白玉ユキトのレビューコレクション
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ミラーリングサマー感想に「どんでん返し」という文言を見かけて、気になってプレイしました(自分もそういう話を書いたもので)。 読み終えて「どうやったらこれが書けるんだ」というのが率直な感想です。謎が重厚に折り重なった物語の作りは圧巻の一言。この長さの物語を作るには、これだけの要素が必要なのだな、と改めて考えさせられました。 正直、序盤の印象はそこまで良くないと思います。物語のスムーズな進行を阻むコテコテのキャラクタ造形や、謎の糸口が提示されても解決に向かわない流れが、自分は苦手でした。何より、大きな仕掛けがあると分かって読むと、序盤でいろいろ見えてしまうんですよね。なので「知らない状態で読みたかったなぁ」という思いと「知らなかったら気持ちが続かなかったかも」という思いが両方ありました。 しかしながら、環境音を利用した空気作りが上手く、キャラの掛け合いで流れが淀む寸前に話が進むバランス感覚など、確かな期待はありました。中盤以降、どんどん謎が膨らんでいき、いつ明かされるんだとじりじりしながら読み進めた結果、度肝をぶち抜かれました。 少しでも気になっているならプレイしましょう。3時間、プレイ前は長く感じますが、内容を考えるとあり得ないほどに短いです。ここまでの衝撃は市販のものを含めても、そうそうありません。 (ここから先は本当にネタバレが入るので、読み終えてから開いてください) @ネタバレ開始 上記の点が全部仕込み。 明かされた瞬間の全てがピタリと嵌まる感覚、そして内容を咀嚼してから、巧妙に計算された構成に痺れます。 「どんでん返し」で「双子」「鏡」と来れば「それ」しかないんですよ。鏡を見れない理由がどこにあるかも推測はできます。でも辿り着けなかった! イカニも君のクリーチャーという描写、そして御神体が出てきた辺りで、思考がファンタジーに流れてしまいました。 何よりも、自分はコテコテのキャラクタと掛け合いのせいで、いろんな要素を疑問に思わずスルーしていました。具体的には性的な距離感を「この作品はそういう世界だ」と納得していたのです。夏通とのボケツッコミのノリがなければ、ここの違和感はすごく大きいと思うんです。ギャルゲー感と伝奇感は見事な隠れ蓑でした。 主人公と兄の秘密を分かって読んでいても、上記が目くらましになって正体に気付けない。そして明かされた時に七榎の秘密に気が付きます。そこに思考から吹っ飛んでいた双子の要素がもう一回降ってきます。見せる謎と隠す謎の塩梅が絶妙すぎて、終盤は頭の中を整理しながら感嘆しっぱなしでした。 最大の謎の仕組みも、生まれた理由から拒絶する理由からそちら側になる理由から、全てが重なり合って強い納得感があります。振り返ると御神体が何重にも意味を持ってくるのもすごい。そして「この物語があったからこそ登場人物がみな幸せになる」というのが、結末として本当に素晴らしいと思う次第です。 ちなみに「なぜ物語がまっすぐ進まないのか」という疑問に対しての「主人公のために必要でキャラがそう仕向けていた」という解答は実に鮮やかでした。油断していたので綺麗に掌の上で踊らされていました。 孫のキャラクタも光っています。彼女自身には何も秘密がないのに、他の性格設定では成り立たない。 感想をどこまで書くか、かなり悩みましたが、この手の話を書く時は「読み手にどう読ませるか」を意識すると思うので、「自分はこう読みました」というのをそのまま感想として残します。自分でもどんでん返しを書いた身としては「こりゃ勝てねぇ!」と笑うしかありません。 @ネタバレ終了 1つだけ、タイトル画面の弱さが勿体ない。ここで敬遠されているのではないかと心配になります。 以上、天晴れでした!
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一恋めちゃくちゃ笑いました! 超展開の連続! イラストも綺麗で豊富で、とても贅沢な作りですよね。そこがまず面白い。 選択肢は上から選んでいったのですが、 @ネタバレ開始 ひどい名前! すごい恰好! からの食パンでもうダメでした(笑) どんな間違え方! そして、ぼれちゃんの適応能力が高すぎる! 謎言語のバックログや王国名など、小ネタも楽しかったです。 @ネタバレ終了 堪能させていただきました。ありがとうございます!
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お前のスパチャで世界を救え面白かったです。にあちゃんかわいい! VTuberは知らない世界だったのですが、スパチャして名前を呼ばれたらニヤニヤしてしまいました。名前を呼ばれるだけでこんなに嬉しくなるとは。「なるほど、こういう感じかぁ」と疑似体験ができました。ついでに前世とかママとか、新しい知識も頂きました。 @ネタバレ開始 そういうふわっとした感じで終わるものと思っていたので、ラストの衝撃は大きかったです。「こんにあー」という挨拶のお蔭で、すっかり盲点にはまってしまって。更に、にあちゃんの正体が実は……と。つらい。 そして、100万投げるほうも、受け取るほうも怖い。なんて世界だ(笑 @ネタバレ終了 素敵な体験ができました。ありがとうございます!
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片恋スターマインとても好評のようだったので、折角なら最大限に楽しもうと過去作からプレイしたところ、ものの見事にキュン死してしまったので、そのまま続けて読ませていただきました。めちゃくちゃ面白かったです! ちょっと感情がパンク気味です。 @ネタバレ開始 ■紫季先輩 こういうクールで優しい先輩、大好きなんですよね。特にいいなと思うのは、桃耶の自尊心の低さをきちんと指摘してやるところです。ちなみに、この「もっと自分を尊重しろ」というメッセージが、ラストで「先輩も幸せを諦めないで」と返ってくるのがすごくいい。 話は「期間限定の恋人」というのがもう切なすぎて、先が気になって仕方なかったです。 観覧車での「この一瞬を、空間ごと切り取ることができたら~」の描写がとても印象に残っています。見ていられることを願う、という距離の感じ方。 それから、花火のシーンでの「希う」。この存在感の強い語句が見事に嵌まっていました。 花火の後の、紫季先輩が荒れる場面がとにかく好きで。桃耶の「お母さまの言いなり」という逆鱗への、畳みかける台詞が痛ましくて堪らない。それまであった余裕が一切なくなって一杯一杯な様子が、それだけ紫季先輩の中で桃耶の存在が大きいことの証明でもあって。 「私に失望したのか? そうなんだろう?」 この瞬間だけ卑屈なのがもう苦しくて泣いていました。 最後は思い出として終わるのかと思いきや……思わず叫んでしまいました。この人が! あの時の繋がりで! 当時の自然な行いが評価されていた、というのもいいし、認められるようにと自分を高めていったのもいい。改めて読み返してみると、レストランのシーンでしっかり伏線が張られているんですよね。結ばれてよかったです。 先輩の紫季という名前は母親由来なのかな、と思いました。このアイスは左右のバランスが悪い、と急にとんちんかんな話を始める先輩、好きです(笑 ■翔くん メガネ……いい。登場してからの会話の流れで、チーズケーキを嫌いとか言っていた頃から成長したなぁ、と感じました。 こちらのルートでは、桃耶の思いの大きさがあるので、紫季先輩に振られてからの心の変化を描いていくのかな、と思っていたので展開に驚いたのですが、片思いされる側からする側に一変する切り口は面白いですね。桃耶を忘れた翔くんが冷たくなるのにドキリとしました。ああ、特別だったんだなぁ、と。 ただ、自分が紫季先輩推しなのもあってか、翔くんへの気持ちを自覚するのが早すぎて、「さっきまで先輩を好きと言ってたのに」とちらついてしまい……。恐らくは憧れと恋の違いなんだろうと理解はしつつ。 そこから先は気持ちが定まらず、読んでいて辛かったです。翔くんからすると見知らぬ女に尽くされるのは不気味だろうし、桃耶からすれば事故に遭わせた負い目があるし、でもそれで尽くすのは愛なのか自己満足なのか、そもそも本当に恋愛感情なのか、振られた辛さで縋っているだけなのでは、とか。 どうするのが正解か分からないまま、何が出てきてもいいように構えながら読んでいましたが、素直に落としてくださって助かりました。 最後のスチルで胸元にメガネを掛けているのが色っぽかったです。あと、紫と山吹って反対の色だなぁ、と。 @ネタバレ終了 どちらのルートでも、もう一方が支えてくれるのがいいですね。人が良すぎる。 こうした直球の恋愛ものって書くのが難しいと思うので、ここまで感情を揺さぶられてすごいなあと感服しています。 読ませて頂けてありがとうございました。最高でした!
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シリウスの揺り籠画像やBGMのチョイス、スマホのUIなど、空気感のオシャレな作品ですね。実写の人物を使った作品はあまりないので、とても新鮮な気持ちでプレイできました。 SNSの画面は、人の繋がりが星座のようで雰囲気が良く、とても内容に合っていました。シナリオも柔らかさが感じられ、また、タイトルの回収が綺麗だな、と思いました。
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対象She-11に関する記録とても濃密な1時間でした。終末×セカイ系、いいですね。 圧倒的な人型兵器から遁走し、スパイとなって敵組織に潜入する。そこで出会った人型兵器の制御システムの少女シェル。最初は無感情系かと思いきや、とても感情豊かな少女でした。 @ネタバレ開始 それゆえに、初対面から随分と心を許しているように見えて不思議でしたが、その理由も後で明かされて納得しました。シェルに関しては、辛い定めに心を殺しているのではなく、自らの意思で以て戦争を終わらせるために戦っている、というのが好印象でした。 途中で幸せな結末があり得ないのは分かるので、じゃあどう終わらせるのかと気になって読み進めていましたが、これが見事な幕引きでした。生きることに精一杯で夢を持てなかった主人公が、シェルと触れ合う中で生きる価値を見出し、彼女の夢を引き継いで叶える。この展開が本当に胸に迫ります。そして一周回ってタイトル画面に帰ってきた時の驚き。この作品における青空の明るさは印象深いですね。 脱出時の芝居がかった台詞と、ノエーシスが自ら目覚める箇所は、特に好きなシーンです。 一部、連合側のセキュリティの甘さに不安になりましたが、あまりここに筆を割いても物語の軸がぼやけてしまうので、正解だったと思います。 @ネタバレ終了 面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。
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最終電車物語の核の部分だけをぎゅっと濃縮したような作品でした。 重苦しい話でありながら、朗らかとは言えないまでも明るさが残る、繊細な後味が美しい。 @ネタバレ開始 読み始めの時点では死ぬまでの話だと思っていたので、死ねなかった側の話と思わず、驚きました。言い出した側が生き残ってしまった、その悔いと罪の意識が痛みとして感じられます。 けれども、その後、主人公の抱える問題は解消されてしまい、彼と同じ心境ではいられなくなった。その現実に折り合いをつけて、彼を置き去りにして前を向く。そうするしかないのだとしても、感情移入して読んだ側としては簡単に割り切れませんね。作中では4年かかった決断ですから。 @ネタバレ終了 切ない余韻をありがとうございます。
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幽暮れの禊とても演出の凝っている作品でした。あの手この手で楽しませてやろうという心意気が伝わってきます。 章初めの説明や、地図や資料の閲覧、時折挟まれる動画演出に、イベントギミック。一つ一つわくわくしながら楽しませて頂きました。 @ネタバレ開始 炎が迫ってきたり、手が伸びて来たり、突然漫画が始まったり(笑)と視覚的に圧倒されます。 特に館で障子に穴を空けて覗き見る演出が好きでした。いかにも何かありそうな雰囲気の中で、いけないことをしているような気分に。 一つ、どうしても引っ掛かったのは、ラストで利奈さんが「かもしれない」だけで説得されてしまったことです。彼女の抱えたものの深さを考えると、さすがにあれでは軽すぎるのでは、と。根っこの価値観が違う以上、何を言われても響かないと思うので、怒涛の台詞を並べるよりは、そっと寄り添うくらいのほうが自然だったのかな、と気になりました。 @ネタバレ終了 ちなみに、おまけが非常に充実していて驚きました。まさかボイスまで聞けるとは……!
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君と二人で歩くことがとてもいいお話でした! プレイ時間に対して、何と内容の濃いこと。読み終えて、目頭が熱くなりました。 @ネタバレ開始 二人とも不器用でありながら、相手を大切に思い合っているのが伝わってきました。互いの距離を測りかねていた序盤から、思いをぶつけ合える終盤までの心の変化が、とても丁寧でした。 話の展開としては、過去に対してはぐらかしたり逃げたりせずに、真正面から向き合っているのが素晴らしい。過去に完全な決着をつけるのではなく、どう折り合いをつけるのか、というところに焦点が当てられていたのが良かったと思います。凛の気持ちの置き場のなさや、優介が責任を感じてしまうこと、そしてそれを掬おうとした凛の優しさが胸を打ちました。 それと、印象的なシーンも多かったです。家事に自分の価値を求めたり、手を差し伸べられて怯えたり、クラスメイトの嫌がらせへの推量など。小さなシーンにもイラストが添えられていて、また一瞬しか出ないキャラにも立ち絵があって、手が込んでいるなぁと感心しきりでした。 @ネタバレ終了 素敵な時間をありがとうございました!
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ミカヅキノヒトミ