せいかのレビューコレクション
-
kara no utsuwa厭世観を募らせた主人公が宇宙に飛び出そうとするも、という内容紹介に惹かれてプレイさせていただきました。 @ネタバレ開始 無人の星に取り残され云々は、てっきり同じロケットに乗り合わせていた人たちと強制的に交流する羽目になって会話をすることに……かと思っていたのですが、どっこい、この宇宙への漂流も夢のできごとであり、主人公が話すのも(恐らくは)自分自身が抱えている問題のある部分を人格化し分割して表したものというものになるとは。 夢の世界で他者として認識した自己と対話し続けることで突破口を見出すというある種の自己愛的なものでもある解決方法ながら(自分自身を見つめ直すという行為をやや夢想的に行っていると言えるのですが)、本作ではその掛け合いで生まれる言葉の端々に本人の自己批判や省察が鋭く潜んでいたりもして面白かったです。 自分自身と永遠に平行線の硬直状態に陥ったり、案外ゆるく話せたり、かと思えばマシンガントークをする姿を見出したり。自分の切り分けられた人格の誰と出会ってもその出会い自体に後ろ向きにならないで交流することを否定していない感じとかも優しさを感じました。 @ネタバレ終了 宇宙(のしかも孤島と言える無人の星)という、圧倒的に孤独で息もできないほどの絶望に本来は曝されるしかない場所において対話を重ねていくというのがすごく素敵でした。 あと、めちゃくちゃイラストや画面作りも素敵でした。 地球と同じ青と緑がテーマカラーとして統一されていて、温かみがあるというか、宇宙という場所・精神設定ながら、地球に帰属している感じがあるというか。 本作は一本道のノベルゲームながらも作中複数回に亘って選択肢もあって、「対話している」感じをこちらが体験できるようにされているのも面白かったです。 @ネタバレ開始 そしてまた、結局一本道に収束するというのも、本作のシナリオ的に、あくまで自分個人との対話であるからそうなるというか、そこにちゃんと意味がある感じもしたというか。 @ネタバレ終了 面白い作品をありがとうございます。
-
BINARY HEARTS -WHITEOUT-うおおおおおおおおおおお五体投地!!!!!さらに五体投地!!!!!!ひっくり返ったダンゴムシみたいな動き!!!!!!わしゃわしゃ!!!!!という溢れる感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。 前作でちょろっと話に出ていた「一緒に旅行に行きたいね」というところで番外編をやりつつ、シイナくんとセンパイさんがお互いにとことん利他的に相手の幸福を願い、信頼関係を深め、友愛を深め、穏やかに過ごしている様子が覗き見られてめちゃくちゃ良かったです。二人がずっと明るい場所を歩いて行っているような感じが本作でも伺えて眩しかったです。 心優しき人に幸あれ、心貧しき人々にもいつか恵みあれ。 やさしい世界をありがとうございました。
-
パラダイスバグ好きな作品ながらに一番報われないキャラクターが一番好きになってしまった……という、まさになんだか私にも身に覚えがあるシチュエーションがあって、しかもそれに対して虚しくも夢がある奮闘をしてみることができるとのことで、そこに惹かれてプレイさせていただきました。 @ネタバレ開始 結局のところ、主人公が一番好きなジンザさんが完全にハッピーエンドになることは恐らくなくて、その犠牲の下で(しかも恐らくは片割れのほうの彼自身は意味が分からぬままに殺されて)新しい世界がつくられるという、微妙に後味の悪さを残しているのが個人的に好みでした。全てのEDを見れたわけではないので、もしかしたらそれ以外の終わりもあるのかもしれませんが……。 現実をうまく生きられていない主人公がそれでもジンザに取り繕って「(世間一般的な意味で)マトモに生きている」ふりをしている上であくまで付かず離れずの距離感で彼の相手をして、そうしてその世界に招かれたところでかなり後ろ向きの解放感と彼らの優しさを受け入れるところとかもすごく好きです。 それに恐らくはハッピーエンドと言えるルートが、最後の最後にジンザがジンザを殺すところを見殺しにすることで導かれるところの後ろ暗さなんかも痺れました。救いたかったはずの人のその片割れを見殺すことを許容した上で自分も救われるという。まさかそっちの選択でこうなるとは思ってなかったのもあってびっくりもしました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございます。
-
英国紳士の手懐け方選択肢なしの短編ノベルゲーム。(だいぶカツカツの)田舎の中流階級に所属する主人公と、恐らくなかなかの上流階級に所属する英国紳士の馴れ初めを堪能させていただきました。時代とかにもよるのでしょうが、この設定だと二人はこれからが大変だぞ……!というところで物語自体は終わるので、この二人の前に立ちはだかること間違いなしな社会の壁とそことのバトルなども気になる次第でした。 とはいえ、現実的なことはさておき、身分差恋愛ははたから眺める分にはやはりよいものです。 @ネタバレ開始 二人のそれぞれに自分の身分では叶えられないだろう夢があって(グヴィンさんの場合は形を変えたのでよければ似たようなことはできそうですが)、恐らくそこで良くも悪くもグヴィンさんの中に摩擦が生まれて主人公を見ているのだろうなあというところとかも良かったです。息苦しい! 貴族社会!!! @ネタバレ終了 面白い作品をありがとうございます。
-
そんな私は、籠の鳥黒背景に白文字で進むシンプルなノベルゲームでした。選択肢は一カ所のみ。 @ネタバレ開始 どういう内容の作品なのかなと思いながら始めましたが、政治的な国家間対立が相手への憎悪や差別意識を煽っていき、(だいぶ一触即発というところまできている)冷戦状態もふとした拍子に熱い戦争へと転がり落ちていくという、そのものずばり直球で「戦争」というものを扱った作品でした。 大衆迎合的に自分が所属する社会の在り方を鵜呑みして生きていた主人公が相手国に属する一部の人たちと接するうちに人間の多様性や人間とは型にはまらないものであることに気が付き、目覚め、戸惑い、それでも自分を取り巻く嵐に呑まれて戦争の駒として戦地に就き、美しく思えた場所や人々を自らの手で殲滅したことに絶望する。 彼は世の中の「かくあるべし」に従って生きていても不自由な籠の中にあり、そこから脱しても世の中の「かくあるべし」のために精神は自由であれども籠の中に押し込まれ、社会に敷かれている境界線と同じ境界線が一人一人を閉じ込め続ける。 幸福とは海の向こうにかつてはあった営みの在り方であるはずなのに、もはやそれも恐らくはただの理想郷と化してしまった。恐らくは今そこにある社会でも境界線を一歩踏み出せば、争いではなくてそういう世界を築けることだってできるはずなのに。 @ネタバレ終了 「鳥籠」や「境界」というモチーフを取り入れつつ、社会が持つ自家中毒さが表現されていた面白い作品でした。ありがとうございます。
-
ウンチの話をするなかれ!食事中にウンチの話をするなかれ。恐らく唐突に親父がそう言いだした一家のみょうちきりんな短編でした。この家族、どこかおかしい──みたいな要素が濃厚過ぎて、ウンチという異物が霞んだり。 @ネタバレ開始 最終的に、ルイス・キャロルあたりが弄していそうなナンセンスなもの、または数々の哲学者たちが議論してきたようなところにまで話は飛躍し、頭の中には宇宙が広がる。 何も無いが有る。無意味にだって意味がある。ウンチは無くとも有る。みょんみょんみょん。 @ネタバレ終了 面白い作品をありがとうございます。
-
とりもどせ!愛!!婚約者は眼鏡男子もう既に結婚することは決まっている状態でその眼鏡紳士たちを相手にした恋愛ゲームをしよう!というところに惹かれてプレイしました。三人ともそれぞれに紳士的でしっかりした殿方たちでした。これはそりゃ結婚することになるだろうなという感じでした。 @ネタバレ開始 プレイ前は、結婚が決まってはいるけれども何やら泥沼的ないざこざが発生するのかしらと思っていたのですが、まさか、今流行の「おまえ、あの祠壊したんか」展開になるとは。 祠の主の祟りが原因となって互いに対して記憶障害を起こしても、心の底に残っている愛情のために最初から最後まで二人がピリついた空気になることもなく、さりとてがっつりある種の試し行動を外部要因でされるというふうに話を進めていたのが面白かったです。 結婚がゴールというわけではないのは当然ですけれども、恋愛ゲームで喩えれば好感度ゲージマックス状態なのにさてどうするかというところでがっつりなお恋愛ゲームを楽しませていただきました。 @ネタバレ終了 あと、ノベルゲームとしてとにかく絵作り的なところの凝り具合もすごかったです。 面白いゲームをありがとうございます。
-
グリモワール・ヘヴン -Vampire's Red Needle-人間なんて血袋としか思っていない吸血鬼を前に、プライドなんて(あるけど)捨ててやる!と、床に這いつくばるのも辞さないモリゾナさんのコミカルながらも社会的な生き物として真摯な生き様が楽しい作品でした。 最初からずっと状況としては悲壮感マックスなのに表現がひたすらコミカルで、掛け合いもテンポもすごく良かったです。 @ネタバレ開始 おまえに靴なんて舐められたくないわと言われてその靴が踏んでいるところの床まで舐める必死さも、本作だととことんコメディータッチで表現されていて笑いに昇華されていましたが、各種エンドを読むと分かるようにあくまで彼の行動の核にあるのは利他精神であって、自分のプライドを捨てるのもそのためであれば辞さないという格好良さに痺れました。どのEDでも彼自身のその芯がぶれることはないのがまた格好よかったです。 BADエンドでぐちゃぐちゃに踏みつぶされるときに「ワインにされる前のぶどうもこんな気持ちなのかもしれない」と述懐しているときのその表現の的確さがなかなか生々しく、ぞっとしました。本作で一番印象深かった言い回しでした。 @ネタバレ終了
-
Working unDeadお金がない、働こう!というわけで引きこもりアンデッドが街へ赴く作品というわけで、面白そうと思ってプレイしました。 街は怪物だらけで陽気なひとたちが多くて、各所で行うお仕事のお手伝いも始終和気あいあいとあっけらかんとしていて、思っていたよりずっとコメディータッチで明るい作品で楽しかったです。これくらい緩い世界で生きたいものです。 画面デザインもポップで可愛くて素敵でした。 面白い作品をありがとうございます。
-
救済センター『救済センター』なる、何らかの救いを求めて電話をしてくる人に対応する施設に体験入社をする作品とのことで、ヘビー待ったなしな題材だなあと思いながらプレイさせていただきました。 主人公が実際に相談者に応対するくだりは短いながらに、救済センターのスタッフ側が素性も知らない相手から押し付けられていること・押し付けようとしていること、報われない・報われるはずもないことを描いているように思えるもので、その上でずっとこの仕事をするしかなかった6号さんが「救済」というものに抱いている彼の結論がダバーッとこちらにまで溢れてきて、読後感は尾を引きずるというより、なんだか取り残されてしまったような行き場のない気持ちになりました。もしもし、救済センター?!っていう、救いのない味わいでした。 @ネタバレ開始 EDは二種類とも読めたはず(6号さんが死ぬか死なないで主人公を逃がすかの二種類)なのですが、どちらにしても主人公は目の前の相手に決定的な何かができるわけではない無力感を味わわされるという……。そこに実在している人こそ現状の膠着状態から脱したがっているのに、ただちょっと話を聞いて自分は彼の前から去るしかないという、職務内容自体もそれと似たようなことを目の前の相手にもするしかない感じが電話対応場面よりもさらに身に迫る分、きついものがあるというか。彼に対して踏み込まなかったら自分がこのセンターでうわべだけの救済をする歯車になるだけだし、踏み込んだらむしろ彼に逃げ道を与えてもらえて助けられるという。 作中にもありましたが、そもそも「救いたい誰か」じゃなくて「誰かを救いたい」というのがズレてるんだよなあというのも、めちゃくちゃ分かるという感じでした。それで自分の抱える悩みや苦しみを吐き出した、その「救いたい誰か」になり得る6号さんを救うためには何もできないという無力感にまた戻されてもしまうのですが。気軽に「救済センター」に体験入社なんかしちゃって誰かをお手軽に救おうとしたことへの罰めいている行き止まり状態というか。 「助けて」と言えば他者を巻き込んで、その結果から、助けてもらえたか・もらえなかったかで(皮肉にも)現状から進めることになるとは言えるのだという部分も、読んでいて、ウヒャッと棘が刺さりました。 あと、そういうふうに遠回しに言ってないで、こっちを見て「助けて!」って言ってくれよ!!!っていうところでまたこちらはひたすら無力感の呪いにも掛けられるというものでもあったりもして、暗黙の裡に6号さんを見捨てないか・見捨てるかじゃなくて、助けてもらえた・もらえなかったに進もうぜ!!!!っていう。でも、それができないし、恐らく彼はとうの昔に麻痺して、期待も捨てて、諦念してしまっているんですものね。 6号さんが死ぬほうのエンドなんかからだと、上の立場のひとは6号さんがもうすぐ潰れて駄目になることを分かった上で使い潰して救いはしないことが垣間見えたりもして、作品全体がブラックで皮肉に満ちているなあという感じもしました。 @ネタバレ終了 あと、仕事モードの6号さんが好みでした。 すてきな作品をありがとうございます。