そして、そんなノリの人が何人もいてたまるかという理由からあのお爺さんと同一人物だと確信される葦島さんには笑いしかありませんでした。 確かにこんな人はそうそういないよなぁ、色んな意味で。 さらっと温度差で風邪を引きそうになる位シリアスモードへ戻るBGM…泣けばいいのか笑えばいいのか、やっぱり泣けばいいのか…? とはいえ、その内容は当初もされていた通りとても重要な概念であり。 あだ名だって立派な名前である事。 名前というのは、呼ばれなければ意味がないという事。 だから、ほんの時々でもみーちゃんの事を呼んであげて欲しいというのはそれが叶わない葦島さん故の気持ちもあるのでしょう。 親から名前をもらう前に、名前もないまま死んでしまった胎児。 さすがに通り名というのか、現在名乗っている葦島という名前はないと何かと不便な事もあり自分で考え名乗ったのでしょう。 けど、彼には本来あるべき名前がない。 他者に付けられ、認められて…その過程も経験する事ができなかったのだから。 父親から祝福されなかった命なのだと、命名の意味を説明されれば嫌でもその事実を突きつけられこちらまで心が痛みを感じてしまう。 その願いはもう叶わない。 だとしても、その胎児だった存在は…例えば、母親に自分の名前を付けて欲しかったのだろう。 いくら求めても、彼の母親から受け取る事のできない母性のようにあまりにも与えられるはずべきだった物が彼には足りなすぎる。 シリーズとしても5作目までくれば、葦島さんの様々な面を断片的であれ見てきましたが本当の意味で彼にとっての救いはくるのだろうか? その生涯の結末に、何かしら幸があって欲しいと願わずにはいられません。 場面は切り替わり、誰か視点でのモノローグが始まる。 内容から、それは瑞季君が言っていた図書室にいた女生徒だとすぐにわかりました。 彼女もまた、思春期特有のあるあるで彼を拒絶するようになってしまった事。 けど、その行為に罪悪を感じながらいつか謝ろうと思っていた事。 そして、そう考えているうちに彼が事故に遭ってしまったという事。 生きていなければ謝る事はできない。 いつかでは駄目だった、すぐでなければ…人の命はいつ失われるのかがわからない。 チャンスはいつでもあるなんて思ってはいけない。 まだ、人の死から遠い子供だから余計に縁遠いと思ってしまうかもしれないけれど生きている以上死は常に隣り合わせであるのが事実。 本気で後悔をして、それでも瑞季君が生きていた事に安堵をして。 もし嫌われたとしても彼が生きていてくれて良かったと。 次こそちゃんと謝らなければという思い。 …思っていたら、そこには思った以上に元気な瑞季君が!? 魂が抜けていたのでそんなに酷い重症だったのかと思っていましたが、案外怪我そのものは酷くなかったようで。 とにかく、無事である分には本当に良かった…一応、葦島さんとのやり取りで生存確定はしっていたけども…それでも秋元さんだけじゃなくこっちまで心配させやがって!? けどまぁ、本当に不安だったのは間違いなく何も知らずお見舞いにも行けなかった秋元さんですよね。 瑞季君が大丈夫そうな様子に顔をぐじゅぐじゅにしながら泣き出してしまい、彼を困らせてしまう事に。 てっきり秋元さんが怪我でもしたのかと保健室まで連れて行けば、彼女の涙は自分が死ななかった事に安心しての物だったと理解をして。 この場面が、嬉しくても涙は出るという意味でかつて狐の窓にあったやり取りを連想させますね。 ようやく和解をできた二人は、一緒に泣き出してしまって。 瑞季君には、隣にいてくれる人がいた事を。 一緒に泣いてくれる子が隣にいてくれて安心していた事を思い出す流れに、心が温かくなりました。 そして、プレイヤーの涙腺への追い打ちは止まらないというのでしょうか。 場面は瑞季君の家になり、お婆ちゃんに手渡される茶封筒。 手紙が入っているとの事ですが、膨らんでいる?というのは少々気になりましたが……。 中身は、葦島さんから彼女へ宛てられた物であり。 本来なら、狐の窓の後日談としてこうして会う事もなかったのでしょう。 あえて名前も教えないままだった二人は、また運命のいたずらなのか再会を果たした。 関りは、成るべく少ない方がいい。 けれど同時に、彼女に自分の事を忘れて欲しくなかったのかもしれないという矛盾した感情。 だから、独り言として聞いて欲しいと書かれた伝えられなかった言葉。 当時は何故涙が出るのか、困惑したままだったせいか伝えられなかった… 「……此方こそ、ありがとう」 その気持ちを、手紙という形で。 あの時、私の手を握ってくれて、ありがとう……美命さん。 封筒が膨らんでいたのは、あの時返しそびれていたハンカチがようやく本来の持ち主の所へ帰る為だった。 何十年も経っているにも関わらず、綺麗に手入れがされた様子から彼がどんな思いでいたのかがうかがえて。 長い長い時を経て、ようやく知ったあだ名が忘れられる事はない。 ◆感想総括 まず、一旦語彙力を捨てさせていただきます。 作者様はプレイヤーの涙腺を壊す専門家でしょうか? 初見の時にも手紙の件で涙を堪えながら収録をする事となり、感想文の為に解釈を深めながら周回をすれば理解が深まる程に涙腺への攻撃が止まらない。 今回は登場人物も、立場の違いはあれ悪人と言える人がいない上にそれぞれの気持ちを考えると胸を締め付け物語にさらに深く引き込まれていく。 沼ですか?これが沼なのでしょうか? 正直、1作目の時点で充分面白いと思える作品でしたしシリーズとしてこれだけ物語を楽しめたので吸引された事は本望ですがね!? 本望ですけど涙腺問題と、文字を書く手が止まらないという意味ではなかなかに恐ろしい限りです。 勿論、誉め言葉の意味として。 動画の方をアップロードするまで少々ラグが出ると思うので、この場でも軽く触れさせていただきますと。 >何故か今回はとても爽やかで~自分で本当に分からないんですが、何で……? はっきり申します、それは作者様の持つ人柄ないし善性と断言させていただきます。 何かしらの手段で表現をするに辺り、人は自分の持っていない発想域の外の物は表現ができない。 それが経験による物か、それとも知識として知っている物から想像し構成されたかは不明としても。 本当に知らない事は、まず発想が出ない以上表現ができないのです。 といった内容を、動画内でも早口で語らせていただきましたのでこちらではこれ位で。 ここからは語彙力を戻し気味に真面目な感想を。 今回で5作目という事で、過去作との繋がり要素があるのはシリーズを遊んだ側としてはなかなか嬉しい要素です。 話として直接の繋がりがある狐の窓が主体なのはもちろん、先生と呼ばれた経験の部分では3作目の要素もあり。 概要の時点で老人=葦島さんはすでにわかった状態で進めましたが、老化という機能を得たのではなく別の姿でしかなかったというのもなかなかミステリアスな面が増えた印象です。 そして、これまでの説明でもある程度理解はしていても今回明確になった情報。 葦島さんは人間でも妖怪でもない存在であり、生者でも死者でもない。 だから黄泉平坂へ行く事も可能だったし、彼方の存在を見る事も干渉する事もできた。 けど、彼にあるのは「命の様な物」であり生きているとも死んでいるとも定義ができない事。 改めてその事を突きつけられるのはなかなか辛い物がありました。 1作目の時点で彼が定義の難しい存在となってしまった事はわかっていても、それを再認識する事になるというのは。 死ぬ事もできないというのは、終わりがないという事であり。 産まれていなかったのだから、死ぬ事もない…? 本当に、彼に何の罪もないのにどうしてこんな事になってしまったのか。 その中でも、子供の味方で在ろうとしたり相変わらずそういう自分が子供のようであったり。 ある意味、葦島さんのそういう部分で悲惨さが緩和されている所はあると思うのでプレイヤーにとっては中和効果があるとも言えます。 今回新しく出てきた人物としては、瑞季君があまりにもお人好しすぎて将来がちょっと不安な部分はありますね。 でも、彼はその分人に愛されもする人物でしょうからしっかりと悪い人から守ってくれるような人が周囲にいそうな気もします。 秋元さんとも和解できて、誤解がなくなった事で今後はまた日常にも楽しみも増えたでしょうから。 初恋の話を聞かれ、葦島さんとのエピソードを語りながらも好きでなく良いと思ったと語った美命さん。 ここは狐の窓で語られていた部分ですが、彼女がその後素敵な伴侶を見つけこんなにも素晴らしい孫に恵まれていた事は喜ばしいです。 同時に、またひょんな事から葦島さんと再会をしてようやく名前を知る事ができたという部分も含め。 ずっと名前が不明だった彼女が、美しい命と書いてみことであるというのも素敵です。 それは彼女自身が名は体を表す点でも、自分だけは覚えておこうと人間より人間らしい胎児だった葦島さんと向き合ってくれた人の名である事も合わせ。 ここから一体、どのように最後の物語へ続くのか? 気になる気持ちはありますが、終わって欲しくないというジレンマもあります。 @ネタバレ終了 長くなりましたが、やはり一言に集約すると 「ただただ感謝」 というような言葉になってしまいますね。 シリーズ5作目という事で、今回話として直接の繋がりとしては2作目を前提として遊べば問題ないと言えますがそれぞれプレイ時間が短い作品なので是非まだプレイをしていない方には1作目から遊んでいただきたいと思えます。 今回もまた、素敵な作品をありがとうございました。 次回作も、いつまでもゆっくりとお待ちしております。
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彼岸の花は夜に咲く尾猫シリーズを制覇するぞ!とワクワクしつつ実況動画としてプレイさせていただきました。 @ネタバレ開始 作品紹介のあらすじだけを見ると一作目を思わせるような不穏要素もあり、実際に本編としても途中まで「これは葦島さん激怒案件か…?」と不安になりつつ進めていました。 いきなりバーで盛り上がる場面から本編は始まり。 元・財閥の坊ちゃんという凪さんが取り巻きを囲んで盛り上がろうとしている場面、それを探しに来たであろう葦島さん。 面識はあるような感じだったので、今回はどういう知り合いなのか? ストーリーを読み進めてみれば、先程までのテンションは作り物だったとばかりになる凪さんが言えに帰りたくないと語り出す。 初見の際には、婚約者を妊娠させるだけさせて失踪をするなんて随分身勝手な父親がいたものだ…と女の目線から憤りはありました。 が、全てがわかると失踪というより結婚前にもう死んでいるのだから(表向きは失踪扱いとしても)そりゃ、そういう事になってたんだなぁと納得。 ……何で、お前みたいなのが、俺の連れになってたんだっけ? この部分で、一作目のように認知を歪ませてそう思い込まされているパターンだろうという事は理解しました。 となると、葦島さんにとって何かしら目的があって近づいたパターンという事も予想はできたので話の焦点となる『凪が父親のような人間だろうと思い悩んでいる事』と『そこから起こる/想定できる展開』に対してに用があるのだなと。 凪さんとしては、自分には父親と同じ血が流れており見た目としてもその特徴を色濃く受け継いでいる。 父親としての責任を果たさず失踪した父親のように、見た目だけでなく内面だってそっくりなはずなのだと思うからこそ立派な人達と一緒にいる事が辛く感じてしまう。 だから冒頭のような、悪く言えば金持ちの腰巾着をして恩恵を授かりたいだけの空虚な取り巻きの中にいる時が彼にとって現実逃避のできる時間だったのでしょう。 しかし、独身時代ならともかく結婚をしているなら家庭もある以上ある程度責任や行動も慎むべきというのがあるべき形なのでしょうか。 きっと、凪さん自身もそういう意味で家にいる方が正解なのはわかっている上で…それでも自分とは違う伴侶のような立派な人達といる事から逃げようとしている。 正直、個人の考え方として親がクズだったとしてもその子もそうなるかは別だと思ってはいます。 悪い意味の英才教育として、親のクズな部分を学習した子供はそうなる可能性が上がりそうですが凪さんの場合はまず父親の顔も知らない訳ですし。 元であれ財閥の坊ちゃんという事は、母親である名家のお嬢さんとされた人が育った環境で育てられ教養は学んでいそうです。 だから心配しすぎといえばそうだと思いますが、大事なのは凪さん自身がどう思っているのか。 日本人では見かけない色素の薄い髪と特徴的な瞳。 その外見が嫌でも血を感じさせてしまう、現実を突きつける鏡になってしまう事。 そこから悪い方向へ考えが囚われた彼は、ただ事実から逃避をしたくてたまらない。 そして場面は変わり、凪さんの妻である薫子さんと葦島さんが会話をする場面へ。 時間帯は昼という事でしたが、どうやら夜だけでなく日中も家にいたくもないとばかりに凪さんは外へ出ているようで。 それに呆れた様子を見せる葦島さんと、擁護をする薫子さん。 そこで唐突に明かされる、薫子さんが現在妊娠二週間という事実。 葦島さんの正体が産まれる事のなかった胎児と考えれば、そういった事を見抜く能力があるのは想定できましたがまだ外見での判断も全くできないのに言い当てた事は何も知らない人から見れば不思議な事でしょう。 葦島さんの言葉に、それでも普段の夫は良い人だと反論する薫子さん。 ここは作中にある通り、伴侶を否定されて気分の良い妻は居ないといえばその通りですが…。 「――――私の母も、同じ様な事を言っていたんですよ」 葦島さんからの、この台詞はあまりに実体験だからこその重みが違い過ぎた。 彼の、彼を腹に宿したまま亡くなった母親だってきっと最初はあの男を良い人だと思っていたのでしょう。 少なくとも、運命の相手とまで思っていたのに…結果的には、自身を死に追いやったのですが。 だからこそ、葦島さんの薫子さんの力になるという言葉は自分のような不幸な子供や母親をこれ以上出さないという覚悟の表れでしょう。 今度こそ、というのも自分の母は救えなかったけれど他の母親となる存在は守りたいのかと。 ここは後から読み返すと、そのままの意味でも解釈できますが葦島さんにとっては彼の父親から続く因果でもある。 だから、今度こそというのはあの男から続く不幸な母親と子供という連鎖を断ち切る為にという意味での今度こそでもあったのかなと…。 さらに場面は進んで、薫子さんの妊娠を知った凪さんと口論になるところへ。 凪さんは自分だって知らなかった事なのにと言いたげですが、まず普段家にいない彼に薫子さんが相談なり言葉を交わせる時間は少なかったでしょう。 葦島さんは能力という形で先に知っていた特例としても、もし凪さんがまともな父親になりそうなら何も言わなかった事を合わせ。 「俺だって知らなかった」と言おうとしたところで被せられる「知りたく無かったんだろう?」という確信。 君は父親にそっくりだ、父親になるべき男じゃない等の言葉から「あ、これ死んだな?」と予想しましたが、正直この先は想定外の展開でしたね。 だったら死んでしまえとなる展開と予想をしていたので、凪さんが何故判っていながら「言うな」と止めようとしなかったのか? と思いきや…堕胎を提案される事になった。 確かに、早期ならばそれだけ母体の方も負担は少ないのでしょうがそれでも堕胎という事は命を奪う行為でもあるのに…。 自分が責任から逃げたい、それだけの為に、自分から言い出して責任を背負いたくないから誰かが言ってくれるのを待っていた…? 父親が失踪し、歪んだ経緯ながらも財閥の息子となったとなれば当然周囲からの視線は冷ややかな物だったでしょうしそれ自身は凪さんの責任でも罪でもないでしょう。 だけど、父親になる覚悟もないのに行為に及び妊娠をさせてしまえばその責任から逃げたいというのは紛れもなく彼自身の問題。 なのに彼は、その言葉をのんでしまった。 表面上は笑いながらも、自分なら案内もできるから安心するように言う葦島さんとしてはどんな気持ちだったのか。 この先、凪さんが責任に耐え切れなくなり母親諸共亡くなるように仕向ける可能性よりは良かったから? 確かに彼なら、以前にも黄泉平坂に行けたので命を奪われる赤子に対し彼岸への案内はできるでしょう。 だけど、自分のように誕生を望まれないまま目の前にいる父親であるはずの男が我が子の死を望んでいるのに……。 ここを思うと何とも複雑な感情が入り混じります。 何事もなく産まれる事ができ、祝福される権利はどの命にだってあるはずなのに。 でも、凪さんが責任を取れないどころか最悪の場合を想定するなら今子供は犠牲となっても薫子さんが生き延びる可能性を残した方がいい。 しかし、それを産まれる事すらできなかった葦島さんにさせるというのはあまりにも残酷すぎる話ではないのか? 凪さんが意識を失い、次に目を覚ますとそこには凪さんの望みを叶えようとベッドに横になる薫子さんの腹へ手を伸ばす葦島さんの姿が。 意識が、映像が鮮明となり目の前で何が行われようとしているか認識した凪さんは頭より先に身体が動き薫子さんと葦島さんの間に立ちふさがる。 口から出る言葉は情けなく、まともに発音できてもいないのに。 顔だって青褪めて、震えているというのに。 「……如何して?君が自分で言ったんじゃあ、ないか」 考えてはいても、責任を負いたくないから誰かに言って欲しかった。 我が子という責任から逃れる為に堕胎をしてもいいのだと。 なのに、それを妨害しようとする今の行動は明らかに矛盾している。 「気の迷いだった?そうかな?生まれて来た子は、後悔するかも知れないよ?君みたいにね」 他でもない、凪さん自身が無責任な父親のせいで苦しんだ被害者でもある事。 それを、その愚痴を今まで話していたという記憶。 ここも個人的な意見ですが、子供は親も自身が産まれる環境も選ぶ事はできない。 ただ、生物の仕組みとして作られる条件が揃えば生命は宿ってしまう。 それを後天的に理由をつけているだけで、本当に子供自身が親や環境…全てを理解し産まれる事を望んでいるはずがない。 芥川龍之介の河童でもないのだから。 実際、凪さん自身だって産まれる事こそできたけれど後悔の多い道のりだった。 自分は別に産まれたくなど無かった。 失踪する位なら、何故自分を産ませたのだと悩んで悩んで…全ての重圧から逃げたくてたまらないと考えるようになってしまった。 それでも 「――――産まれる前に死ぬなんて、可哀想じゃ無いか!」 後悔があまりに多い人生だったとしても、それでも産まれなければ悩むという事すらできない。 生を受けるという事は幸せな事ばかりではなく、当然悩みの連続でもあり。 それを痛い程知っている凪さんでも… 後悔すら、出来ないなんて、そんなのは、余りにも。 それが、これまでの道を歩んでも彼が持っている考えだった。 この言葉は葦島さんも想定外だったのか、表情が固まり今までに見せた事のない色を見せ…そして、悲しそうに笑った。 凪の言葉を聞いて安心したのでしょう、凪と凪の父親は違う人間なのだから大丈夫。 君は、大丈夫だよと言ってどこか安心したようにも見える様子でした。 そして、それからどれ位の月日が過ぎたか。 凪さんと薫子さんの間には可愛らしい少女が産まれ無事に育っていた。 両親とはぐれ、葦島さんと会話をし両親のいる場所を教えてもらう瑠子ちゃん。 変な格好のおじさんに会ったと報告し、その特徴を説明すればその人物が葦島さんだとすぐに気づく凪さん。 おとうさんも会ったことある人?と聞かれれば彼は答える。 お前の名前は、其の人から貰ったのだと。 …凪にとって腹違いの兄であり、産まれる前に死んでしまった蛭子から貰ったのだと。 だけど、娘には『昔からの友人』と伝え。 瑠子ちゃんは、今度会ったら自分の由来を教えようと言い。 その顔は凪さんが苦しむ事となった青い瞳が美しい顔立ちだった。 血は、時に逃れる事のできない呪いになるかもしれない。 だけどそれに打ち勝てるかは、今を生きるその人の覚悟次第だった。 ◆感想総括 あとがきに目を通し。 言われてみると、確かに3作目のあとがきで毎回男がクズなのも~とか変化球が~と書いてあったような?とここで思い出しました。 クズにちゃんとした立ち絵(容姿がしっかりわかる物)はいらねぇ!!というこのノリ好きだわ~…と一発で惚れたと言いますか。 あの演出?が結果的に今回の伏線になったのは素直に凄いなと思いました。 そこで不明だったのもあり実は凪さんが伊皆と顔が同じというのも、推理できる要素がなかったので外見が判明してもそういう人もいる程度で読み進めていましたが…。 考えてみれば、今回語られていた凪さんの父親に関する情報(家庭環境)を含めると何故あの男が美貌に恵まれていたのか? 自分の生い立ちでお涙頂戴ができるというのも具体的にはどんなエピソードだったのか? ここに対する解答が得られました。 一作目と繋がっている事を疑っていれば…確かに伊皆は葦島さんに処されたので失踪扱いにならざるを、はその通りでしたね。 (これ、結果的に被害は減らせたかもしれないけど失踪事件に関してなら、腹違いとはいえ実の弟にも結構根深い問題残してない?葦島さん……というのは結果オーライとして) 単に葦島さんの出自を考えれば無責任な父親というのは憎むべき対象だから辛く当たっていたのだろう。 そして、母親となる人物の身を案じるのも当然だろう。 その程度で読んでいましたが、相手があの男の血を受け継いでいる自分の弟だからこそ同じ間違いをする可能性を高く見積もっていた。 だから悲しい事だとしても、自分や自分の母のような被害者を“今度こそ”出したくなかった。あの男から始まった事としても。 でも、葦島さんも言っていた通りに似ていたとしても別の人間である事。 何度自身が人生の中で産まれたくなかったと思い後悔を繰り返し逃げたいという欲求に負け続けていたとしても、肝心な部分からは逃げなかった。 その上で「産まれる前に死ぬなんて、可哀想じゃ無いか!」 そう言い切ったのなら、その血は顔に色濃く表れていても間違いなく違う人間である事の証明でしょう。 あとがきで作者様も述べている通り、この言葉は葦島さんにとっても本来なら父親に言って欲しかった事も合わせ救いがありました。 葦島さんに対する救済でもあり、後悔の多い人生の中を歩んだとしても…それでも産まれる事もなく後悔すらできないよりは良い事なんだと凪さんが言った事は。 前述した通り、子供は自身の意思で産まれたいかを選べない。 その上で、当人に落ち度はないのにどうしようもない理不尽に遭遇する事だって珍しくはない。 凪さんもまた、そんな一人でありながらも辛くとも生を授かるという事を肯定してくれた。 だからこそ、言葉に対する重みというのでしょうか。 気持ちの上で救われたと思える部分がとても大きく感じます。 最後の場面で、娘に葦島さんの名前から貰って瑠子と名付けた事。 それは凪さんにとって、産まれて来る事もできなかった兄の名を貰うという事で家族として過ごしていく意味でもあり…。 疑似的ながら、あの時産まれる事のできなかった葦島さんが疑似的に生を受けているようでもあり。 ジャンルである、産まれて来なかった君に「また会える日を楽しみに」 これが彼岸花の花言葉にかけているのも合わせて好きです。 本編の内容としても様々な彼岸花に関する要素を入れつつ、そう思える終わりにしているという点が本当に大ッ好きです。 @ネタバレ終了 折り畳み部分が長々としましたが一言にまとめますと 「ただ、感謝しかない」 全てはそれに尽きます。 今回も素敵な作品をありがとうございました。
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誰が殺した小夜啼鳥を尾猫シリーズを制覇するぞ!とワクワクしつつ実況動画としてプレイさせていただきました。 ―誰がコマドリを殺したか?それは私よスズメがそう言った。 概要にある通り、殺したのは誰?という部分を想像しつつ楽しませていただきました。 @ネタバレ開始 先に一言置いておくと、確かにこれは葦島さん激怒案件待ったなし…!! 始まりの話→ハートフル→悪意と殺意、という温度差で風邪を引きそうになる位、毎作彼の違った面を知る事ができるという意味で良かったです。 根幹の部分はそのままで、一作目を思い返して思わず「それ言っちゃうかぁ~!?」となる場面も多々。 ここまでくると、プレイ目的もすっかり葦島さんの行動を観察して楽しんでいる部分が大きくなってきましたね。 あとがきでも作者様が彼を気に入っているので今後も出番があると記載がありましたが、需要はここにもあると声を大にして言いたいです。 では、話を本作本編の方に戻しまして。 後から再度物語を読み返すと、この時点であった!となるあちこちにあった伏線。 そして、意味を理解したからこそ何を示していたのかわかってしまった白黒で描かれる断片的な情報。 基本は顔のわからない形式で人物が表示されるからこそ、顔がはっきりとわかる場面が引き立っていく。 それは愛らしい表情だったり、隠しきれていない敵意だったりと…。 タイトルから、最初は小夜ちゃんは女の子かと思っていましたがいざプレイを始めると男の子?となり、最後にはやっぱ女の子だった!!と完全に作者様の掌の上で転がされました。 気付いたら知らない場所で知らない大人の男に声をかけられる小夜ちゃん。 案内をしてくれるという申し出を無視し歩き出した後、肩に触れられた際に思わず出た拒絶の反応は初見だとただの知らない大人を警戒する物として見えましたが真相を知ると違う意味になってしまうのが良いですね。 『其の後に起こる事を予測して、震える肩』というのもてっきり手を弾いたから腹を立てた相手に何かをされると思っただけだろうと思っていた…頃がまだ幸せでした。 実際は、大人の男(先生)にされた行いからの警戒が無意識に出ていた…のでしょうね。 そして、その対応に対し『小夜ちゃんは触れられるのが怖いから』と思って納得する葦島さん。 この辺りは変に人を疑わないというか、純粋ないつものだなぁと思いましたがその後に自分にも怖い物があると『階段』というワードが出た時には 君が言うとほんっとにシャレにならないもんな!? と、ブラックユーモアすぎて笑うしかねぇ!となってしまいました。 確かに死因だからなぁとはなりますが、彼自身が今も手摺がないとどうにも駄目という辺りそういう点でも笑い事じゃないのは根深いですね…。 今思うと、葦島さんが小夜ちゃんへ学校についての話題を振ったのはただの興味本位な偶然かある程度目星を絞る為の質問だったのか? ここは不明ですが、産まれてもいない彼にとっては学校へ行くという生きていれば当たり前にできたであろう事も憧れる事なのだろうな…というのが何ともやるせなさを感じます。 それはそれとして首が180度捻じれている様にすら見える(彼の体質的にできないとも思ってないので比喩ではないかもしれない)勢いなのは突っ込みを入れながら。 まだ葦島さんの服装が一作目の時と同じだったので、多分時系列としては二作目冒頭よりは昔?程度で捉えていましたがそこはまさか彼の正体が…と思いつかない事を想定すると勘違いをしてもおかしくなさそうですね。 (実際、時代的な話としては彼が産まれるはずだった頃ならそういう事も本当にありえたのでしょうが) 唐突に挟まれる回想。 どうやら先生の視点らしく、さっきまで名前がわかっていた小夜ちゃんの名前が不明になっており『篠上』と呼ばれている? 田舎の学校という事で、2学年ごとに1教室にしている事もあり6年生の彼女は色々あって他の生徒から浮いた存在だった。 先生としては彼女の事を気に入っており、彼女も何だかんだ先生の事は気に入っている様子。 片親の家だと何かと大変というのは理解ができたので、気に掛ける気持ちはわかるかなぁとこの時点では微笑ましく見ていられました。 学校であった事を語る小夜ちゃんに対し、学校に関する知識が乏しいのか将棋も勉強の一種なのか質問をする葦島さん。 この辺だと、センセイやショウギという単語がカナ表記なのが音は知っているけど意味までしっかりわかっていない感じなのもあってまだ知識を学んでいる幼さを感じさせます。 本来ならすぐにわかりそうな、将棋をする自分は他の子とは違う!という自尊心も素でわかっていない辺りもある意味素直というべきなのか。 「頼れる人が一人しか居ないのは……危ないよ」 軽い会話のドッジボールから出てきた本気であろう心配。 本来、子供でなくても頼れる先が多いに越した事はありませんしそれが子供ならば猶更多い方がいいのはその通りでしょう。 ここは結果論と無意識もあるのかな?という推測ですが 「……先生以上に、先生みたいな事、言うんだな」 この返しが自身の立場を悪用し自分に依存させ洗脳させる事で言う事を聞かせようとした教育者崩れの行動と、真に子供の未来を案じるべき人の言葉として出るはずの物。 その対比から出たのではないかと2周目では感じました。 そして、先生は放課後も勉強を教えたりするから大変だという説明から再び始まる回想。 そこでは帰りが遅くなっても父親の帰りが遅いので心配される事がないと語る小夜ちゃんに勉強を見てあげる先生が。 会話だけ見ていると多少の違和感?若干すれ違いのような物がある印象。 そのままでも、自分を気にかけてくれている好きな先生に照れている生徒という解釈はできますが… 後の回想も合わせると恐らくここは小夜ちゃんの台詞はそのままだと思えますが他に捏造なり改変があったもおかしくない気はしますね…。 特に気になったのが 「……うん。分かってる。分かってるよ。先生」 ここの部分でしょうか。 その後の、段々と様子がおかしくなっていったという部分は真実を知った後から見れば恐らく嘘を広めようとした辺り付近と考えた方が自然。 ならばこの帰りが遅くなる事や、何かに対して分かってると返す部分は本来の会話では違った意味っぽいなと。 なので、先生側の都合の良い回想という前提を踏まえると…ここで本来あったはずの先生の台詞は不純なそういう事をしてる際の、と予想します。 初見だと、何故そこから小夜ちゃんがおかしくなってしまったのか。 大人の男が怖い?というのも唐突ながら疑問でしたが、家庭内暴力を振るわれているのかと素直に解釈しました。 それなら早く助けないといけないし、とりあえず児童相談所は!?と思うも何故か先生は何もできないという考え方。 暴力の証拠として痣を確認するなら、それこそ保健室で保健の先生にも証人になってもらう&相談相手として妥当と思えるのに…。 何故、他の先生に相談するのは論外で 逆にこの先生の頭がおかしい奴扱いされると思ったのか? いくら回想の中では都合よく捏造しても、本当はそれをしたらおしまいなのがわかっていたから。 言ってしまえばそれが全てだったんでしょうね…。 その上で、学校にいる間位は~の部分を見ると眉間に皺が寄るのを感じます。 そして場面は戻り、嫌な事は思い出したくないという一般論を言う葦島さん。 嫌な事程自己保身の為に記憶を封じ込めようとする人もいれば、忘れられないでいる人もいるのでここはタイプによるなぁとも思いつつ。 ただ、二作目を思い出すとちょっと意外性はあったというのが本音ではあります。 父親への恨みというか、自分が産まれる事ができなかった原因でもあり情すらなかったのでそりゃ今の彼の在り方が成立する根幹に関わるし忘れはできないでしょう。 それでも、なるべくあの女性の事を覚えておこうとしていた葦島さんとはすぐには結びつきませんでした。 今作を通しての印象ですが、彼がある意味純粋でこの成り立ちに関する部分だからこそ接点を持った人の人間性でどちらの面を見せる…ある意味母体にいた頃まだ顔がなかったまま死んだからこそ鏡のような物なのかもなと。 そしていよいよ核心へ迫る一言。 「アンタが、自分の知ってる大人の男とは、全然違うって事がだよ」 最初に小夜ちゃんが怯えた様子だったのは大人の男という存在に対して示した物。 だったらそれは誰か? …考えてみれば、親子関係はさておき自分の父親を『大人の男』という括りで表現するのっておかしかったよなぁと後から、真面目に推理したらわかったかもという悔しさも。 文字通り、今の彼女は死んでも死にきれなかったせいで彼岸と此岸の中間にいる。 本来なら子供が来る場所じゃないというのも、産まれる事なく死んでしまった葦島さんだからこそ身をもって知っている悔しさ等があったでしょう。 だからこそ、その原因が判明すれば力を貸すのも予想はできた結末でして…。 次の回想は、すでに手遅れになってしまった後の事。 父親に殺されてしまったという部分だけ聞けば虐待の結果とうとう…と何でもっと早く止めにいかなかった!?という感情に溢れましたが…。 初見でも、何故そうなったかの経緯予想がぐちゃぐちゃしているというか…明らかにおかしな事は言っているのだけわかるけど、という印象でした。 そして繋がる世界。 今まで彼方側(正確には境位の場所?)にいた葦島さんと先生のご対面。 ここで今までと違い、葦島さんの姿が完全に目に見える状態へ。 本能の訴えというのも、葦島さんが100%生物のカテゴリとして人間と言えないからかな?程度に思いましたがこれも自分が制裁を受ける事への察知だったのか。 それでも、後ろ暗い事がなければ名乗るだけならそこまで問題でもないはず…。 からの、剥がされる爪1枚目。 やけに暴力的な手段できたな?と思いましたが、再度問いかける葦島さんの言葉はさらに詳細が足されており。 篠上小夜さんを苦しめた、という部分が付け足されている。 それに対し取り乱す先生。後々から考えるとこの時点で駄目な部分が露呈してる方向性の言い訳をしていたなぁ?と爪が剥がされる様子を眺め。 そして、やっぱ少女で良かったじゃん!?となる事実の確定と先生の罪が明らかに。 これは地獄行待ったしという事実の露呈、もはや問答でなく拷問と化した爪を剥がす作業。 「でもね、余りにも貴方の生き様が、私が知る人間に似ていたものですから、つい」 ここで見せた、今までに見た事のない憎悪に満ちた葦島さんの表情。 自分の父親の時も殺す程度ではあれここまでの顔はしてなかったのに…と思うも、彼の言っていた嫌な事程忘れられないというのを思い返し。 こんな表情になる位という時点でそりゃ、そうだよなぁ…としか言えなくなりました。 全てが明るみになり、目の前に死んだはずの小夜ちゃんがいたにも関わらずクズ思考全開の言葉しか出ないならここからの流れも全て納得でしょう。 教師が見た中で一番晴々とした笑顔。 そう表現される笑みと共に襲い掛かる衝撃。 ここでBGMがショパンの別れの曲というのが最高ですね(復讐をしてあの世へおさらばする為という点でも) 葦島さんとしても、父親のようなクズ男相手なので容赦もなし。 小夜ちゃんとしても、こいつに復讐しないと成仏できないのでやはり容赦なし。 からのコンビネーションというか、同郷の友の様に笑い合う微笑ましさ(※ただし周囲に血糊はあるとする) てっきり、少女の力では殴っても火力がでないから武器が必要だったのかな?程度に考えていましたが台詞からするに 「もう身体の一部とかに触りたくない」 だから触れなくてもいい凶器で痛めつけるのを選んだのか、と納得もしました。 これなら子供でも扱える範囲だし、直接触れないって意味でも結構合理的だなぁ? そして、再び流れ出すショパンの別れの曲を背景に肉塊ができあがり。 この、そこでこの曲を選ぶのか~と知っていればニヤリとしちゃうセンスがすっごく好きです。 目的が完了し、二人は反対の方向へと歩き出しそれぞれの行先へ。 てっきり肉塊にされた時点でもう死んでいるとばかり思っていましたが…。 肉塊にしても死なないで苦しみ続けるようにする為に、あえてあの場所で復讐はされたのだなという部分に抜かりないなぁと感心をし。 現世の様子を見ればやはり他にもターゲットにされていたであろう女生徒がいた事が示唆され…。 確かに、クズばかりが好かれるというのは嫌になりますねぇ。 と、葦島さんの出自を思えば尚の事深く頷くしかなく。 それでも今回に関しては、最後は某ゲームから好きな台詞を引用させていただきまして。 やっぱり復讐はこうじゃないとね。 @ネタバレ終了 予想は外しましたが、内容としてはしっかり楽しませていただきました。 一作目からここまで一日で連続でプレイ&感想を書かせていただきましたが、一旦本日はここで区切らせていただきまして。 また後日、残る作品も堪能させていただきたいと思います。 それでは素敵な作品をありがとうございました。
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狐の窓尾猫シリーズを制覇するぞ!とワクワクしつつ実況動画としてプレイさせていただきました。 見えない方がいい世界だってこの世にはあるんだよ…という期待感。 しかし、内容としてはホラーっぽく思わせてホラーではないという文言通り心の温まるお話でした。 @ネタバレ開始 前作から連続で遊んでいた為、葦島さんと思われる人物が出てきた時点ですでにテンションが上がる部分もありました。 が、何より彼が後に人の優しさへ触れる事があったという事に心の涙腺が緩みました。 >今は作り物のような顔をした蛭子さんが今後生きていく中でどんな顔を得ていくのか…そんなところに思いを馳せてしまいます。 と、いかにも長き別れとなった友を思うかのような気持ちから速攻の再会という後日談を知れたので勝手に驚いたとも申しますか…(とても良い意味で) 上記の部分に関して、表面的な顔(肉体という意味での)に変わりはなかったのでしょうが、子供らしい純粋な心を持ちながら生きていてくれた。 それだけでただ良かったと思えました…ほんっとうに……。 話を本作の内容へ移しまして 子供ならきっと好奇心で試したくなるであろう狐の窓。 私が子供の頃も何かしらおまじないやそういった不思議な呪文のような、オカルト要素のある物は流行っていた記憶があるのでここだけを見るならどこかにある日常ですね。 本来なら怯えて逃げ出してもおかしくないような容姿の大人に話しかけられても平然としていた主人公。 これは子供だからこそある意味大人以上に物の本質が見える、悪いものではないという事を察知できたというべきか。 それとも警戒心が足りないだけだったのか、単なる彼女自身の性格としての話だったのか。 「此方が見えるなら、彼方も見える」 狐の窓は単に見えない物が見えるようになるだけでなく、彼方からも視認されるようになってしまう事の危険性を教えてくれる葦島さん。 その場はその注意に納得したはずなのに、数日もすればその事も忘れてしまい狐の窓をしてしまった主人公。 このおまじない自体は狐の窓により異界を透視する隙間としての意味があるという事でしたが、逆に言えばこちらはあくまで正体を見破る事ができるというのみ。 隙間ができる=此方と彼方の壁を取り払う、という事になるのなら視認していない間は害のなかった妖が襲ってくるようにもなる事で…。 忠告された通り、窓の中に見えた黒いもやのような塊。 それはこちらを視認した瞬間、襲い掛かろうとする事に…。 結果として、葦島さんが助けてくれた事で何事もなく終わりはしましたがなかなか危ない場面だったのでやはり忠告は守っておくべきですね。 黒いもやに触れられるという事に対し驚いている主人公に対し、それ以上にいっぱいツッコミどころというか色々あるよね!?となりながら。 考えてみれば、狐の窓を使用した当人以外には恐らくあの黒いもやは見えていないでしょうしこれも葦島さんがそういう性質の人物だから介入できたと考えるともう二重三重に危なかったなぁ…となりました。 犬のような姿に見えたので、野良犬か何かの低級霊と判別されていましたがいくら低級霊でもそれに蹴りを入れて撃退できる葦島って結構強いな…? 会話や仕草がやはりどこか子供のような葦島さんにほっこりしつつ、彼の事情を知らない子供のやる事らしいといえばそうですが お兄さんは何なんですかと聞いて、答えを濁された結果から思いつきで狐の窓で葦島さんを見ようとしてしまった事。 ここは前作をやっていると、この後がどうなるのかが恐ろしく「やめるんだ!!」としか言えない展開でした。 人間とも人外とも言えない彼は間違いなくそのままの姿で見える訳がない。 じゃあ、それを見てしまったらこの主人公がどんな反応をするのか? それに対し葦島はどうしてしまうのか? というか、結果として問題がなかったですがもしこれが気まぐれで助けてくれた妖怪の化けている何かだったら知った事で口封じなり食べられても文句が言えない展開だよね? となかなかにハラハラしつつ。 葦島さんは産まれる事もできなかった胎児、それが何故かこうして生きている存在。 ならば見えた結果については当然そうなるよなぁと。 しかし、意外だったというのかそこで彼がとった行動は狐の窓をやめさせようと手を叩いた事のみ。 本来なら、勝手に人の秘密を知ろうとした上に恩人に無礼な行為をしている事も合わせ主人公が謝るべきなのに謝罪をして去っていってしまった。 そこで終わるなら、教訓と悲しみで終わりだったのですがさらに物語は続き。 大人になった主人公はあれから名前も知らない葦島さんを探し続けていた。 体に関してはきっと現状が完成系なのでしょう、服装は変わってもそれ以外は変わらない彼を見つけ再び狐の窓をする主人公。 ここでそうきたか!というのか、救われた…という気持ちもあったというのか 主人公は本当の姿の葦島さんに対してお礼が言いたかったというのがとても意外でした。 勝手に正体を見た事に対し謝罪をできなかった事も、本来するべきだったお礼をする事もできなかった事も悔いるのはわかります。 だけどそれだけなら彼を見つけ、ただその時できなかった事を伝えるだけでも良かったでしょう。 「本当の姿の貴方に」 子供にとってはトラウマになってもおかしくないような事でも、彼女は受け入れてくれたんだ。 その上で、葦島さんという一人の人物と真正面から向き合った上で伝えたいと思ってくれたんだ。 だからこれは、葦島さん当人でなくても嬉しくても涙が出るというのが痛い位感じ取れてしまってこれを書きながら私も涙腺とも戦っております。 子供のように純粋で、知らない事もある彼にとって嬉しくても涙が出るという知識がなかった事。 同時に、それはそういった経験が今までなかった事も意味しています。 母親は仕方ないとしても、父親にも愛される事も望まれて産まれてくる事もできなかった命。 そんな彼と向き合ってくれる人がいたのなら、それはとても幸せな事なのだなと。 何故、彼が主人公を助けたのか。 理由として声が母に似ていたとの事でしたが、やはりまだ赤子である葦島さんにとって無意識ながらも母親という存在は大きいのでしょう。 同時に、それと関係なかったとしても彼には子供の純真さ、故に人を助けられるような善性があると信じています。 結果的に、互いに名前も明かさないまま流れる歳月。 主人公が子供の頃から姿の変わらない葦島さんはきっとこれからも長い年月を過ごすのでしょう。 だから、そのうち忘れてしまうだろうから最初から覚えられない方がいい。 でも、自分は彼の事を覚えておこうと思い…きっと生涯を終えたであろうモノローグ。 けど、主人公がそう思う一方で葦島さんもまた主人公の事をなるべく覚えておこうと思っていた。 時代が流れて、誰もがあの人を忘れても。 今手元にある、返しそびれてしまったハンカチの元の持ち主を思い出せなくなる事はあってもそれは大切な思い出に違いない以上。 互いを相手を忘れないように思いながら、それでも名前は知らないままだったというのが何とも切ない終わりです。 そして『人間よりもずっと人間らしい』という彼女の葦島さんに対する認識には私も全面的に同意します。 最後に、あとがきにて前作同様結構ノリと勢いで作品が作られたという経緯が語られていますがその結果名作が生まれているのだから私としては「いいぞ!もっとやってくれ!!」 というエールを送らせていただきます。 それと『父親の血』というよりは子供らしく『母性を求めた結果』という方が認識としてはしっくりきたので、その辺の事は多分大丈夫と信じてます…! また、今後も妖怪ネタや伝奇ネタの際には葦島さんが出るかも?との事なのでそちらも期待させていただきます。 @ネタバレ終了 未プレイの方には是非、前作の『尾の無い猫は夜に哭く』をプレイした上で遊んでいただきたい。 すぐに読み終える事ができる事と、得られる栄養素が倍増するという意味でも。 と、心が浄化されました。 それでは素敵な作品をありがとうございました。
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尾の無い猫は夜に哭く実況動画としてプレイさせていただきました。 @ネタバレ開始 赤ん坊の泣き声と猫の鳴き声は何故かとても似ているように感じる…。 そんな日常で体験する既視感を上手く落とし込まれたお話だと思いました。 (また、最初の方で今回の犠牲者枠こと伊皆さんのお名前を素で読み違えていた事をここにお詫びいたします) 猫の鳴き声と思っていたのは、本当は何だったのか? 深夜に突然訪問する友人、しかしいつ出会ったのか…記憶をいざ辿ると何も思い出せない恐怖。 顔が口元以外わからない演出もそういう手法と思わせてからの、という意外性。 顔という部分が作られていないのなら、その部分を果たす其れは作り物のようなカタチになってしまうのかもしれない。 短くもぞわっとさせる展開に演出を詰め込まれた、ホラー的な栄養が濃縮されておりました。 作中でずっと伊皆が聞いていた、猫の鳴き声と表現していたのは正しくは赤ん坊の泣き声だったのに罪を認めない彼にとってはそれを正しく認識できていなかったのだなともう一度頭から読み込むと軽くぞわりとする物と少々の悲しさがありますね。 余りの回数の多さ=それだけ父の情を求めていたり与えられていたチャンスだった、と解釈すると。 雰囲気ホラーという記載から、最初は葦島さんと会話をするうちに怖い話でもする流れになるのか?と予想をしておりましたが予想外の方向できましたね。 本来なら、このこの~(えいえい!)と小突く時も肩とかダメージが入らない部位にするイメージがあったので、鳩尾を突いている時点で変人というか…個性的なご友人なのかな?と初見では思っておりました。 けど、この辺は本当に本人曰くの「妬みと憎しみ(自分と母親を捨てた上での幸せに対して)」と、まだ精神的に未熟なせいでそういう時に選ぶべき部位がわかっていない子供らしさもあるのかな?と解釈しました。 葦島が訪ねてくる前に聞いた声から罪を認めていれば一番傷は浅く。 彼に「捨てられた恨みを吐き出している様じゃないか」と赤ん坊の泣き声に聞こえてくると言われた際に認めればまだギリギリ許された。 しかし、綺麗な生き方をしていないと肯定しても「其処までは」という表現を使ったのが完全に破滅へのトリガーでしたね…。 挟まれる伊皆の過去、そして耐えられないというように吐き出される言い訳。 女を享楽の餌としか思っていない彼にとっては、相手の気持ちも宿った命もそこに価値はなく。 たった一回でも妊娠はありえて、しかも時代的に昭和初期となれば今以上に諸々の事情的に妊娠もしやすいと考えた時に否定できる要素なんてない。 それまで女相手には有効だった伊皆の表情も、捨てられた子供にとっては何の効果もなくそりゃ蹴られますよねという納得しかなかったです。 何より、それは葦島にとって「自分はお前の父親ではない」という拒絶の言葉だったのが一番致命的すぎて…。 七つまでは神のうち。 では、産まれる前に死んだ赤子は『何』になる? これも、後から水子ではないか?と思いましたが定義としては流産や人工的な中絶により死亡した胎児という意味で該当はしなかったんですね。 もしそうなら、天国へいける可能性はあったのに母親と同じく殺されてしまえばそれは何になるのか? それに対するアンサーとして『人間でも妖怪でもない存在』となると出されたのは好きな解釈です。 単なる神の子でもない、産まれてもいないのだからそれにすらなれない何かという半端にされてしまった事を思わせてくれます。 “顔”は社会で生きながら作られていく仮面でもあり、肉体の意味としては本来産まれるまでに形が作られているはずの物だった。 そう考えると、今は作り物のような顔をした蛭子さんが今後生きていく中でどんな顔を得ていくのか…そんなところに思いを馳せてしまいます。 最初、タイトルにある『尾の無い猫』は猫と鳴き/泣き声が似ている赤ん坊の比喩だろう程度に想定しておりましたが、まさか『臍の緒のない』という部分も含めての意味だったのには脱帽です。 臍の緒を失ったままこの世に生きる何者かになってしまった蛭子さんを意味するのなら、これはまさしくと言えるタイトルですね。 @ネタバレ終了 短いからこそ読み返しては意味を何度も反芻し思いを馳せる事ができる。 本当、短編だからその分栄養が濃縮されておりました。 素敵な作品をありがとうございました。
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僕らの都市伝説通常エンド6個分の感想からの続きです。 もう少し各エンド等について掘り下げた感想等となります。 @ネタバレ開始 これは人によってどの都市伝説から読み始め進めるか?でかなり印象は変わりそうですが、結果として軽いジャブになる『浦越西団地の宇宙人』から読めたのは正解だった気がします。 『浦越西団地の宇宙人』と『新興宗教エマラ・テッド教団』は日常侵食系でありながらも前者は柳沢君が宇宙人疑惑はあれどまだ死人が出ていない分、序盤のジャブか間に挟んでおくと箸休めの立ち位置になりそうな印象がしたので。 4人は無事(先生は除く)の分、エマラ・テッド教団の方が来年も犠牲者が出る事がなければ一過性の恐怖といつかは忘れられていく(忘れたいと思う)記憶として薄れていくだろうリアルな不思議体験になるそうな点も含め。 逆に、明確に4人の中から死人が出る 『耳をふさぐ女生徒』『カッパの幽霊』は前者が呪いを扱った直球のホラーでありながら実はあの田畑君にこんな話が…という部分が意外性として良く、彼が何を思っていたのか答えを求めずっと考え続けてしまいそうになる感覚が後味として好みです。 後者は一見すると広まらないハズレの場合もあるのかと思わせてから、ウワサを口実に死者の出る上に冒涜すれば連れていかれるしっかり怖い話だった締めくくりなのが変化球もありつつ途中にあった柳沢君の独白も踏まえいい終わりと思えます。 『宮白橋のおばあさん』は4人から死者は出ていないけどウワサの舞台にした場所で白骨遺体が発見されるという作らされた疑惑がある分ホラー感も強め。 かつ、実は嶋君が何かに憑かれているという問題は解決していない点が描写される事で、じわじわとした侵食でなく大き目の不穏要素を残しにいく展開として好きです。 後日お祓いなりに行っていればまだ…ワンチャン思い出話として済む可能性もあると判断すべきか悩むライン。 主要人物が4人もいればその人間関係に焦点を当てた話があってもいい。 『ガラガラ男』はその意味でも1話位こんな話が欲しいと思える需要にジャストな内容でしたね。 友達関係というと、基本は明るい部分だけを取り上げられながら進むのもありですが人間である以上その中でも抱えているコンプレックスとか闇の部分だって存在する事。 4人の誰かが加害者になる・都市伝説に成ってしまう、そんなパターンも確かにバリエーションとしてあったら面白い所ですし、それをこの話でこう絡めてきたのか…と。 順番としては、4人がどんな関係や人物かがある程度わかってから読んだ方が面白かったという点で最後に読んだのがこの話なのは良かったです。 ゲームの性質上、組み合わせとして6種類の話を用意するとなればそれぞれの話に色があった方がいいという点でこれだけお題が違うテーマとはいえ話が豊かな事。 被害規模(これは、主要人物である4人の安否を中心として)の大きさや、そのウワサを広める事で何が起こるのか? がっつり怖いホラーだけでなく、同じ恐怖という括りの中でも違い味付けを提供する事で緩急も生まれる。 感想文をまとめながら、これは間違いなく面白い理由しかなかったと改めて思いました。 被害に遭う時はみんなそれなりに大変な事にはなってますが、全体的に嶋君の被害率とダメージの割合が高いですね。 (カッパの幽霊で)1回死亡(おばあさん?に)1回憑かれ(田畑君が死んで)1回重めの精神ダメージ。 1回話によっては死んでいるという点では田畑君もそうなのですが、後はガラガラ男の際に殺されかけた以外は比較的軽症かなと。 寺尾君は宇宙人の件で1人だけ精神負荷を背負っているのを除くとむしろ加害者側に回るので…軽症?むしろ、精神的には重症なのか? 柳沢君は自分が宇宙人になる時以外だと、他の生存メンバーとそこまで差のないダメージ割合で済んでそうなので軽症でしょうね。 ◆各人物について ◇嶋君 その辺りを考えると、嶋君は憑かれやすい体質だったのか。 心優しい、当人に言わせれば事なかれ主義という事でもあまり自分を主張しないタイプなのが霊にしてみれば入りやすい条件だった所はありそうですね。 (他のメンバーに比べると一番隙が大きそうとも言うのか) メンタルはこの中では一番脆い分、カッパの幽霊の際には限界を迎えた結果連れていかれた事。 あの話では柳沢君の視点で話は進みましたが、元々立案者の片割れは彼だったと思えばその意味でも内心背負っていた物が重かったのが予想できます。 でも、行動を誤れば命がないのはこういった物語においてのお約束ですからね…。 ◇柳沢君 柳沢君は最初にあった紹介の通り、お喋りが好きで暇だから都市伝説を作ろうとこのゲームにおける発端になった人物であり。 行動原理や性格もあえて詳細に裏を読む必要もない位読んだままな人なのだろうと3話分の案内人としても仕事のできる好奇心が旺盛なだけの男子中学生でした。 ちょっとお調子者な所もあるのでそれが原因で話が進展し…結果は先生が誘拐される理由になったり自殺の口実を与えたりとロクでもない事にはなってますが、中学男子の目線という点では一番イキイキとした印象を受けました。 彼の視点ではないルートでも、基本はメンタルが強めというか必死に自分達の責任ではないと仲間にも言い聞かせようとした振る舞いが目立った印象だったからこそ「もう遊びたいなんて思わないから」というモノローグの重みも大きかったと思います。 ◇田畑君 田畑君は初見印象のまま進み、特定の話を読むかどうかで見方が変わるのが印象的でしたね。 クラスでも1、2を争う秀才であり、聡明で冷静である事。それ以外に関しても絵が下手な事以外は至って平均的な普通の少年。 だから彼の視点で物語を進めるとオカルトな事を科学的な理由で説明がつくと冷静に分析ができそうな分、語り手としては扱いが難しいと思います。 ですが、そんな彼だからこそ彼にとってわからない物と合わせた際に輝いたというべきなのか。 どちらも田畑君が大変な目に遭う話ですが、私はこのゲームで特に好きな都市伝説を挙げるなら『耳をふさぐ女生徒』と『ガラガラ男』の2本です。 秀才少年の意外な過去というべきか、距離の近い友達である寺尾君から見ても『何でもできて、自慢できることがたくさんある』と思われている彼に、実は彼よりも優れていた妹がいた事。 その妹の存在も、後日談として誰かのしている会話という形でのみ明かされた事。 もしかしたら、3人の中には妹の存在やすでに亡くなっている事について知ってる人がいないかもしれないと思うと…。 田畑君にとっては、隠しておきたかったか忘れていたかった事だったのかなと予想できます。 果たして彼は本当に、何でもできる人間だったのか? 「なんだかんだ言って本当に怖いのは、人間だと思う。身近にいる人間が恐怖の対象になるっていうのは………下手に幽霊の話をされるよりキツイんじゃないか?」 「不審者………とかの類になるのかな、こういうのは。リアリティがあれば、皆好んで話すと思う」 田畑君に案を聞いた際の台詞ですが『耳をふさぐ女生徒』の感想でも読後では重みが違ってくると前述した通り、さらに後々になると後者の台詞も結果的にはリアリティがあるを通り越してリアルになったという結果になった事でどんな表情をすればいいのか悩ましくなるのが好きで好きでたまりません。 ガラガラ男では、身近にいる人間がまさしく恐怖の対象となり世間的にいう不審者として都市伝説に成ってしまった事。 この話ではどちらかと言えば寺尾君側の方がまだ考え方というか、私と立場は近い分考えている事は読めたと思います。 だけど、妹の件を抜きに田畑君個人だけを見るなら彼が勉強ができ頭も良く、平均的という事は別段欠点もない(絵は除く)という一般から少し落ちる位置にいる者としては羨ましくて仕方のない対象でしょう。 特定の何かを当然にできる人にとって、それができない人が何故躓いているのかを理解できない。 自分の通っていない道は理解できないのが人間の相互理解を難しくする点でもあるので、いくら田畑君が聡明でもこれだけは理解できなかったというのが実に美しい。 ◇寺尾君 寺尾君は紹介を見る限りだとよくあるアニメや漫画等が好きなオタクであり、人並み以上にロマンを求めていた事。 おまけのキャラ紹介で判明しますが、実は創作小説を書いているという遊ぶ側だけでなく作る側としてもそういった物を愛していた事を把握すればそれが作中にもしっかり出ている裏が取れましたね。 彼を語る上で『ガラガラ男』は欠かせないというのはありますが、同時に何故この話だけ彼がおかしくなったのか? それは彼が立案者として関わる話の中で唯一、広がり方が順調だった事や介入の余地があったと気づけばこれ以外では起こり得なかった事にも納得がいきました。 『カッパの幽霊』は失敗の扱いかつ話は柳沢君視点でもう1人の主要人物が嶋君だった事。 『浦越西団地の宇宙人』は広まる気配が弱い上に自分以上に柳沢君が熱を上げていた事。 ついでに、宇宙人のモデルとして寺尾君が自身の住んでいる団地のおじさんを挙げていた時点で彼がそれ以上介入できる要素はありませんでした。 しかし『ガラガラ男』だけは完全に0から生み出した架空の人物であり、設定はあっても具体的なモデルとなった実在の人物はいない。 だから都市伝説らしく怖さもありつつキャラとしてのポテンシャルも秘めているとあれだけ歓喜していたのだと今ならわかります。 この遊びにおける当初の目的は柳沢君の言う、退屈な日常を面白くする為といった主旨であった事。 だけど自身の創作物への思い入れがある傾向を持った寺尾君としてはその結果生まれたウワサの完成度が良く、実際にウワサそのものだってかなり広まった方と田畑君が思う位には成功だった。 そうなれば、もっと自身の創作物が評価されて欲しい。ガラガラ男にはそのポテンシャルはあるはずだ。 ただのウワサの枠組みだけでなくそのキャラクター性から小説やゲームといった媒体に舞台を移してもいいはずだと思えたのでしょう。 休み時間等の使える時間を全てガラガラ男のウワサを拡散する為に費やしていた事も、そういった事へ熱を持つ人でない田畑君には理解のできない行動であり心理だった。 「な、何でもできて……自慢できることがたくさんある克明にはわからないんだよ!」 この台詞も、恐らく別段人に自慢できる何かがないと思っている寺尾君にとっては唯一熱を燃やし今まさに成長の可能性があるガラガラ男のウワサへ執着するしかなかった事を表現しているのでしょう。 シンプルな承認欲求とも違う、それは自分の作品をただ広めて多くの人に知られ愛されて欲しいという心理。 それが田畑君に理解できなかったのは仕方ないと思いつつ、どこかで止める手はなかったのか?最後の一線を越えないでいられる解答はあったのか? そもそもウワサ作りに関わらなければ良かったというのはなしで考えるなら、誰かが彼の心を理解するなりちゃんと何故そう思っているか話を聞く事は必要だったのかなと思いますね。 ◆真シナリオ 真シナリオという、大人になった4人の後日談。 かつて中学生だった彼らも今では30前半になり、自分達の作った都市伝説が今も地元に根付いている様子を微笑ましく見ている様子。 背が大きくなった事による物理的な景色の違いや環境の変化。 子供から大人になるまで時を刻んでいく事は、それだけ多くの変化を体験していく事ではあります。 だからこそ変わらない物がある事に嬉しさを感じるというのは、大人になったからこそ感じる視点というのでしょうか。 この未来では、当初の目的は果たされた上で実害もなく皆の日常の一部として馴染んでいった平和な歩みだったようですね。 基本的に本編ではそこそこの確率で死人が出ていたり、洗脳された先生がいたり、殺人鬼が生まれたりと大惨事しかなかったと思いますが。 とはいえ、もしも本編で作ったウワサを広めても何も事件が起きなければこんな未来になっていたのかもしれませんね。 友情が壊れる事もなく、日常に不穏な影を落とす事もなく。 また作るか?なんて冗談ぽく田畑君が笑うのも、本編を経由すると以前と比べ何となく彼が柔らかくなったような印象を受けますね。 「…いや、やめようぜ。それはまた、次の子達がやればいいよ」 かつて、自分達が遊びとしてやったようにまた次世代の都市伝説を生み出す子達もいるのかもしれない。 そうやって新しい物が生まれ、だけど形を変えながらも根付いて親しまれ続ける物もある。 あの頃の自分達の事を思い返しながら、そうやっていつまでも子供達の娯楽として親しまれていて欲しい。 綺麗な思い出としていつまでも残る、僕らの都市伝説。 …色々あったけど、これが一番平和であり4人がいつまでも友達でいられる…あるべき終わりなんだろうなとほっとしました。 @ネタバレ終了 それと、感想文をまとめるにあたって真エンドを見た後に不具合だろう点。 +プレイする際の手順によっては詰む可能性のある不具合があった為報告させていただきます。 @ネタバレ開始 真シナリオがタイトルに出ている状態で再び本編を遊ぶと、タイトルから真シナリオへ行く選択肢が消えました。 なので、そこから本来真シナリオを出すのと同じように全エンドを見る。 駄目ならもう1~2回何かしらのエンドを通過で解放されるという手順を試しました。 ですが、何周しても真シナリオが出てこないまま変化がなかったです。 一度タイトルから消えたら無理と判断し、真シナリオ観賞用のゲームファイルをもう1個DLして確保する事で解決をしようとしました。 しかし、全エンドを見る+真シナリオが出なかったのでもう+4エンドを見る→真エンドが解放されない と、以前なら有効だった対処法が効果なしでした。 全エンドを見た上でオマケの内容を全て閲覧している事も条件かと途中で試しましたがこれも空振り。 ただ、1つ不具合の条件になりそうな事に心当たりがあった為試してみた結果、原因がわかりました。 【最初に提案の内容を全員分見ている事】+全エンド回収(+今回は3エンドを追加で見た)がフラグのようです。 すでに各自の提案内容は把握している為、新規のゲームファイルを起動した際は提案を聞く過程を無視して話を作るようにしていました。 (提案を聞かないまま話を作る段階でセーブを取り、そこから周回をする流れ) これでは駄目だった為、配信時に成功した時との違いを比較した結果上記の提案がフラグではないかと行きつきました。 そこから提案を全員分見たセーブデータを作り、ここを起点に全エンド回収+1~2の流れを試そうとして結果的にまた全エンドを見る。 と進めましたがやはり出ないままでした。 もしかすると、途中から提案を見ても駄目なのではないか?と思ったのでさらに新規のゲームファイルを用意。 今度は最初に提案を全員分確認してから周回起点のセーブを用意し、全エンドを回収+3エンド追加で真シナリオへの解放を確認できました。 初見プレイならばまず、提案内容を全員分見てから進行すると思いますが万一うっかり飛ばしてしまった人がいた場合同様の不具合が発生するかもしれません。 環境はブラウザ版ではく、現在最新となっているDL版のデータです。 @ネタバレ終了 2つの提案を組み合わせて1つの都市伝説を作る事や、そこからできる話が予想外の内容だったりという面白さはもちろん。 持ち寄る提案の傾向や性格に、話を読み進める事で見えてくる4人の人物像を知る程に抜け出せなくなっていく深みがあります。 どんな話ができるのか、興味本位で試してみるもよし。 何故彼らがそんな提案を思いついたのか、背景を観察して考察するもよし。 どこか懐かしい雰囲気もあり、中学生の目線に混じって楽しめる素敵な作品でした。 長文となりましたが、どっぷりと楽しめる作品をありがとうございました。
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僕らの都市伝説感想が遅くなりましたが、配信にてプレイさせていただきました。 都市伝説を題材にしたゲームは数あれど、都市伝説がないなら作ってしまえばいいというなかなか新しい発想に面白い着眼点。 どこにでもいるような、普通の中学男児が4人集まってネタを持ち寄るちょっとした遊びとしてありそうなノリ。 4人の個性もこういう子いそうだな~と結構リアルさがありながら個性も綺麗にばらけており自然と彼らと同じ目線でワイワイしている気分になりました。 プレイ前の時点から面白い予感しかしない(ただし、作った後も無事とは思っていない)要素は満点! 期待に胸を膨らませスタート。 @ネタバレ開始 各自の持ち寄った案から、どう組み合わせる事でどんな都市伝説ができるのか? その内容を予想しながら選択するのがもうすでに楽しかったです。 柳沢君は「心霊スポット」 市内に存在する建物にウワサをくっつけてより日常に近づける、地元の都市伝説という意味ではなかなかいい目線です。 田畑君は「人間」 所謂人怖という下手をすれば幽霊よりキツイかもしれない、リアリティがあれば皆好んで話しそうというのもわかると思えるチョイス。 嶋君は「お化け」 あまりアイデアの引き出しがないと謝っていますが、シンプルイズベストかつバリエーションも多いのはその通り。 寺尾君は「未確認生物」 UMA、もしくは「現代妖怪」といったテケテケや花子さんのようなものに宇宙人なんてのも斬新でアリとロマンを求める系統を。 ここの案も結構各自の個性が出ている印象がありますね。 柳沢君はそういった話が元から好きなので外せない定番を入れるつもりで。 田畑君はどちらかといえば霊や妖怪といった存在証明の難しい存在よりは、より現実的にありえそうという事を重視する。 嶋君は定番でありながら趣旨として外れがない選択を、大雑把すぎないか心配しつつも協力しようとしている。 寺尾君は人物紹介の時にあったようにロマンを求めて生物的なまだ見ぬ存在を求めている。 最終的に全ての組み合わせを試すとしても、まずはシンプルに自分が見たいとか気になった物を選ぶ方針で。 ◆浦越西団地の宇宙人 UMA、もしくは現代妖怪という表現が胸を撃ちぬいたので迷わず寺尾君の案は採用。 柳沢君の心霊スポットは定番ながらも面白い話ができる強みはありそうと合体! 曰くつきな心霊スポットに出るUMA…もしくは妖怪こい!!と思いきや、場所は随分日常的な所!? といきなり予想を良い意味で裏切る物が爆誕。 自分なら真っすぐな怖い話を考えるだろうという点で、その発想はなかったと脱帽でした。 地元の団地に宇宙人というパワーワードがなかなかです。 しかし、案外人が来ない森の奥とかいかにも何かが隠れている場所よりは、その想定をする人がいない分見つからない点で盲点だからアリな発想なのかも…? 地元の都市伝説という柳沢君のテーマとも合っているとは思いますし。 (個人的に、今の人間が視認していない事が必ずしもない事の証明ではないと思っているので寺尾君の言うロマンのカタマリな可能性も否定はできず) しかし、いざ実際に広めてみれば話題にはなってもあまり信じられていないという結果に…。 『団地の宇宙人』なんて突飛な話、と田畑君も言っていますが確かに何故その2つを組み合わせたウワサなのか…当事者達にはわかっても第三者にしてみれば謎しかないでしょう。 その宇宙人が擬態しているとされるおじさんも、実名を出してないにしても寺尾君が実際に住んでいる団地の住人をモデルにしているので結構話題になると予想していたというのがいけそうでいけないライン感として絶妙ですね。 他3人が諦めモードに入るも、柳沢君だけは意地でも流行らせてやると情熱的な態度を崩さず。 休日にウワサの信ぴょう性を高める材料を探す為に、わざわざ西団地までやってきて件のおじさんの後をつけていたという電話が入るというその熱意はどこからきているんだ?と言わんばかりの勢い。 とはいえ、通話内容を詳しく聞けばそのおじさんが部屋に入った瞬間何やら不思議な事は起きているようで…寺尾君はオカルトと結びつけなくても説明できると思いつつ、柳沢君の勢いの凄まじさに思わず一緒に確かめる流れへと。 合流し、いざ現場へ向かう流れになった際に出た違和感。 宇宙人のウワサは自分達が作った嘘なのだから、ウワサを補強する材料探しならまだしも宇宙人が本当にいるのが前提という話し方は確かにおかしいです。 現場に来てヒントを得ようとするのはまだ、実際に目にした方が考えやすい人もいるという事でわかるのですが。 宇宙人のウワサの為に熱心な柳沢君と、早く部屋に戻ってポテチを食べながらゲームをしたいという寺尾君の温度差。 この両者の違いも『学は元よりこうだから仕方ない』と思いつつな点と合わせ、普段の関係が良い感じに滲み出ているように思います。 そして、目的地に到着し待機すればおじさんが部屋へと戻っていく場面を目撃。 確かに不思議な現象として窓から謎の光と聞いた事もない音が聞こえてくるようですが、寺尾君に言わせればどうとでも説明がつくので驚きもしないクオリティとの評価。 人物紹介にあった情報から推測するに寺尾君からだと、所謂そういった物特有のリアリティに欠けるというか…パーティーグッズで再現できる範囲とでも思ったのでしょうか。 元よりUMA等へ興味があるなら、目は肥えていてもおかしくないでしょうし。 しかし、柳沢君はスマホのカメラを起動したまま走り出し「決定的な証拠を撮るんだ!」とさらにやる気スイッチが入ってしまった様子。 自分達が作り出したウワサなのに「宇宙人は絶対にいる!俺が最初の交信者になる!」と勢いも凄い。 これには寺尾君も夏の暑さにやられたのかと思いながら、柳沢君を止めようとしたところで玄関の扉が開き……。 そこにはタコのような頭をした、見た事もない生命体が!? ここで突然の展開になりこれからどうなってしまうのかとパニックになった寺尾君の脳内が大変愉快でした。 脳を改造されるのか別の生き物にされてしまうのかという恐怖。 死を覚悟して家族に最後の別れを始めてしまったり、ちゃっかりと来世があるなら…とそれ完全に異世界転生物のシナリオだよね!?みたいな希望を述べたり。 と、危機的状況かと思いきやどうやらおじさんが被り物をしてからかっていただけと判明。 どうやらウワサのせいもあり、最近子供達がおじさんの事を宇宙人扱いするようになったのでそれに悪乗りをしたという話で。 その為に謎の光としてミラーボールや音源としてB級SF映画の流れるモニターを用意するとはなかなか遊び心のあるいいおじさんですね。 おじさんが部屋に戻り調査も終了。 寺尾君としては予想外の結果で楽しめたのでオーライと思うも、柳沢君は悔しがり残念なのが隠し切れない様子。 「ザンネン ダ」 …そして、聞こえてきたのはむちゃくちゃに加工した人工音声のような声。 横目にうつった柳沢君の顔は、両目が緑色に光っており人間のようには見えません。 寺尾君が声をかけると、何事もなかったかのようにいつも通りに戻るも…これは見間違いだったのか? 後日、おじさんが協力してくれているという話をあの時現場にいなかった二人に共有する寺尾君。 それでも、両目が光っていたあの柳沢君の話は言ってはいけないような気がして友達である二人にも話せないままで…。 それからも相変わらず、柳沢君はいつも通りの振る舞いをして毎日を過ごしていくも誰にも見られていない時に表情が消える瞬間があり。 その頻度も、日に日に増えていくといういつもの日常が徐々に浸食されていく恐怖。 柳沢君が宇宙人の存在を信じていたのは、自分と同じ宇宙人という存在に会えるのを信じていたからだったのか…。 じわりとした尾を引く後味の中終幕へ。 ◆新興宗教エマラ・テッド教団 次は心霊スポット×人間が怖い話というこれもなかなか面白い物ができるだろう組み合わせを選択。 内容的には通り魔とか?位に予想をしていたらかすりもしない内容がまたもや爆誕! …どうしてこの組み合わせでこの話ができあがるんだ!? (サンプルサムネから、この話が存在している事のみは知っていましたが…ここなの!?と) 王道なら、怖い人間が原因で心霊スポットになった場所に関する話とか…先に述べた通り心霊スポットに肝試しへ来た人を狙う通り魔とか。 そういう方向性だろうという予想をことごとく裏切っていく中学男児の発想力。 「謎の新興宗教!いいんじゃね!?なんかただの都市伝説じゃないですよ~って感じじゃん!」 いや、ガチのヤバイウワサになりそうって感じでは危なくない…!? しかし、人怖というテーマで謎のカルト宗教を選ぶというのはなかなかセンスとしては良く発想力として凄いというのか。 自分なら狂気を持った人や実は身近な人、友人が…といった物が先に出るのもありますし。 それに、信仰の為なら何をするかわからない人間というのが自分の中で人怖にカテゴライズされていなかったというのは怪談好きとして引き出しを増やす上で勉強になった部分はあります。 儀式の為に、特定の条件に当てはまる人を決まったタイミングでさらいにくる謎の教団。 回避方法もあるので、一応の逃げ道もあるという辺りは都市伝説のお約束としてもちゃんとポイントをわかっている印象を受けます。 結果として、ウワサを流す事には大成功。 しかも当初はなかった後付け設定もくっつけて流されるという、まさしくウワサがウワサを呼び拡散される状態に。 その中でも、教団の狙う該当者…6月6日生まれのB型の人は内心怯えているようでウワサが広まりだしてから挙動不審になるという事態まで発生。 こうなれば立案者である柳沢君としても内心笑いが止まらないのは当然。 田畑君も、皆意外と単純だよな。と楽しんではいる様子。 そして、何故教団に狙われる人の設定がこうなったのか? それは気に入らない先生をおどかしてみたかったので、先生の誕生日と血液型を設定に組み込んだという意外な真相でした。 6月6日生まれの人間を6月6日の朝6時にさらうとだけ聞いた時は、所謂悪魔数字を採用したとばかり思っていましたので。 カンシャク持ちであり、よく怒鳴っているとされる先生もどうやらここ最近は穏やかなようで実はウワサを信じるタイプだったのか?と笑いの種に。 説明された先生の様子も、完全にウワサを信じて怯え切っている人のそれでしたね。 そして、運命の6月5日…。 ここから6日の朝6時まで誰とも口をきかなければ回避はできるという、該当者にとっての正念場です。 生徒達の間でも影響は確実に出ており、欠席をする人やマスクをして会話を拒否する人と対策をしている様子が見て取れます。 果たして『本命』である先生はどうするのか? 次の授業が数学という事で、準備の為に教室へ入ってくる笹山先生。 マスクこそしていないものの、口をダルマのようにキュッと結ぶ『絶対に喋らないという意志表示』の構え。 目を見開き中腰のまま授業を始めるというのはどうみても怯えきった態度でしょう。 その様にはウワサの関係者である4人は当然として、クラスメイトも内心笑っているようで。 普段ならつまらない数学の授業が、ウワサ1つでこんなに変わるのか!と柳沢君も喜びを感じている様子。 先生からすればたまったものではないでしょうが、中学生のノリとしては結構この辺がまたリアルというか。 「なあ……誰か笹山先生喋らせろよ」 誰かのそんな言葉を聞いてしまえば、一気に盛り上がるだろうと悪ふざけをしたくなるのも予定調和でしょう。 先生の背後に近づき、クラスの皆の期待を一身に背負いながら大きく息を吸い込んで…思いっきり叫びながら先生の両肩を勢いよく掴む! すると、柳沢君の声量をはるかに上回る大声量で絶叫してしまう笹山先生。 ついでに前のめりに大きくズッコケてしまうというおまけ付で。 瞬間、教室内に割れんばかりの笑い声が溢れ出すという皆にしてみれば普段の先生からは想像できない様子がツボに入ったようで。 ウワサが作り話である以上、明日には先生も元通りになるだろうという意味では今しか楽しめないイベントとはいえなかなか容赦がない。 やっと笑いがおさまってきた頃、一向に反撃どころか何の反応もしない笹山先生。 その顔を覗き込んでみれば、大量の汗をかき、目を見開いたまま床の一点を見つけ続けていて…。 口元はかすかに何かをぼそぼそ呟いているも、しっかり聞き取る事はできず。 拾えた文字から、恐らく「~が、くる。~が、くる」と教団がやってくる事を恐れているのでは?と予想をしましたが様子がおかしい事に違いはありません。 そして、さすがにやりすぎたと柳沢君が謝ろうとした瞬間に先生は凄まじい形相で教室を飛び出してしまった。 その様子に再び教室に笑いが起きるも、その日に結局早退をした先生は学校へ戻ってくる事はないまま2ヶ月近くも休み続けている。 さすがにウワサの当事者である4人はこうなると気まずいというのか。 あの新興宗教は、実は本当にある教団を元にしたのではないか?と不安そうに寺尾君が柳沢君に確認をすればあの場で作ったデタラメだと言い。 実際に、この4人は目の前で話ができあがっていく過程を知っているのだから創作である事は当然知っている。 実在しない事は自分達が1番よく知っている。 なのに、どうして先生は戻ってこない…? 消せない不安に怯えていれば、田畑君が窓越しに笹山先生が校門から校内へ入ってくる場面を目撃し大声をあげる。 慌てて3人もそれを確認し、先生に特に変わった様子がなさそうなのも判明。 どうしていきなり2ヶ月も休んでいたのかは謎ながら、安心感から脱力をする4人。 先生の無事がわかればまたいつもの調子に戻った柳沢君は、先生の所へ行き洗脳された痕とかないか見ようと皆で駆け出していく。 とはいえ、さすがに謝るつもりではあったようで先生に声をかけてみれば…? …そこにいたのは、先生の姿をしているのに今まで聞いた事もない声色を使う笹山先生だった。 喋っている内容も、すべてひらがな表記である点もですが明らかにこれはやられた後だとしか言いようがない様子で…。 驚いていたのは柳沢君だけではなく、他の3人も同じ様子。 果たしてあれは…笹山先生なのか? 以降の笹山先生は相変わらず学校にきており、以前とまったく違う様子には他の生徒も最初は驚いたようで「教団に人格を変えられた」とか騒ぐ始末。 それでも現状に慣れてしまえば、ウワサとは関係ない別の解釈をしだして誰も疑問を抱かなくなっていく。 立案者である柳沢君は教団の存在は創作だと理解しながらも、何かがおかしい現状に慣れる事もできず真相を笹山先生に聞く訳にもいかない。 知る術がない以上、残る選択肢は今の状況を受け入れるしかないという真相は闇の中という終幕へ。 日常が浸食されていくという点では先の宇宙人もその系統ではありましたが、今度は4人は無事でも身近な誰かが犠牲になるパターン。 かつ、最初はあれだけ騒いでいた生徒達がいつの間にか目の前にある異変に慣れてしまい誰も疑問に思わなくなっていくというのも人の噂も七十五日というのか。 人の興味の移り変わりも実際そんな物という生々しさがあり。 自身の創作のはずなのに、それを完全に否定できない状況ができてしまったという不気味さ。 そして、これって一番まずいのはウワサが鳴りを潜めた結果来年の6月6日にも同様に犠牲者が出る可能性があるのにもう該当者が対策をしない可能性が生まれてしまったという事ではないかと…。 時限爆弾が残っているのに誰か気づいて…と祈るしかありません。 ◆耳をふさぐ女生徒 ここまで、心霊スポットという扱いやすい案に頼りすぎた感があったので違う物を選ぶ事に。 嶋君のお化けというのもテーマとしては扱いやすい部類だしまだ見ていない組み合わせは確定という事でまずは選択。 心霊スポットとの組み合わせでは『お化けの出る心霊スポット』という直球なネタになるのが想定でき。 かといってUMAと組み合わせてもお化けとUMAを両立させる話って何だ?となるので一旦保留。 (この2つ自体がそれぞれ特定の場所なり条件との組み合わせでシナジーを持つ、その都市伝説における‟登場人物”的な題材だろうという判断) という事で、残る選択肢である田畑君の人間と組み合わせる事にしましたが…まさかあんな事になろうとは。 都市伝説の内容としては良い意味でオーソドックスな印象。 呪いをかけた結果、今度は自分が祟られてしまい結果死後幽霊になって悪霊のような存在となる…人呪わば穴二つ展開。 大体田畑君が考えたという事で彼の発想力に感心しつつ、良い感じの生々しさもあるのでこれはいけるのでは?と思いました。 実際、広まり方としても成功と言える反応でしょう。 ウワサに怯える人や勝手に対処法を後付けで考える人、そのウワサの背景にあるであろう人物の事へ思いをはせる人。 唯一これまでと違う意外な点としては、他のウワサの時には塩対応気味だった田畑君がウワサを広めるのに積極的であり「見た」という嘘までついている事。 嶋君もそこを疑問に思っているようですが、柳沢君は気に留める事はなく当人に意図を確認しようにも体調不良で学校へ来ていない状況。 ここで『バカは風邪を引かない』に対するマジレスをする寺尾君の反応が好きです。 知ってるけど!そういう意味だって知ってるけど!今はそれを言うタイミングじゃない…!! そしてそれをぶち切る感じでお見舞いの提案が入り、学校が終わってから向かう流れへ。 田畑君は純粋な体調不良のように見え、さすがにウワサの話題も出せなかったという事で真相を知るのは先送りに。 そんな不穏な要素が残る中、ウワサはさらに広まっていき中には実際にウワサにあった呪いを試そうとする人まで出るという始末。 もしウワサと同じ効力があった場合には死人が出る以上軽率に試していい内容じゃない事も含め「ヒェッ」となり。 ウワサの影響力から、嶋君が罪悪感を持つのは立案者でもある点や彼の性格から当然でしょう。 柳沢君の言う、ウワサがきっかけで仲が悪くなるのは~というのも一理あり。 寺尾君は真相を知っている観測者視点で、日常生活に及ぼす影響の強さに感動をするというのも理解はできる視点です。 …そんな呑気な事を言ってられる状況とは思えないけどな!? この辺は、ウワサが創作であると知っているか否かで感じ方が変わるという点やそれ位の気持ちでやった事でしかない。 どのルートでも共通の点ながらそれを表現している描写と思います。 問題は、内容として今回はウワサに出る呪いを実行した時点でそれは禁忌と言える物である事。 元が創作であれ、その中にある内容だったとしても…誰かを呪うという行為そのものがまずいけないのです。 悪意を持って誰かを殺そうとした事に違いはないのですから。 宇宙人の時はまだ冗談としてもおじさんが本当に宇宙人だとしても、近づかない限り危険度は比較的低めであった事。 教団の時は対象が限られており、恐れるべきタイミングは年に1回で対処法もセットで存在している事。 オチがバッドと言えるエンドにはなれど、人の悪意が主体として大きく蔓延するタイプではありませんでした。 本当に怖いのは人間。田畑君の言っていた事が結果的にその通りだったのが何とも言えないところですね。 そしてその田畑君は相変わらず学校を休み続けている。 嶋君はそれを、頭の良い彼だからこそ自分達のせいで学校がどんな状況になったのかを察する事ができ学校に行きたくないと思っているのではないかと想像をしているようで。 そんなある夜、おつかいの為に学校の横を通り過ぎようとした嶋君は田畑君を見つける事に。 夜の校舎をぼんやり眺めながら、声をかけられても反応を示す様子もない。 背中を叩いた事でようやく気付いてくれたものの、驚いた素振りもなく無表情でこちらを向くというのはどこか精気の抜けた印象を受けます。 …彼がただ単に、自分の責任を直視したくないという現実逃避だけで欠席を続けているなら正直この反応は不自然でしょう。 実際、こちらを向いた際に彼の耳からは耳栓が落ちており『何かの音』を意図的に聞こえないようにしていた。 家や自室ならまだしも、外でつけているのはいつ事故に遭うかわからない点としても危険ですし。 それに、耳栓のせいで声が聞こえていなかったのはまだしも普通背中をいきなり叩かれたら少しは驚くのではないか? この異常性のある彼の状態と、しっかりした足取りで去っていったという部分がどこか噛み合わず間違いなく何かは起きていると見て良さそうなのに踏み込みには勇気のいる状況。 3日後、田畑君が亡くなったと聞かされた事からやはりあの時点で…という予想は当たっていたのでしょう。 他の生徒がするウワサが本当ならば、彼は部屋で首を吊って自殺をしたという事に。 自分の友達をウワサ話のネタにする事へ怒る柳沢君の反応が真っ当であると同時に、最後に家族以外で接触していたであろう嶋君にはあの時自分が何かをすれば結果が変わったのではないか? その不安に押しつぶされるという、どうしようもない感情が本当にやるせなく。 柳沢君は誰も悪くないし、あれは創作なのだから全てウソだと断言します。 皆が勝手にウソをついている、皆ウソつきなんだと。 「最初にウソをついたのは……僕達だよ」 だからと言って、始まりのウソに対する責任がなくなるのかは話がまた別であり。 とうとう4人の中から死人が出ただけでも衝撃ではありました。 しかし、後に語られるウサワ話。田畑君に関するエピソード。 彼の机から、あの呪いに使用される赤い紙が出てきた事。 実は彼には妹がいた事。 作中でも優秀と語れている田畑君よりも優秀な妹であり、しかし中学に上がる前に亡くなっていた事。 嘘や作り話をするにおいて、信ぴょう性を持たせる手法として真実の中にわずかに嘘を入れるのが信じられやすいという話があります。 彼はウワサの中にある呪いの手法はよくある物を参考にでっちあげたと言いました。 姉が弟を呪い殺した結果起きた話だと、彼がこのウワサ作りにおいて大部分を担当しました。 だけどそこに、信ぴょう性を持たせる為の真実が混ぜられていたとしたら? この話は実際とは性別を逆にしただけの、兄が妹を呪い殺した実話だったのかもしれず。 彼が耳栓をしていたのは妹の泣き声から逃れようとしたからではないか。 もしそうなら、彼は一体どんな気持ちでこの過去をウワサに組み込んでしまったのか。 過去の罪を告白したかったのか。ウワサとして昇華する事で吹っ切る為にだったのか。元々悪びれもせず考えもなしにだったのか。 個人的には、ウワサという形であれ過去の罪を誰かに聞いて欲しかった。 もう、抱えきる事ができなかったのではないかとは予想します。 「なんだかんだ言って本当に怖いのは、人間だと思う。身近にいる人間が恐怖の対象になるっていうのは………下手に幽霊の話をされるよりキツイんじゃないか?」 「うん、人間より怖いものはない」 ウワサを作成する際、提案を聞く場面と採用した場面で語る彼の台詞もこうなるとまた重みがあるというか聞こえ方の印象が変わりますね。 意外性も合わせ人の業という点において、とても好きな話でした。 ◆カッパの幽霊 ここまで3パターンを出したので、被らないように選ぶ方向へ。 前回、何ができるか想定のできなかった組み合わせをあえて選択。 カッパと幽霊、それぞれ個別ならわかるけどこうくっつけてきたかぁ~?と全力の困惑。 というか、カッパはもうそれだけで一つの怪談というか妖怪なんだよ!なのにさらに幽霊にする為に殺さないであげて!? と、ツッコミをしていれば案を持ち寄った二人も無言という何で立案者が二人共その反応なんだよと柳沢君にも突っ込まれる始末。 個人的に、水に関する属性のある幽霊なり妖怪だからターゲットになると水のある場所ならどこからでも侵入してきて殺そうとしてくる。 この部分は結構アリな設定だと思ったので『どうしてカッパの幽霊にした!?』感が余計に際立っていたように思います。 この話だけ、話を作り終わった後に共通で流れる文章の流れが違うというのが『内心失敗したのはわかっている』のを表現していて好きです。 そしていつもなら入る、ウワサについての会話が挟まった後に本編が始まるような流れすら起きず。 「全っ然ウワサになってない!!」 頭を抱える3人に、田畑君が正論パンチとして「カッパの幽霊のウワサが流行る中学校って、ハッキリ言ってヤバイぞ」というのが腹筋を破壊にきました。 柳沢君のわかりきっているけどちょっとは期待する気持ちもわかりつつ。お前らちゃんと広めたの!?と言う勢いで腹筋に二撃目が入り。 寺尾君の「どんなに笑われようとも!マジな顔して話しましたとも!」と語る剣幕でさらに腹筋への3コンボ目が続き。 嶋君の、やったけど体調を心配されたというのが完全に体調というより頭を心配されてるのだー!?と追撃が止まらない。 結果的にウワサも広まらず計画は失敗に終わって4人としてはつまらないオチになったのでしょうが、前回成功した結果死人が出ている事を考えると何もないルートもあるのは正直ほっとした部分もありました。 なので、次に挑戦して広まるまでやるとその意味で心配ですが…まぁわからないでもないのはある意味微笑ましい。 今ある日々が嫌いという訳でないけど、少し遊びたいだけ。 ちょっとでいいからいつもと違うものが見たいだけ。 この部分が冒頭にあった、地元から出られない中学生ならではの行動範囲の狭さ。 そこまで娯楽がある訳ではない地域という若者には暇を持て余すだろう条件。 ちょっとしたイベントや刺激が欲しいと感じてしまう人間心理。 そこへちょっとしたスパイスを加えようと都市伝説作りを始めた柳沢君らしい気持ちだと思います。 しかし、上げて落とすならぬ油断させてから本命を叩き込むというのか…。 このゲームに都市伝説を作った時点で無事な終わりを迎えられる結末がなかった事を思い知る事になろうとは…。 嶋君と二人で河原に行き、小石を川の中に向かって投げていく。 その際の会話で、嶋君が自分に気を遣っており困らせている事を自覚する流れもまたこのメンバーの関係性を感じる場面として好きです。 (その後に起きる展開を知っていると、ほんとに一時の和みパートでしかないとなるのはありますが…) 投げる小石もなくなりもう帰ろうかと思ったその時、真後ろから突然かけられる声に呼び止められ振り返ってみればそこには同じ学校の女生徒が。 それは1年の時に柳沢君と同じクラスだった安藤さんであり、同じクラスだった頃にも1回会話をしただけで今回が2回目の会話であった事。 そして、その2回目の会話の内容として彼女がカッパの幽霊の話を出してきたという予想外の展開でした。 安藤さん曰く、柳沢君はオカルト好きだったので最近聞いたこの話について知っているのではないかと声をかけたらしく。 久々の会話とその内容が何故カッパの幽霊についてなのか?普通なら疑問に思うところではありますが、柳沢君としてはまだこの都市伝説が広まる可能性を持っているという期待の方が先行しているようで横で目を丸くさせて押し黙っている嶋君を無視したまま語り出す流れへ。 自分はそのウワサを信じているし、今いるこの川がちょうどカッパの幽霊が出るというウワサの川だから見に来たというでまかせを並べ立て。 嶋君に『何言ってんのお前』という目で見られつつもお構いなし。 「本当?すごい!じゃあさ……」 と、まさか安藤さんはこの話を信じたのか?と思わせてからの 「私のことは、カッパの幽霊のせいにしてね」 その言葉の直後に鳴り響く、水面に何かが重いものが落ちた音。 安藤さんは引き留めるなんて考えも起きないくらい一瞬の間に、橋から川へと向かい落ちていってしまった。 硬直する柳沢君。 後日彼が知ったのは、あの川はとても深く泳げるような川ではないこと。 安藤さんは泳げず、同級生が目の前で自殺したという現実を目撃したという事実だった。 この事は軽いネットニュースとなっており、記事には何故安藤さんが自殺をしたのかを推測できるような事も書かれていたようですが柳沢君はただひたすら自分のせいじゃないと思い込むので精一杯だった事。 もしあの時、自分があんな事を言わなければ安藤さんは死ななかったのではないか?そんな考えが頭に浮かんでしまうのを必死に抑え込むしかなかったというのが当事者の意識としてまずくるだろう反応という意味でも痛々しかったです。 これは『耳をふさぐ女生徒』において彼が言っていた、ウワサがきっかけで仲が悪くなるのは~と結果的には同じ事だとは思いますが明確に自分の言葉がトリガーになったかもしれないという立場になるとやはり受ける精神的ダメージは違いますね。 柳沢君でさえこの調子なのだから当然というべきか、嶋君はもっと重度にメンタルをやられてしまったようで。 目の前で人が死ぬ場面を目撃するだけでもかなり衝撃的な事ではありますが、その言い訳として自分が立案したウワサを利用していた事。 嶋君の立場としてもかなり受けるダメージが大きいのは想像に難しくありません。 後日、他のイツメンに声をかけ公園に集まり嶋君を助ける流れに。 田畑君や寺尾君が優しく声をかけるも、全く反応を示さない嶋君。 ここはあの時隣にいた自分が声をかけるべきだろうと柳沢君が自分を責めないようにと諭す流れへ。 あれは事故であり、自分達にはどうしようもなかった。 カッパの幽霊の話だって、偶然あんな結果に繋がっただけで防ぎようなんてなかったはずだと。 それに対し、不安そうにそうなのかと問う嶋君。 安心させるように自分達には責任はないと言い、田畑君や寺尾君にも同調してもらう事で説得に成功したかと思いきや… 「そうだよ!俺達は悪くない!」 「うん………あの女の子が悪いんだよね」 待って、どうした嶋君? ゆっくりと顔をあげた嶋君、その目元は連日泣き続け寝不足もあったのかすっかり黒ずんでおり追い詰められた表情をしていた。 そして彼は続ける。 「こんなくだらないウワサなんかで後押しされるような奴、ウワサを聞かなくてもとっくに死んでたよね?」 実際、そこまで追い詰められている事情がある人間なら口実は何でも良かったかもしれません。 本質的には前途した柳沢君の耳をふさぐ女生徒における反論と変わりはしないのでしょう。 ただし、今回は死人が目の前で発生しているという違いはありますが。 さらに言い過ぎだと止められても嶋君の安藤さんに対する文句は止まらない。 今まで散々メンタルに負ったダメージの反動か、もう何かのせいにしないと耐えられなくなってしまったのか。 完全に目がいってしまった嶋君の肩を掴もうと手を伸ばした時、それよりも先に嶋君の肩を掴む何者かの手。 それはカッパの幽霊となったであろう安藤さんであり、彼女は嶋君の後ろにある水たまりから飛び出てきた事。 嶋君をがっちり掴み込んだ彼女は、とてつもない力でこちらの抵抗も虚しく嶋君を水たまりの中へ連れていってしまった。 だけどその水たまりは、触れてみても手首にすら届かない浅い物であり今は何の変哲もないただの水たまりである事。 でも、今目の前で起きた事は? 嶋君を助けようと手を引いたのは柳沢君だけのようでしたが、田畑君や寺尾君も一連の場面は目撃しており混乱した様子である以上夢ではない。 田畑君が大人を呼びに走って行ったようですが、果たしてそれで解決する問題なのか? その後、皮肉にもこの件がきっかけとなりカッパの幽霊の都市伝説は広まる事となった。 最初の無反応すぎるあまり「全っ然ウワサになってない!!」なんて叫んだ事が嘘であるように。 しかし、柳沢君はこんな事を望んでいた訳ではなかった。 目の前で友達を失った事。 もう、いつものメンバーで一緒に遊ばなくなった事。 失った事で知る、今までの娯楽は少なくとも4人でバカをやって笑っていた日々が幸せだったのだという事。 もういい。もう何もしないから。もう遊びたいなんて思わないから。 あれ程強く刺激を求め、都市伝説を広めるのに失敗しても成功するまで何度でもやる気だった柳沢君がこんなに切実に祈る結果となった事。 嶋君のメンタルの脆さはこの直前に作った話である『耳をふさぐ女生徒』でもわかってはいましたが、それが強い負の方向に全力で向かったらどうなるのか? それを知る結果となった事となりましたね。 個人的には、最後にくる柳沢君の切実な祈りの言葉が印象的でそれまで好奇心と行動力の塊であった彼とのギャップもありとても根深い出来事であるという描写に拍車をかけていると思いました。 しかし申し訳ないのですが、まだ2つ見ていない話があるのでもう何もしない…とはいかないのですよね。 柳沢君、ごめんやで。 ◆宮白橋のおばあさん 最後の願いも虚しく、まだエンドコンプはできていないので続行される都市伝説作り。 確実に作っていない組み合わせかつ、最後の柳沢君を選んだ際のルートを潰す為に嶋君の案と合体へ。 心霊スポットと幽霊なら王道ながら普通に良い話ができそうと期待もできます。 内容としてはやはり良い意味での王道、幽霊に話しかけられた後の対応を間違えると命の危険がある心霊スポットと面白い内容のできあがり。 嶋君の言う通り、幽霊として出てくるおばあさんが何故幽霊になりそのような行動をするのか? 想像の余地もあるので尾ひれの付きやすさとしても良い感じに思えました。 序盤は想像力というか、想像が豊か過ぎてついていけない…あなどれないな、中学男児の発想力…。 という内容を引き当てていましたが組み合わせによってはこういった内容もできる辺り、プレイヤーを飽きさせないなかなか幅広い内容を取り揃えている事に驚くばかりです。 いざウワサを広めてみると結果は成功。 肝試しに行った人が遭遇したけれど振り返らないで走って逃げたという話を聞いたとか、おばあさんの設定が追加されたりだとか。 後者に関してはやはりおばあさんの幽霊が何故そんな事をするのか?何故幽霊になったのか? その部分に各自の思いついた解釈を足せるという意味で良い方向に作用しているように見えます。 認知症の老婆を介護に疲れた家族が橋から突き落とした、確かに現代においてないとは言い切れない話ではあります。 しかし、作り話のはずなのにまだ死体が見つかってないという所までセットで組みあがっているのはもはやウワサが広まった結果ないはずの物が生えたというべきか。 さらに有名なユーチューバーがその橋で動画を撮影したという話も出ており、それが誰なのか色々名前もあがっているようです。 嶋君のラインには友人から送られてきたメッセージと動画リンクにより、これがそのユーチューバーだと教えてもらっているようすもうかがえます。 ウワサとしての出来が良かったのか、拡散力もかなり強く彼らの通う仲岸中学以外にも…それこそウワサの橋が隣にある美里川中学でも話題になっているようです。 結果として、普段は全然人の通らない橋は夜になると少し騒がしくなる心霊スポットとなり近所の人の迷惑にならないかを心配する嶋君。 嶋君も近所ではありますがウワサを立案した立場として自分は例外と言いますが、人が集まって騒ぐようになった結果近所迷惑が発生するというのは言われてみれば起こりうる問題でしょう。 地元を舞台にした都市伝説を作るという主旨のゲームだからこそありえる要素というのでしょうか。 実際に現実でも心霊スポットがご近所にある場所ではそういう悩みもあるのかもしれませんね、 そして、これは最初に見た『浦越西団地の宇宙人』を知っていると今度はお前が言うのか?というデジャブを感じる展開へ。 嶋君に何やら考えがあるらしく、おばあさんの幽霊が出現する夜中の2時に自分も現場へ行ってみようと言い出します。 自分達が作ったウワサなのだからウソに決まっているのに。 これを、宇宙人は実在する!と初手で暴走していた柳沢君が今回はおかしいと考える方なんだなぁというのも不思議な感覚ですが、正常ならばまず疑問に思うのは共通の部分でしょう。 ただ、違いがあるのなら宇宙人の時にはあまりにウワサの広まりが微妙だったから証拠を掴むとばかりに行動をした流れだった事。 それに対し、今回はウワサがあまりにも広まるので何かあるのかもしれないと確認に行く流れであろう事という部分はあるのでしょうが。 結果として嶋君は柳沢君により現場へ行くのはやめる展開へ。 その後も『宮白橋のおばあさん』はもうすっかり、地元の都市伝説として定着をしたようでどこにでもいる男子中学生が創作して発信したとは思えない程の成果を出す事に。 …ここで終われば、ただの成功談で終われたというべきなのでしょうか。 最近疲れやすくなった柳沢君が母親の声で目覚め、リビングでご飯を食べる場面へ。 父親の見たい番組にチャンネルを合わせるもまだ時間が早かったようでニュース番組が流れており、そこには良く知った地名が…。 「本日未明、○○県浦越市の宮白川から、白骨遺体が見つかりました」 それを見ていた家族の反応からもそれはあの橋の下に流れている川で間違いはなく。 夕食が終わり部屋に戻ったところで寺尾君からニュースは見たのかと確認の電話が入りました。 どうやら先に田畑君と嶋君にも連絡をしたらしく、嶋君は『今から橋に行こう』と提案をしてきたようです。 柳沢君以外の全員は上手く親から外出の許可を取ったらしく、今から橋の隣にある美里川中まで集まる流れへ…。 その道中、今度は田畑君から電話がかかってきて何やらこちらに聞きたい事があるらしい。 「……嶋がさ、丸一日喋んなかった日あっただろ。一昨日」 それは嶋君が最近体調が悪くて…と言っていたあの日の事。 どうやら田畑君や寺尾君からは無言で机に突っ伏している嶋君へ柳沢君が一方的に話しかけているように見えていたらしく、あの時に嶋に突っかかるなと注意をされたのもそれが理由だったと判明。 でも、柳沢君は嶋君と会話をしており彼が気象病でここしばらくの天気が悪い事に影響を受けていると話を聞いたはず…。 その事を説明しても不思議がられ、その上 「嶋はそんな体質持ってないよ」 田畑君は嶋君が気象病ではない事を知っているようで、嶋君当人がそう言っていたはずなのに食い違いが起きている。 てっきり田畑君が冗談を言ってるのだと思い指摘しても、俺がウソつくのが下手なの知ってるだろ。と返されれば柳沢君の中でウソではなくなる理由も生まれてしまう。 何より、柳沢君が嶋君とこのやり取りをした時に田畑君はすぐ横にいたのだから嶋君の声が全く聞こえなかったというのも通常ならありえないでしょう。 通話が終わった後、怖くなり急いで集合場所へ向かう柳沢君。 遺体は回収されたようですが橋の入り口は立ち入り禁止になっており、それはここで何かがあったという現実を証明している。 集まったメンバーは三者三様の反応をしており、その場で柳沢君はとある考えに行きついてしまう。 もしかしたら、自分達はこの話を作らされたのではないかと。 白骨遺体があったのは事実であり、詳細は不明でもこの橋の下にその状態になるまで遺体が放置をされていたのは確定。 だから誰かに見つけて欲しいという願いが届いた結果、彼らはこの都市伝説を作り拡散される事でようやく遺体は発見されたのだと。 この説を聞いた寺尾君は漫画みたいだなんて言いながらも顔を青くして声を震わせ。 田畑君はやはり現実主義な分、偶然だと済ませて帰ろうと促す流れに。 先に帰ろうとする二人を追いかけるよう、未だに橋を眺めている嶋君にも帰ろうと一声かけてから立ち去る柳沢君。 さすがに偶然だとしてもこんな事があっては不気味すぎる以上、もうこの一件を忘れる事に決めたようです。 …しかし、先に立ち去った三人には聞こえていなかったのでしょう。 「ナ ゼ わカッ た」 何者かに憑かれた様子の嶋君が呟く声は。 彼に憑いた何かの正体は誰なのか? 自分を見つけて欲しいと思った遺体の主なのか、それともこの遺体を隠し通したかった誰かなのか。 途中から嶋君の様子がおかしくなっていた点からも、すでに何かが憑いていてそれと意思疎通を取れるのは同じ立案者の立場である柳沢君だけのみだったのか? 場所の指定をしたのは柳沢君と言われていますが、立案に関わっているという点で嶋君が狙われそうなのと気が弱そうな分憑きやすいだろう事は何となく予想はできます。 体調に異変の出る前から実際橋に行こうと言い出した時点ですでに何かの干渉を受けていたと考えられますし、ニュースをみんなが知ってから現場に行こうと言い出したのも彼です。 今までの嶋君から考えるに、正直そういった物にあまり近寄りたがる性格か?と言えば疑問は残ります。 果たして柳沢君が忘れようと思っても、この後何が起きるのか?という点でやはり後味に恐怖を残す終わりですね。 ◆ガラガラ男 最後の組み合わせという事で何ができるのか予想はできないまま合体へ。 タイトルだけではどんな内容か想像はできませんでしたが、内容としては割とありえそうな都市伝説のできあがり。 田畑君も良い線をいっていると評価している辺り、それなりに期待もできると思え最後も楽しめそうですね。 寺尾君としては、見た目の設定も固めたいようですがそれはウワサが広まる際に各自の想像に任せる手もありでしょう。 そして、最後となるウワサを広めた結果。 結果としては、全身真っ黒な姿をしたガラガラ男を見たと恐怖する生徒の話から始まります。 ネットでも話題になっているらしく、何と写真まで出ているとの事。 さらには地元の都市伝説というはずだったのに他県でも目撃情報があり、色違いや性別違いといった亜種の存在もいるようです。 …冷静に考えると、ご当地ガラガラ男って何だろう? そういえば、田畑君視点で話が進行するのも珍しい気はしますね。 寺尾君→柳沢君→嶋君→柳沢君→柳沢君→田畑君とここまで基本は柳沢君の視点で読み進めたのだなと振り返って気づきました。 立案者でもありつつ、他のメンバーと比べたら現実的な考え方をする彼らしい視点というのでしょうか。 何故ウワサが広まったのにオファーが来ないのか叫ぶ寺尾君に、あれは著作権のないウワサとして広めた以上もしそんな話があっても自分達に話はこないと冷静に返します。 確かに人々のウワサから出来上がる都市伝説に著作権はないような物ですからね。 (今回は、明確に裏で仕組んだ創作者がいるとしても) 当初の予定通り、周囲はウワサのおかげで賑やかになったし学校生活だって楽しいものへと変化をした。 だから田畑君としてはこれ以上何も起きる事はないと諭しますが寺尾君は納得していない様子。 仮に、今から商標登録というか自分が作ったのだと言っても信じられるかはわかりませんし創作と判明すればウワサを拡散する人々もしらけてしまうでしょう。 だからいくら広まったとしてもあくまで当初の目的以上の物はないのですが…。 田畑君としては、寺尾君の暴走に対し多少の責任を感じているようでどうしたものかと思っているようです。 他のメンバーはといえば、柳沢君は当初の目的が達成された事で楽し気にしておりこれがあるべき喜び方なんだろうと思えます。 嶋君はウソを広めたという事に多少の罪悪感はあるようですが、大事に至るようなことも起きてないので現状あまり気にしていないとの事。 田畑君自身はこの2人の中間くらいの感覚であり、同時に2人の感覚が普通なんだと当事者ながら客観的に判断しています。 寺尾君のテンションがおかしいのは、自作のウワサが広まった事が嬉しいとしてもどこかズレているのはわかります。 日常へスパイスとしてウワサを広めるのでなく、自身の創作物を世に広めて人々からの反響を欲しがっている。 ここが同じウワサの広まりを望む傾向がある人にしても柳沢君と寺尾君にある違いなのだと思います。 そして、授業中も他の生徒を通して手紙を回してもらい田畑君へガラガラ男のキャラデザ絵を見せようとする寺尾君。 ウワサができて、いざ明日から広めるぞとなった際にも見た目のデザインを固めたいという事は言ってましたが…。 責任の一端を感じる田畑君としては、頭が痛い事でしょうね。 どうやらガラガラ男のウワサは周囲ではそれとなく話題にのぼる程度であるのに反して、ネットではいくつものスレッドができる程のウワサになっていると寺尾君が語ります。 以前も小説化にゲーム化の話がそろそろ出てもいいと語っていた寺尾君としては、このままいけば本当にメディア化を狙えるかもとさらに騒いでいるようですが…頭の良い田畑君ならば、気付くのは時間の問題だったのでしょうね。 最近、授業が終わるとすぐに教室を飛び出し次の授業に遅刻するまで帰ってこなくなってしまった寺尾君。 放課後もすぐに家に帰ってしまい、他の3人と遊ぶ頻度も減っているようです。 その理由を聞いても何故か気まずそうに答えを濁してしまうので真相は不明のまま。 嶋君はそれに対し、彼女ができたのかなと思ったようですが柳沢君が凄い勢いでそれはないと全力で否定をします。 田畑君は柳沢君の意見には半分同意のようです。 寺尾君に彼女ができないという意味ではなく、もっと他の心当たりがあるという意味の方で…という事のようですが。 ここの言い回しというか、結論を置いた後に根拠を述べるせいで「田畑お前もか!?あ。いや、違うのか…」となる感覚がとても彼らしさがあって好きです。 次の授業への遅刻を覚悟し、休み時間終了直前の廊下を歩きながら寺尾君を探す田畑君。 この際に、初めての遅刻という表現を使っている点も普段の彼がどんな人物なのかがわかるポイントだなぁと思えて好きです。 どうやら無事、こちらに背を向けている寺尾君を見つけたようですが何故か廊下に1人で突っ立っている様子。 何をしてるのか確認する為、背後からゆっくりと近づき彼がスマホを操作しているところまでを把握。 やはり彼女とのやり取り?にしては映し出されている画面がおかしいようで、背中に触れるまであと一歩まで迫っても気づかれる様子はない。 そこまで集中して何を行っているのか?その、何が行われているかを把握したところでようやく声をかけます。 真後ろからの声にスマホを落とし、すぐさま拾い上げポケットへしまう寺尾君。 彼がやっていたのは色んな掲示板にガラガラ男のニセ目撃情報を貼り付けるという行為でした。 見たから誤魔化さなくてもいいと前置きをした上で問い詰めていく田畑君。 寺尾君としては、自分が創作者と名乗るつもりはないけれどウワサが広まる事が嬉しいと語っており最近裏でしてきた行動もその為に時間をかけていたというのが真相でしょう。 それに呆れる田畑君と、そんな彼に向って寺尾君が言った発言がこの話が田畑君視点で語られなければならない重要な点だったのでしょうね。 「な、何でもできて……自慢できることがたくさんある克明にはわからないんだよ!」 この言葉の意味を文字通り、田畑君は理解できないまま寺尾君を教室まで引っ張っていく事に。 後の流れを見るに、この時のやり取りは柳沢君と嶋君に話していないようでこの日から寺尾君は学校にこなくなってしまったようです。 まだ学校に来なくなってから日が浅いという事で何も知らない2人はただの体調不良だろうと思っているようで、裏で田畑君は2人に内緒で寺尾君を捜しに行っていたようです。 放課後も、休みの日も。もう一度、見つけないといけないような気がして。 夕陽が照って、足元に真っ黒な影が伸びる時間。 田畑君は一体何が寺尾君をここまで突き動かしていたのかを考えるもわからないようです。 それはシンプルな承認欲求か? そんな風に考えて生きたことがない自分にはわからない。 寺尾君の気持ちを考えようとしても、それでも何一つ掴めるものはなかった。 だからこそ、これは田畑君が語り手であり体験しなければならない物語である。 誰かの語る登場人物、第三者でない、田畑君自身のモノローグが対比として必要なのだから。 当たり前に持っている者と、自分は望めど持っていないと思っている者。 この両者が、同じ視点を共有ができないというのが一番美しい致命傷である以上。 足元の黒い影に、もう一つの影が重なったと同時に田畑の名前を呼ぶ背後からの声。 田畑君の友人で「克明」と名前で呼ぶのは1人しかいない。 ようやく寺尾君を見つける事ができたと思いずっとどこに行ってたかを問おうとすれば、彼はまたガラガラ男の話題を出そうとしている様子。 それに呆れつつも、みんなが心配している等と言い説得しようとした時。 アイツをホンモノにしないと その言葉を認識するや、首筋に冷たく平たい物が当たる感触。 それは、刃物は、寺尾君の手に合わせガタガタと震えているようで…。 刃物を握る手が、真っ黒な手袋に包まれている事を認識し。 緊張で固まってしまった体を無理やり動かし、真後ろに立つ寺尾君を見ようと首をひねる田畑君。 いくら相手がさすがに人に刃物を向けるという行為が初だろうから動揺しているとしても、首筋に刃が当たっているのによくできるな!? と、思わず田畑君のメンタルの強さというべきか冷静さに感心をしつつ与えられた視覚情報を共有してもらえば…。 そこには全身を黒い服で包み、わずかな隙間から目元だけを出している寺尾君の姿が。 それはきっと、彼がデザインをしていたガラガラ男の姿を再現した物なのでしょう。 今から自分はホンモノのガラガラ男になるという旨の発言をどもりながら発する寺尾君を、思いっきり突き飛ばす田畑君。 お前メンタルお化けというか、実は修羅場慣れしてない?という疑惑も改めて読み返すと感じてしまいますが…それは一旦置いておきましょう。 逆に倒れた寺尾君は起き上がってくることもなく、じっとこちらを見て肩を震わせている。 さすがにこのままでは危険と判断し、ここは逃げる判断をした田畑君。 いくら相手が友達であれ、刃物を持っていて精神的に不安定である事を考えればこれは仕方ないでしょう。 むしろ、自分の命を優先するのが当然と言える状況です。 走りながら、以前自分は寺尾君に『何でもできる』と言っていたけど今ここで自分にできる事はないと思う田畑君。 必死に逃げ切り、生還を果たすもそれから一週間が経過した結果…。 知らない誰かが死んだという悲しいニュースとテロップ。 人数だって1人や2人じゃない、その上で犯人はまだ捕まっていない。 寺尾君は本当に、ガラガラ男をホンモノにしてしまい浦越市には、俺達の住む町にはまさしく人間の怖い話が生まれてしまった。 俺達の知っているアイツはもう、どこにもいない。 この町にいるのは、全身真っ黒で、人の喉を切り裂いて歩くガラガラ男だ。 実は柳沢君が宇宙人だったという人外オチはすでにありましたが、これは普通の人間が都市伝説に成っていく過程を描いた、加害者になってしまったという方向性でも秀逸な話だと思います。 田畑君と寺尾君が友達でありながら対比になる構図なのも合わせて。 @ネタバレ終了 長くなったのでここで分割します。
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死に戻り階段感想が遅くなりましたが、配信にてプレイさせていただきました。 その階段を一段下りれば死人ですら生き返るという死に戻り階段。 タグにもありますが、ホラーやオカルト要素が強めな世にも奇妙な物語という印象が強い噂話ですね。 そして、その真相は一体何なのか? @ネタバレ開始 あなたの地元に有名な心霊スポットはあるだろうか、という文言から始まり主人公の地元に存在する神社…天妙神宮についての紹介へ。 神社に到達するまでは600を超える階段を上る必要があるという、思わず階段の数で有名な金毘羅さんでも大体どれ位だっけ?と思うそれは人を遠ざけるのも無理はないだろうという立地。 (金毘羅さんは奥社に行かないなら785段で済むらしいので、そう変わらないとしたらかなりのハードモードでしょう) それだけでなく、昔から語り継がれている噂として山の麓から天妙神宮へと続く階段は通称「死に戻り階段」と呼ばれている事。 その階段を一段下りればたちまち一年若返り、死人ですら若返る。 この情報だけでも不思議な場所という印象はありますが、夜になると悪魔が下りてきて悪い子を見つけて食べてしまうという大人が子供に言い聞かせるような話もあるようで。 さすがに悪魔云々は作り話としても、若返り効果のある階段という点は興味深い話です。 しかし、主人公も小学生の時に試してみたけれど何も起きず。 その段数から運動部がトレーニングに利用しているようですがやはり何も起きていない。 様々な人が噂を確かめようとしては失敗に終わったようで、若者の間ではあくまで雰囲気を楽しめる肝試しの場所程度の認識になっているようです。 そして、どうしてそんな噂ができたのか… 「一緒に階段を下りた相手と恋が結ばれる」という今までの要素と何も関係がない新しい噂までできている始末。 その効果があるかどうかはさておき、主人公も今年の肝試しは女の子からのお誘いを受けているようで楽しみにしているようですね。 だけどそんな時に限ってというのか、肝試しを運営するオカ研の人員が足りずに手伝って欲しいと頼まれてしまう事に。 ここで断ると本編にいけないでしょうが、まぁエンドは全部回収予定なので初手は断りましょう。 と、選択をしたら…いきなりゲームの種類が変わった!? この萌えっ子ちゃんなきゅ美って誰!? 恐らく肝試しがきっかけでその時の女の子と結婚し娘ができたのでしょうか。 新しい噂が本当になってしまった…とぽかーんとしていればまた場面は変わりニュースが。 「時任グループの社長、時任定雄さんが行方をくらませてから今日で一週間が経過しました」 何やら事件は起きているようですが、主人公の平穏な日常に関わりはなく。 娘とお風呂に入る流れでエンドを回収。 という事で先程の分岐へ戻り。 手伝いを引き受ければ驚かし役を引き受けたのは主人公だけのようであり、主人公を誘ってくれた女の子は別の人に声をかけたようでした。 問題は、その人物がこちらに手伝いをして欲しいと頼み込んできた帯山田であり…3年生特権として参加者側を楽しむ為だったであろう事が判明。 どうみても女の子とイチャイチャする気だろう帯山田を置いて帰宅する流れへ。 すると、いかにもホラーなBGMと共に登場する当初主人公と肝試しに参加する予定だったきゅみ子ちゃんが登場。 母親の名前からとって娘はきゅ美になったのか…なるほど……なるほど? DNAの法則をガン無視してそうだなぁとか色々思う事はありましたが、まぁ結果的にこれは断って正解だったなと今度こそ帰宅。 翌日、驚かし場所は自分で探すという事で現地に向かうもやはり体力的にここまで来るのは大変だったようで。 600段以上を上るとなると、これは肝試しに参加する方も運営として驚かす方も先に体力がなくなりそうだなぁ…とぼんやり心配になりました。 資料によると、毎年賽銭箱が驚かし場所として使われているらしい。 人が隠れるのに向いている位のサイズらしく、毎年使われているという点で新鮮味には欠けるも候補として加える事に。 山門へ戻り、順路として肝試しの際には全員がここを通るので開始早々驚かすには結構良いかもしれないと考えていると誰かの話し声が。 三人分の声が聞こえ、内一人はこの神社の神主でありどうやら案内をしている様子? それ以外の二人は男女が一名ずつで何と芸能人のようでした。 『白い肌は白い化粧品から』 という彼女が出ているだろうCMのキャッチコピーと共に紹介される女優、千堂かなこ。 見た目なかなり若々しいですが、今年で44歳というどうみてもありえない年齢に驚くしかなく。 男性の方は現在放送されているライダーシリーズの最新作に出ている俳優であり、彼がペットボトルの水を飲むとまたもや宣伝のようなカットインが! 色気がすごすぎて子供に悪影響を与えると苦情が殺到したミネラルウォーターのCMが目の前で再現されているという、これまた凄い物を目撃してしまったようで。 こそこそと彼らの様子を見ていれば、参拝を済ませた3人は会話をした後にかなこさんが何かを神主に手渡し2人はもう帰っていくようでした。 ここで、神主と芸能人2人のどちらを追いかけるか?という選択肢になりますが…。 普通なら野次馬根性として芸能人一択と思われるのに、神主を追いかける事に何か意味があるのか? 結果として、神主を選ぶと彼が何かを食べているのを目撃する事に。 先程手渡されたのが食べ物だったのか? それにしてもこんなにすぐに食べるのもおかしな話だと、少しからかうつもりで声をかけてみれば当然エンド回収へ。 エンド名が「見てはいけないもの」という事から何を食べていたのか不明ですが、明らかにホラー的な意味で何かがあるのは違いない。 一般人らしく芸能人の方を追いかけようとすると、何と山門あたりで2人がキスをしている場面を目撃してしまい…。 これは熱愛シーンを見てしまったか?と思いきや、直後にかなこさんが階段を一段下り…一緒にいたはずの彼は消えてしまった。 その場に残るのは彼がいたという証拠の衣類や時計のみ。 それを拾い集めたかなこさんは神主のいる本殿へと引き返していく…。 一体何が起きた…? 怖くなり階段を一気に駆け下りていく主人公。 その途中で思い出したのは、死に戻り階段に関するまだ語られていなかった方の噂。 しかし、1年若返るごとに自分に近しい人物が1人失われる。 だけど、ただ下りるだけじゃ何も起こらない。 若返るには、悪魔の協力がいる。 つまり、この階段を試した人達はこの条件を満たしていないから何もなかっただけにすぎなかった。 何故子供への脅しにしても神社へ続く階段に悪魔の噂がくっつくのか? それが宗教的にも噛み合わないだろうと疑問でしたが、元々あった噂の全文を知ればその意味はしっかり理解ができました。 神主を追いかけた場合、彼がかなこさんから受け取った何かを食べていた事。 連れが消えてから、まるで証拠隠滅のようにその場に散らばった衣類を集めた彼女が再び本殿へ引き返していった事。 そして、何故44歳の彼女があんなに若々しいのか…。 噂に出てくる悪魔は神主であり、その悪魔の協力があってこそかなこさんの若さは保たれていた…? ここで主人公から物語はかなこさんの視点へと変わり、何があったのかが明かされていく。 生き物なら逃れない定めというべきか、かつて世のすべての男性を虜にしていたかなこさんも加齢には勝てなかった。 沢山の男性に囲まれていた日々もいつしか過去の話となり、かつて自分のいた位置には若い子が抜擢されるように。 SNSに流れるコメントも、すでにかなこさんは過去の人だというような内容が流れており彼女を苛立たせていく。 私だってあの頃のように若ければ かなこさんは30手前という年齢から訪れる現実を受け入れられなかったのでしょう。 確かに若いというのはそれだけで財産ではありますが、年齢を重ねても活躍されたりその年齢だからこその美しさを出せる女優さんというのは存在すると思います。 そう考えると、彼女にとって一番の武器が若さだったのではないか?とは思いますが…それはそれで受け入れがたい問題かもしれません。 そして心がすさんでいったある日、とある心霊番組…というよりは川口浩探検隊を連想させるような番組? によって若返ると噂の階段についての存在を知る事に。 普段ならただの噂でありくだらない番組と流してしまうような事でも、本当に若返りの効果があるならと番組で紹介された現場へタクシーで向かうかなこさん。 道中、栄光の日々が忘れられずそれが失われていく絶望やその結果として「若返り」に執着する事に思いを馳せる場面があり。 栄光というのはそれが強い刺激であればある程脳を麻痺させる麻薬のような効果を与えてしまう以上、忘れられずに執着するのもまた人間の性というべきなのでしょうか。 5年前に稼いだお金を様々な美容品や温泉などといった若返りに効果があるとされる物に費やしてきたけれど、一時的な効果はあっても維持をするには大量のお金が必要になってしまう現実。 よく名前を聞く美容手術等、そういった美容関連の物だって定期的に摂取しなければいけない以上お金で買える若さの延命はそれだけ莫大な対価がかかるのが前提でしょう。 だから結局はどこかでみんな気持ちに折り合いをつけて受け入れるしかない、もしくは少しでも遅らせるような比較的継続できる習慣や品を取り入れる事で抗うしかない。 女性として、彼女の気持ちはわからないでもないですがこれは一度強い刺激に脳を焼かれた故…とすればこの後の流れも含め当然の結末だったのだろうと思います。 あの600を超える階段を上るも0時過ぎという事もあって入口である山門は閉じており、どうしたものかと思えば中から出てくる神主。 何故かかなこさんがくる事を知っていたような口ぶりであり、彼女が人違いではないかと疑問を口にすれば…目の前の神主の姿は悪魔に豹変していた。 それを見て、思わずうっとり魅せられたと表現した時点でかなこさんは完全にこうなる運命というのか引き寄せられてしまったのでしょう。 人間の作る若返りに効果のある商品ではあくまで一時的な効果しか得られない。 けれど、目の前にいる悪魔の力を借りれるならばそれは間違いなく可能であるという確信。 契約の証として、自身の血を与える事で若返りの権利を得たかなこさん。 しかし、その為には自分に近しい人間を1歳につき1人犠牲にしなければならない。 階段の下で待たせていたタクシーでそのまま実家へ向かい、翌日に家族旅行と称して両親を生贄にしたかなこさん。 2歳の若返りによって最近の悩みであった肌のトラブルがなくなりハリも戻っている事を確認する。 ここで、両親が服だけを残して消えてしまったという事実でなく即座に自分の顔に触れ効果を試しているという時点で行動が起こせる時点でそうであったとしても、もう人としての心は残ってないのだなとわかる場面ですね。 そうして、5年前の美しさを取り戻す為に残り3人を捧げたかなこさんは年に一人を捧げる事で若さを維持し続ける事に…。 そこから20年が経過し、再び周囲にもてはやされるようになったかなこさん。 かつて自分の代わりかつての代表作でヒロインを演じた若い子だって、20年が過ぎれば時の流れに従い40歳位にはなっているのでしょう。 もう私より見た目のひどいおばさん、と言うかなこさんの心境は完全に若さを維持する事に執着した何かであり。 そんな中、かつて交際をしていた時任さんともう一度交際を開始する事に。 かなこさんは若さを維持していても周囲の人間は当然ながら年齢を重ねる以上、彼は50歳間近というかなこさんが本来の年齢相応であればそこまで見た目や年齢差もないだろう方でした。 いつしか、彼がかなこさんにとって一番近しい人物となっており年に一度の生贄を捧げる時期が近づいてきてしまう。 時任さんは若さやルックルといった魅力がある訳でないけれど、何故か惹かれてしまう対象であった事。 もし、自分が若さを維持できれなければ彼は別の女性に乗り換えてしまうのではないか? だけど、生贄の条件である近しい人を捧げるという事は彼を失う事を意味している。 これまでならば、若返りの為なら誰だって生贄にしてきたのに初めて生じた迷い。 歳を取りたくない。しかし、時任さんを失う事だって嫌。 けど、自分が結婚を迫っても暗い顔で断る彼を繋ぎとめるには若さが必要なのではないか。 判断を迫れる場面となり、彼を生贄にするかどうか選択肢として選べるようで…。 ここが、もう手遅れながら人間として最後の…本当に最後の一線を守れる場所だと「生贄にしない」事を選べば。 それにも関わらず彼に別れを告げてから3日後に、何故かニュースとして彼が亡くなった事が報道され…。 かなこさんと交際していた事から彼女は警察から話を聞かれる事になり、周囲にも何故か彼女と付き合った相手はみんな死んでしまうという噂で盛り上がる始末。 結果、彼女は若さこそあっても誰も寄り付かないままここから本来の年齢へと近づいていく事になるのだろうという終わりへ…。 時任さんに関するニュースは最速で回収できるエンドでも見かけましたが、こういう繋がりを持っていたのだなというのが驚きでした。 では、結局亡くなってしまうのなら生贄にしても結果は変わらないのではないか? …強いて言えば、死体は残らないので失踪という形になるのでしょうが。 その答えを知る意味でも今度は「生贄にする」という選択の方へ。 かなこさんとしては、彼を生贄として自分の中に取り込んでしまえば自分の中で生き続ける事になるという結論に至ったようです。 そして、彼の体液を手に入れたから翌日に処刑台への道とも言える階段を上る事に。 山門には毎年の事だからか、待ち受けている神主こと悪魔の姿が。 かなこさんから体液の入った瓶を受け取ると、悪魔はこんなものを持ってくるとは珍しいと笑いだし。 「よほど彼のことが好きなんですねぇ。でもそんな彼ですらあなたの執着にはかなわかなったようだ」 ここは人間の行動を観察する悪魔としてはまさに面白い部分でしょうね。 そして、そんな悪魔の笑い声が今日に限りひどく耳障りに感じたかなこさんは悪魔をせかし、悪魔が瓶を丸のみにしたのを確認するとすぐに時任さんの手をとって階段を一段下りてしまった。 隣に散らばる彼の衣服。 頬を涙が濡らし、やはり彼を失いたくなかったという気持ちは本物だったのだと感じながらもいつものように衣服を回収しようとそちらへ視線を向ける。 すると、衣服に隠れて白い封筒が落ちているようで…彼の持ち物だったのでしょうが何が入っているのか? それに手を伸ばそうとした瞬間、かなこさんはバランスを崩して階段を転げ落ちてしまう事に。 毎年この階段へ向かう時にはいつもスニーカーを履いていたのに、何故か今回ヒールを履いていた事に気づかなかった事。 そのせいで簡単にバランスを崩してしまった事。 さらに、階段を転げ落ちる中で彼女の体に起きる変化。 階段から落ちる度、下る度にどんどん体は若返っていき子供の姿へ…そして、最終的には赤ん坊の姿へまで変化してしまい。 そんな彼女を見下ろした悪魔は、赤ん坊となった彼女を食べてしまうという結末へ。 悪い事はできない、人の命を奪い続けてきたのだから奪った人数を考えればむしろ食べられるだけで済んだのはまだ軽い方ではないか?までありますね。 (その後がどうなるかはわかりませんが) 彼女が最期に目にしたのは、悪魔に踏みつけられ汚れてしまったあの封筒。 これが何だったのかは次の視点、時任さんで語れる事に。 21歳の若さで企業をしてから28年間、忙しい日々を送るも日本を代表するような大企業まで会社を大きくする事に成功した時任さん。 海外進出も視野にいれ、さらなる躍進を…と思っていた矢先に発覚してしまう自分の病。 ステージ4まで進行した癌、他の臓器にも転移しており余命は長くとも3ヶ月という絶望的な状況。 初期ならばまだどうにかできたかもしれませんが、末期の癌となるとさすがに生存は絶望的でしょう。 投薬を行うも、それに伴う副作用に苦しむ日々。 余命とされた3ヶ月後はアメリカの大手メーカーと交渉をする日であり、会社が海外進出をする上で重要な日と言えるでしょう。 だから自分以外に任せる事はできないと、何とかならないかと情報収集をし病気を治せないかを考えるもそこにあるのは気休め程度の文章に重い現実だけ。 なので、通常ならおとぎ話で済ませてしまうような事にも縋りたかったのでしょう。 不老不死・蘇生・タイムスリップ・若返り、どれも非現実的でありながら病気が治らずとも命さえ延命できる方法があればと検索を開始する時任さん。 そこから得られる情報は怪しげで詐欺のような物ばかりでしたが、その中の1つに目を奪われる事に。 それは、かなこさんも見たあの番組についての画像投稿であり取り上げている人も明らかに馬鹿にしたネタの扱いでしかなく。 けれど彼もまた、B級にも満たないテレビ番組だという事を頭では理解しつつも病院を抜け出して現場へ向かう事に。 もはやあの脅威の段数の階段を上るのも苦しい体でこそあれど、真相を確かめるには実際にこの先へ行くしかないとふもとまで到着したところでかけられる声。 振り向くとそこには、あの悪魔である神主が立っており彼がくるのをわかっていたかのような態度でした。 悪魔が契約についての条件を説明し、それに対しどういう意味だと返そうとするも激しく咳込み吐血をしてしまう時任さん。 「これが答えだ、俺には時間がない」 そして、先程の吐血で付着した血を差し出し契約は完了。 ここでわかる新事実として、どうやら悪魔と契約をしても寿命そのものは延ばせないらしいです。 時任さんの寿命まで残る時間は2ヶ月と17日。 寿命は49年と5ヶ月と16日8時間14分。 悪魔の行う若返りとは、他人の命の蝋燭から蝋を奪い取りつぎ足すという事。 しかし、最大値を延ばす事はできないのであくまで寿命の範囲内で若返りをするというのができるのみである事。 だから彼は、どれだけ若返り病に気を付けていても決まった寿命からは逃れる事はできない。 死因が現状なら病による物ではあれど、もし結果を変えようと病にかからなかったとしても別の死因になるにすぎないというだけ。 そして、自身が悪魔と契約をしてしまったという事実を認識した瞬間光を失い。 再び気づいた時には、階段に散らばる26名分の作業服と両親にプレゼントしたおそろいのコートがそこにあった。 次からは階段を上れるだけの体力は残しておいて欲しいという悪魔の発言から、恐らくそのままでは階段を下る以前に最上段までいけない彼の為に悪魔が初回サービスをしたという事でしょうか。 そこから意識を失い、目を覚ますとそこは病院ではなく自分の部屋でありいつも着慣れたスーツを着ようにも何やら違和感がある。 28年分の若返りを果たした結果、時任さんは当人でなく息子として新社長という立ち位置を演じる事になったようです。 悪魔が巧い事細工を施したのか、それに対する違和感を誰も持っていないようで成功はしたのでしょう。 部屋で一人になってから思い返す過去の記憶。 娘が生まれたらパパはすごい会社に勤めているんだと自慢したいと言っていた社員がいた事。 会社を大きくするまでの苦楽を共にしてきた社員たちの言葉。 たった一代でここまで会社を大きくした事。 そして、その過程で彼は自身が周囲にも恵まれていた事を自覚していた事。 そんな大切な存在を、自身の延命の為に生贄としてしまった事実。 それはあまりにも辛すぎる為か、心を蓋をする事で封じてしまったようであり。 犠牲にしてしまった者達の為にも、ここでこの時任グループを終わらせる訳にはいかないと前以上に仕事に没頭する時任さん。 しかし、そのまま次に迎える予定だった本来の寿命で次世代にバトンを繋がれば良かったのでしょう。 けれど彼は最初に犠牲にしてしまった物達の為にも仕方ないと言い聞かせながら、それから20年ごとに若返りを繰り返すようになってしまった。 繰り返すうちに、罪悪感も薄れ金におぼれてどんどん心がすさんでいくように。 最初は本当に会社の為だったのだとしても、2回目の若返りを選んだ時点で会社はすでに海外進出も果たして起動に乗っており後任を探すなり育成する時間もあったでしょう。 なのにそれをしなかった時点で結局は会社でなく自分の為でしかない形になってしまった。 はたして彼がもう何回目の若返りをした頃だったのでしょう。 CMに起用する芸能人を選ぶ際に、彼がかなこさんと出会ったのは。 まだ若返りに執着をしていない見た目のままの若さだったかなこさんとの触れ合いで、時任さんは幸せという物を感じるようになった。 そして、彼女のまぶしい笑顔に触れていると自分がとても醜悪なものに感じてしまいやがて距離を置くようになってしまう。 ここがかなこさん側でいう、年を重ねた結果人が離れていった時期と重なってしまったのが一番の不幸というべきなのか。 彼女に深い勘違いを与える事になったのを知らないまま、別れてしまった事が最大の分岐点だったというのが物悲しいですね。 彼女と過ごした時間を思えば、いくら仕事の奔走してもすでに若返りたいという願いは持たないようになっており。 余命が一年となるも、もうすでに自分は本当の生きる意味を見失ってした事に気づいてしまった時任さん。 そのことに気づかせてくれた彼女に最後にもう一度だけ会いたいと接触をしてみれば、彼女はあの頃と同じ姿をしていた。 そして、一度だけと思っていたはずなのに彼女と過ごす日々があまりにも魅力的だった結果再び交際を再開してしまう。 彼が結婚を承諾できなかったのは、もうすぐ自分が寿命を迎えると知っていたから。 …本当に、もはや手遅れ過ぎる展開が続いた結果の結末であってもここでもし余命の事を正直に伝えていれば彼女はまた違った選択を取れたのかもしれませんね。 やがてやってくる終わりの日。 彼女から、明日行こう誘われたデート先はあの死に戻り階段がある天妙神宮。 彼女も自分と同じく若返りの契約をしていたからこの姿を保っていたという事に気づき、次は自分を生贄にしようとしている。 果たして愛した女性からそんな提案をされたら、自分だって沢山の命を生贄に捧げた身でありながら何を思うのか? 素直に考えれば、因果応報でしょう。 他人の命を奪い続け、ありえない延命を繰り返した者が今度は奪われる側になるだけ。 その彼女と疎遠になった間に、彼女に何があったのかはわからずとも同じ穴の狢がこちらの命を狙っている事に違いはない。 もしも、彼女を恨んだら? 彼女が自分に近づいてきたのは全て生贄にする為の条件を満たす為だった。 生贄にできるのは、近しい者である以上対象とある程度仲を深めなければならない。 すでに20人単位を何度も繰り返していた時任さんにとっては、彼女も同様の悪人であり最初の出会いから全てが演技だったと思ったのでしょう。 …本当に、最初の出会いの頃はまだ本来の彼女であったと知らないまま。 そして、悪魔の言葉を思い出し復讐の方法を閃く流れに。 契約者を生贄にした場合、若返った分だけの寿命を宿している事。 つぎ足された他人の蝋は溶けだすと、元の人間の蝋燭を太くしていく事。 本来の太さよりも、継ぎ足し溶けた分だけ段々上塗りをされ…コーティングされた結果肥えていく魂。 それは悪魔にとって、とてもやみつきになる程美味であるという事。 これまでに大量の命を生贄とした彼を生贄とすれば、存在すらも消えてしまう程に若返ってしまうと思いつくや否や音も立てずに玄関へ向かい。 靴箱にある彼女のスニーカーをすべて回収し、彼女が当日安全に階段を歩けないように仕向けたのは彼だったという事がわかる結末へ。 最終的に彼女が悪魔に食べられる終わりと繋がるのはこちらなのだろうと納得しかありませんでした。 では、すべてを受け入れたなら? 再会した時、何故数十年が経過しても同じような若々しさを彼女が維持していたのか。 明確に言葉にはされませんでしたが、やはりという言葉が出ている事から薄々予想はしていたのでしょう。 それでも、自分の残されたわずかな時間で愛する女性の望みが叶えられるならば少しは醜悪だった自分の人生にも意味があったのかもしれない。 彼女は生きる目標を見失った自分にとって、生きた意味を与えてくれたのだから。 彼女の人生に意味を与える事が自分にはできないのは残念であっても、命を差し出す事で手助けは出来る。 だから、彼女の寝顔を眺めながら大切な事を手紙に書き残す事を選んだ。 感謝の気持ちや、自身が契約者である事。 自分が消えた後はそのまま階段を下りるのではなく、急いで儀式の終了を悪魔に告げなければならない事。 明日、階段を下りる直前に…自分が消える直前に彼女に手渡そうとポケットに忍ばせて。 しかし、このルートでもやはりかなこさんは何故かスニーカーでなくヒールを履いており最終的に手紙の中身は不明のまま彼女は悪魔に食べられてしまう。 このエンドを迎えた際は、スタッフロールの曲も相まってとてもしんみりとした雰囲気があり好きです。 隠されていないはずのスニーカーは何故選ばれなかったのか? それも含めて悪魔が仕組んでいたとしたらまさしくエンド名である「届かぬ想い」なのでしょう。 今まで、この契約を求める人間を察知していた事を思えばこんなチャンスを逃すとも思えないですからね。 因果応報として美しいのは、かなこさんの末路がわかるルートを経由している以上エンド5までがワンセットという扱いに思えます。 だけど、時任さんがどういう人物なのかを考えるとエンド6が正規であって欲しい気持ちはあります。 そして、かなこさんの魂を食した後であろう部分から再び続きがあり…天使襲来のファンタジー展開へ!? 天使により悪魔が退治される展開になるかと思えばそんな事は全くなく。 そういえば堕天使って悪魔の事だったなぁと思い出しながらエンド名を確認。 今後また天使に見つかる事がないよう、より強い結界を張り直し今後も悪魔はこの場所で若返りを願う人間を待ち続ける。 しかし、今思うとあの心霊番組に関する情報を見た二人が見事に引き寄せられた事を思うとあれも悪魔側が定期的にそれで引き寄せられる位強い若返りの願望を持った人間を集める為の罠だったのではないか? 二人があの番組の情報を知った時期は全く違うタイミングだったと思うと、とてもピンポイントすぎますし何か仕掛けがありそうに思います。 と、ここまでしんみりした物の 残りの回収してないエンドがある事に気づき結構初期の方に見逃しているのを攻略情報から把握しました。 サッカー部に混じって運動ヤッホーイ!という平和な終わりに、盛大に何も始まってない!! とはなりましたが…このエンドの時だけはエンド1と違ってニュースも把握しておらず芸能人がくる事も観測をしていない。 つまり、考えようによっては何も起こっていない一番平和な世界ではないか? という現実逃避をする形で締める事となりました。 @ネタバレ終了 くれぐれも、怪しい噂とおいしい話にはご注意を。 なんて事を微笑みながら、口の前で人差し指を立てつつ言いたくなるような物語でした。 この度は面白い作品をありがとうございました。
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嘘の手紙配信にてプレイさせていただきました。 ある夜に届いた、10年前に書かれた友人の遺書。 友人である山中君のいつもの行動である、一部分にだけつかれた「嘘」が何なのかを求める記憶を辿りながら友人と向き合う物語。 本編における独特なグラフィックの世界観もですが、プレイヤーをその世界に引き込む不思議な魅力があると思いました。 @ネタバレ開始 何故10年が経過した今になって友人の遺書が届くのか。 当時高校生だった主人公には辛い内容でしたので、という記載から大人になった今なら受け止められると思い遺族から送られたのか? 少なくとも、向こうからすれば遺書という『最期の言葉』を送ってくる程度には親しそうな距離感の友人だったにも関わらず、思い出そうとしても頭の中に霧がかかったように感じてしまう主人公。 深く考えようとした結果、疲れもあり眠ってしまった事から夢の中で手紙の中にある「嘘」を探すという展開はなかなか面白い導入と思いました。 夢の中で目覚めた主人公が持っているのは、寝る前まで手にしていた手紙であり夢の中の主人公は高校生の自分として真相へ迫っていく。 そして重要なのが、山中君がいつも一部分だけ「嘘」をつくというところ。 このどうみても遺書でしかない物のどこに嘘があるのか? 探索が開始可能になった所で右下にある手紙を調べてみれば、各行に色の違う「嘘」の文字。 僕は死にます。 君のせいじゃない。 こんな身体はもういやだ。 この三行の、どれが嘘なのか?本当は何を隠しているのか。 素直に考えれば 死にます→死なない(これが一番平和) 君のせいじゃない→君のせいです(という指摘) こんな身体はもういやだ→こんな『?』はもういやだ(何かが嫌なのは確定) になるのかと最初に目星をつけて。 一番嫌なパターンは、君(主人公)のせいで何かしら身体に消えない後遺症が残ったので死ぬというケースですが…とにかく進めるしかない。 モノクロな世界、現在地や移動先が文字として可視化された特徴のある表現方法。 そして、夢の中であり10年前の事なので顔の思い出せない夢の中の登場人物達。 どこか朧気で、淡い雰囲気は過去の風景や夢の中というのを表現する上でも雰囲気が出ています。 だからこそ情報を集める事で付与され、大きさの変わる手紙に浮き上がった「嘘」の文字の色がより印象的になるのもありますね…。 とりあえず目に付いた相手に話しかけるとその情報に応じた「嘘」の文字が出たり大きさが変わっていく。 どの色がどの行に対応しているかは手紙の内容を見ればすぐにわかるのと、内容として「赤い文字の嘘」が大きくなる度にそうであって欲しくないという気持ちにさせられていきました。 情報は人物だけでなく、物を調べた際にも得られ反映されていくので初見では全て調べたいと思いながらもその結果どの色が増えるのか探り探りになるのが楽しかったです。 初回は出会った人やそこで調べられる物は見ても、真っすぐ進みすぐに屋上へ行ってしまった為エンド3へ。 もしや一度行った場所でも変化があるのでは?と再調査をすれば以前とは違う人物がいたり教室にあったノートが取得可能になったりと進展があった際は手応えを感じる喜びがありました。 それでも2連続でエンド3へ行ってしまったので、これは特定の色に関する情報を一定以上集めないと強制的にエンド3(どれにも該当しない共通エンド)に行くと予想できたので過去2周でどの色が増えたか? そしてまだ話しかけていない人物からはどんな情報が得られるのかを試してエンド1を達成。 (※感想文を書く為、検証した結果で黄色が最多の場合は「嘘」が身体→自分という内容でありエンド3に到達すると後に気づきました) 屋上に行く前、手紙を再度確認すると青の文字のみが残りそこには「死にません」という意味だろうという訂正があった事。 ようやく屋上に誰かいる!となった際には喜びもありましたが、何故か手紙は手元からなくなっており主人公も屋上から帰る流れへ。 山中君が隠し持っている手紙が恐らくあの手紙だろうなという事と。 「じゃあまた明日ね」 という声を最後に、そこから彼と会う事はなかったという事からうやむやになったのだけは把握し。 …これは、明日なんてないという真相を隠した「嘘」が最後の言葉になったのでしょうね。 エンド3を回収した際は特に変化はありませんでしたが、エンド1を回収するとタイトルの画面が『変な夕方だった』とされた際の空模様へ。 今探索している世界は、主人公の記憶から構成された夢である事。 だから情報も主人公の知っている事から成り立つ主観が基本であり、印象的だっただろう事が出ているのだろうとは思いましたが…。 体育館に行った際に発生する、山中君が転校をしたという知らせ。 それに対し、主人公はやたら否定的であり。 病気の関係による引っ越しという言葉にも、いじめや鬱が関係あると思っている。 学校は何かを隠している、そう強く思うだけの理由があったであろう事。 いじめがあったであろう事は テストの結果表を見た際に、山中君は成績がいいという内容から始まり何故か後半は教師もいじめの相談に乗ってくれるはず。 という謎の続き方をしていた際に違和感はありましたが、他の生徒の発言から彼をよく思ってない男子生徒がいた事。 下駄箱を調べてた際に、『死にたい』という恐らく山中君が書いた?文面に後に登場した女子生徒が『死んじゃえ!』と書き足したであろう事。 体育館にいる教師に話しかけた際、山中君がいじめを受けている事についての話題が出る事。 ここから推測され、てっきり手紙にある黄色の嘘は『身体でなく鬱病の事』が本音ではないか?と推理していきました。 そして、ここから回収していないエンドへ行くとなると嫌な予感しかしないけれど赤が確実であろう事。 2つは回収できたのでここからはヒントモードに頼る事にしました。 ヒントモードとして、各人物からどの色が手に入るか? 手紙の画面でも現在のポイントが確認できるのでエンド回収をする上でも仕様として助かりました。 赤に関する情報をひたすら回収し、ポイントも溜まっただろうという段階で階段へ向かうと体育館から屋上へ続く血痕が…。 恐る恐る手紙を確認すれば「君のせいだ」と訂正されただろう内容になっており…この行に嘘があるならそうだとはわかっていても、エンドを確認するのは勇気がいりました。 赤すぎる空。 フェンスへ続いているだろう血痕はまるでそこまで誰かが進み、飛び降りでもしたかのような印象を受け…。 恐怖しながら自分の視界を両手で覆う主人公。 そこで明かされたのは、主人公が山中君がいじめられていると知りながら助けなかった事。 昇降口の男子生徒との会話で、友人のはずなのにまるで実は仲が良くないかのような返しをしていたので実は不仲だった可能性を疑いましたがあれも自分が標的にされない為の自衛でしかなかった事。 体育館における教師との会話でもお前は知っていながら助けなかったのか?という旨の指摘をされた事。 いじめに関する情報はありましたが、それと主人公が明確にどう関わっていたのか。 ようやく判明する流れという事でそれまでの疑問は解決しました。 「だから持病といじめを苦に死んだんだ」 という部分で、持病という部分に首を傾げましたが…鬱も発症すれば完治を認めるのが難しいから持病と言えば持病なのか?と持ち前の思い込み推理力を発揮しつつ。 どうあれ、学校がいじめを放置した挙句に自殺を認めず転校したという扱いにしたのならかなり悪質でしょう。 山中君が生きている間に何もできなかった事への報いからか、主人公はいじめに加担した人間へ復讐をする流れへ。 もし本当に山中君が死んでいるなら、いくら夢の中で戦い続けても意味はないのに。 それを示唆するであろうエンド名でしたね。と、エンド2を回収。 タイトルに戻れば、夕焼けの色でもここまで赤くならないよ!? という真っ赤な空をした様に変化しており…。 まるで血に染まったような…復讐の空を示しているようでした。 最後のエンドを回収しにもう一度夢の中へ。 すると、教室の様子がこれまでと違いノートはなく登場人物も女生徒から別の誰かへ。 会話内容も全く初見の物であり、手紙には青の「嘘」が浮かび上がる。 廊下に出た際も、突然始まったモノローグからさらに大きくなる青の「嘘」 10年前の手紙が今になって届いた事、それは素直に考えるなら山中君が亡くなったから遺族が届けたという事か? 調べられる掲示物もなくなっており、廊下には誰もおらずやはり流れが今までとは違うのを感じます。 昇降口に到達し、一体この手紙にある嘘はどれなのか? 何か言いたい事があったはずなんだと悩む主人公。 そして、今まで言葉をずっと否定し続けていた体育館のイベントで大きな違いがありました。 それまで、主人公がこのイベントで教師からの知らせに対し反応する際は教師と同じく『』で表示されていた台詞が「」になっていて。 恐らく、これまでの認めないという否定的な内容は過去の主人公がその時実際に思ったなり言った事だったのでしょう。 だけどここで「」となっているのは、記憶でなく今現在の主人公が持つ思いを語っているからであり…。 転校した事実を認めながら、何故自分に言ってくれなかったのか。 病気の関係というのも、持病があったのならありえた話だけど…それでもいつもの嘘まじりで良いから伝えて欲しかった事。 ようやく、今見ているのは過去の記憶から構成された夢でありいくら山中君を探して何かをしようとしてもとっくに何も変わらないという事。 エンド2のように夢の中でずっと復讐をしたって何の解決にもならない事も認めた上で。 それでも10年前、急に消えたお前に会えるんだったら! 再び大きくなる、青い「嘘」の文字。 行ける場所も一本道のようで、階段に向かうのみ。 そこで手紙の内容を確認すれば、今までのようなはっきりした表記ではなく掠れた弱弱しさを持ちながらも書かれた本音だろう言葉。 『僕は生きたい』 『死にます』の対になる嘘は何も『死にません』だけではない。 死にたいんじゃない、生きたいというのが本音だったのだと気づかされた際には彼がどんな気持ちで当初はこの手紙を主人公に渡すつもりだったのか…。 何とも表現が難しいですが、胸の奥が締め付けられるような…言えなかった本音を知った事から汲み取った思いに目頭も熱くなる感覚がありました。 屋上に広がるのは綺麗な青空。 そこで待っていた山中君。 「…お前、死にたくなかったんだろ?」 「死にます は嘘で、本当は生きたかったんだろ? …病気、治そうとしてたんだろ!?」 山中君は最初から生きたいと思っていた。 だから、その為に転校や引っ越しをして治療に専念できる環境へ行ってしまった。 「……死んだことにもできなかったよ。結局原田くんに手紙を渡せたのは10年後だ」 そして、彼がいつも嘘まじりであったとしたなら今回届いた手紙の差出人は… まるで遺族が遺書を届けたようにしているけれど本当に送ったのは当人だったのではないか? この手紙を投函したその時まで、そこまでは彼は生きていたはずじゃないのか? しかし、現状わかる事はこれだけであり。 10年後…つまり、今手紙が届いてからも山中君が生きているかは主人公の夢の中にいる、主人公の知りうる情報から構成された山中君にはわからないのでしょう。 だけど彼は、これから大きな手術がある事を伝え、そこで足元は崩れ出し夢の世界は崩壊を始めた。 それでもかすかに、遠くから聞こえた山中君の声は「頑張るから」 と伝え、彼に手を伸ばす形のまま夢は終わりを迎えた。 長い夢から目覚め、今までの事を思い出し手紙をよく調べてみれば「清浜病院」という名称が書かれてあり。 スマホを手にコール音が響く中エンド4へ。 「真」という封書のされた手紙を調べれば、ここからは何があったのか山中君の視点から真相が明らかに。 持病と表現されていた彼の病は難病であった事。 治療の為に転居する事への不満はなくとも、心残りはあり思い付きから遺書を書いた事。 これを受け取った主人公がどんな反応をするのか、そう思いながらも結局渡せなかった手紙。 最後の登校日、その空はまるでエンド1の時に見た夕方の風景でそこでも主人公は何か言いたそうにしながらも引き返してしまったのでしょう。 それから10年が経過し、再び病気が一部悪化した山中君は重要な手術をする事が決定した。 そして思い出す10年前の記憶。 何も伝えずに転校した結果、主人公は転校の原因を勘違いしていた。 病気の為というのは建て前で、本当は自殺をしており学校はその事を隠しているんだと思い込んでいた。 その結果の行動は、恐らくエンド2で取った流れなのでしょう。 母親からはクラスメイトが主人公に怖い事を言われたとだけ伝えられましたが、実際はどこまで行動を起こしていたかは濁されたまま。 この話を聞いて、笑みが顔に出るのを隠そうと山中君が眺めた窓の外はやけに赤い空で、どこかであの夢と繋がっているのを示唆しているようでした。 そしてそんな事をしたから10年も経ってからバチが当たったのだと、今度こそあの遺書を主人公へ送ろうとする山中君。 しかし、いつものように含まれる嘘として彼はある物を付け足した。 それが、まるで遺族が10年経過した今だからこそ渡せた手紙であると言ったようなあの文面。 そのメモと一緒に同封される、あの日渡せなかった手紙。 また嘘をついた、そう言いながらも本当は嘘なんてついていない。 青空の屋上を背景に語られる山中君の心中。 僕は死にます。 君のせいじゃない。 こんな身体はもういやだ。 この表に出ているたった三行だけの情報だけでは読み取れない、行間の真意。 『僕は死にます』 病気が悪化したら、手術が上手くいかなかったら。 確かにその時は死んでしまうのでしょう。 『君のせいじゃない』 いじめは主人公のせいじゃない。 だけど、自分が突然消えたせいで勘違いをさせてしまった。 『こんな身体はもういやだ』 身体も自分も、変わりたいと思っている。 だから手術も受けるし、今度こそ手紙を送るのだと。 エンド4の際、全てを冷静な視点から読み取った際に浮き上がった『僕は生きたい』 そうして全てはここに繋がっていると知った時はただ、生きて欲しいしそれは当然の望みだと思えました。 この10年経った今、もしこの手紙が主人公と再び会えるきっかけとなるなら。 山中君もまた、生きてもう一度主人公に会いたいと思っていた事。 それはきっと二人の見ていた夢が偶然交差した奇跡だったのか。 崩れ出す世界、全てが遠ざかっていく中でかすかに聞こえた主人公の声は『頑張れ!』と言っており、こちらに向かい伸ばされた手が…。 そして、場面は病院に電話がかかってくるところへ。 それは主人公が山中君に会いに行く為にかけた、エンド4の続きであり…手術後なので短時間ながらも二人は再会が約束された。 最後は綺麗な青空を背景に表示される「嘘の手紙」というタイトル名で締められて。 ◆感想総括 まず、あの日の嘘を探すというテーマが物珍しかった事はありますがその探索方法が記憶から構成された夢というのが秀逸でした。 主人公が本来知らない情報が出る事はなく、真相が別にあっても強い思い込みがあるならばそちらが先に表に出てしまう事。 あくまで主人公目線で知りうる事から構成された主観という点。 そして、その上で各エンドを見ていけば きっと転校前日にもしたのであろう、死ぬという事が嘘だと判断した結果過去と同じ行動を辿ったエンド1 転校というのは嘘であり、本当はいじめによる自殺を隠蔽する為だと思って現実でも10年前で復讐に走ったエンド2 そう思い込んでいるからこそ、3行目に嘘があると思った際には真相にたどり着けず誰もいない…何もない景色に到達したエンド3 今は夢の中にいて、もう10年前にあった事は変えられないと知りながらも真相に向き合おうとした結果先へ繋がったエンド4 最初は主観や記憶、当時の思い込みから始まるもやがて現状は夢であると気づき大人になった今だからこそ向き合えたのか。 ようやく見抜く事ができた「嘘」の内容に到達するという流れはとても美しかったです。 そして、回収したエンドに応じて変わっていく空の色。 この様々な色に変わる空を山中君の方でも何かしらの形で見ていて…二人が遠くにいても同じ空の下にいると知った時、何故このゲームのバッジ名が空に関する物だったのか? その理由を理解できました。 到達したエンドに応じて変化があるだけでも演出としては素晴らしいのですが、山中君視点で実は同じ物を見ていたという流れに組み込まれている点を踏まえると確かにこれは空が適していると言えます。 後日談は語られないまま、しかし二人がまた会えるという希望を持たせる形での終わりなのでどんな会話をするか等プレイヤー側に想像の余地を与える終わりも好きです。 当初の目的であった、10年前であるあの日の「嘘」は判明した。 だからこの物語(作品)で語られるのはここまで。 この先は今後二人によりまた紡がれていく未来なのだと。 @ネタバレ終了 エイプリルフールという事もあり遊ばせていただきましたが、最終的には心が温かくなる。 そんな素敵な作品をありがとうございました。