NaGISAのレビューコレクション
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夢、夢のあと41分で読了しました。ダークファンタジーと言いたいところですが、雰囲気そのものはそこまでダークではありません。復讐のために旅をしていた主人公のギルバートが、「影」に命を救われ、「影」に「ユメ」という名をつけ、一緒に旅をする物語です。 途中とんでもなく救いようのない展開になりますが、にもかかわらず読後感は非常に爽やか。「うたいびと」もそうでしたけど、この作者さんは「ダークなのに、爽やかで、温かみさえ感じさせる」という物語を作るのが、本当に上手いです。今作も感心することしきりでした。 なんといっても、ギルバートとユメの関係性がとても良いのです。恋愛でもない、友情かと言われればそれも違う気がする、遠いようで近い距離感。その描写が絶妙です。 クライマックスでユメがやっていることは、あまりにもとんでもないのですが、読んでいて気持ちよさすら感じました。こんな物語で、気持ちよさを感じさせてくれるところに、作者さんの筆力の凄さを感じました。 ファンタジーなのに、一部の用語や表現が妙に今風なところが、気にならなくもなかったのですが、総じてとても優れた物語です。一人でも多くの方に味わっていただきたいなと思います。 なお、同じ作者さんの過去作を先に読んでいると、より楽しめるかも知れません。 -
読み解く者たちこの作者さんの「盗まれた冬」「東雲に霞む」が、卓越した描写力とキャラクターの魅力が楽しめる作品でしたので、今作も期待して読み始めました。 雪山でホワイトアウト(猛吹雪で視界が真っ白になり、どこに進めばいいか分からなくなってしまう、雪国の恐怖現象)に遭遇し、山小屋に避難したカップル、という描写から始まる物語です。 その山小屋にいた女流作家が、カップルに二つのお話を聞かせてくれるのですが、どちらも短編小説として非常にしっかりした作りの上、味わいが全く異なり(一方はちょっと怖く、もう一方は心温まる)、「一粒で二度美味しい」楽しみ方ができます。 それだけでなく、語られるテーマが非常に共感性の高いものです。加えて、このテーマをこのような方法で語った作品というのは、ちょっと珍しいのではないでしょうか? また、SF風な設定が垣間見えるところがありますが、そこらは説明せずに終わっています。でも今作のテーマはそこではない気がしますので、これで私はいいと思いました。 創作をやる方には、是非読んでいただきたい作品です。 -
掌この作者さんらしい、素晴らしいセンスの色遣いによるイラストで綴られる、「大人の絵本」のような物語です。 とにかく、画像と演出のセンスがお見事です。また、文章は決して語りすぎず、抑え気味なのですが、それがイラストとの相乗効果で、文章にしていない情景や感情が伝わってくるかのようです。 語られているのは、どこにでもあるような日常の物語ですが、この演出、語り方とあいまって、非常に共感性の高い物語になっているように思いました。 たとえばこれを短編小説にしても、おさおさ感銘が失われたりはしないでしょうが、これこそ「ノベルゲーム」という媒体の特質を生かした作品であるように、私には思えました。 -
六限の恋20分くらいで読める女性向けの恋愛ものですが、男性がプレイしても何の問題もありません。高三の女子高生の主人公が、文化祭の文芸部の展示で、高一の男子生徒の作品に目が留まる、というところから物語が始まります。 「音楽」「文芸部」の二つの要素があるのですが、短い中でその両方の要素を、きちんと消化し切っているのがとても上手い。特にエンディングに至る演出が見事です。唸りました。 恋愛ものとして見ると、「恋の入り口」という感じではありますが、これも短い中でしっかりツボを押さえたイベントが用意されています。 そして「六限の恋」というタイトルがいい。「そういう意味だったのか」と最後で分かる面白さがあります。短編青春少女漫画を読み終えた時のような、すがすがしい後味を味わえました。 -
初恋VS幼馴染恋愛ものの短編です。この作者さんの作品はたくさん読みましたが、今作は文章が非常にすっきりしているのに、描写の奥深さが感じられ、一段のレベルアップを感じました。 まず、幼馴染もので歳の差が6歳というのが珍しい。つまり、子供時代は一切学校生活で関わることがない訳です。 幼馴染ものとしては結構難しい設定だと思いますが、それを生かした展開が盛り込まれているのが良いし、ちょっとしたすれ違いが最後にすっきり解決する様子も心地良い。短いですが構成の妙が冴えている作品で、恋愛ものらしい甘酸っぱさも存分に味わえます。しかも、「同年代ではなく、歳の差があるからこそ」のもどかしさも感じさせ、短いながら恋愛ものとしてみてもハイレベルです。 なお、この作者さんのとある作品の登場人物が友情出演(?)していたりもします。その作品をプレイしていれば、後日談的な描写ににやりとできるかも。気軽に読めて楽しい「歳の差」恋愛ものです。心温まる歳の差の恋を体験してみたいかたは、どうぞ。 -
また、会いに来るねあっという間に読める掌編です。この手の物語は、変な書き方をすると、読み手が全く感情移入できないままに終わってしまう危険性もあるんですが、今作は短いながら構成が考えられており、すっきりとした読後感を味わえました。 この作者さんの物語は、どれも「読者の心に不安定な揺らぎを与える」ものが多いのですが、それだけでなく最後にはきっちりと落ち着くべきところに落ち着き、読後感が良いのが特徴です(そうでない物語もあるけど)。 そんなこの作者さんらしさを、わずか3分で味わえます。この作者さんの物語を読んだことがない方は、今作を読めば、作風のエッセンスが味わえるのでは。今作が気に入ったのであれば、この作者さんの代表作である「自分よりも大切な存在」「あなたの命の価値」も、きっと楽しめるはずです。 -
太陽と月が寄り添ってこの作者さんは、重めのテーマを持った作品が多いのですが、今作も類に漏れません。最初は普通の幼馴染もののようにはじまりますが、中盤から雰囲気が変わります。 この作者さんの代表作とも呼べる「あなたの命の価値」「自分よりも大切な存在」は、結構な長期間を描いたドラマでしたが、今作も同じ味わいです。プレイ時間は40分程度ですが、40分とは思えない濃密なドラマが展開します。 序盤から中盤も、太陽がちょっとした試練に出会ったりもしますが、この物語の真骨頂は中盤以降です。中盤から後半に持っていくための伏線は、そこまでにきちんと張られているため、唐突感もなく「なるほどそういう方向に持っていくのか」という、「腑に落ちる」感覚を味わえました。 幼馴染ものとして見ると、恋愛のドキドキ感や幼馴染の関係が恋に変わる甘酸っぱさなどを、もう少し前面に出してもよかった気はするのですが、この尺でこのドラマを見事に成立させている構成は、作り慣れた上手さを感じました。なお、中盤の修学旅行の描写はちょっと笑えて和みました。 音楽が自作なのですが、非常に面白い曲があって、妙に耳に残りました。自作の音楽には、やはり自作ならではのパワーがあるなと感じました。 「ただの恋愛ものじゃない、重厚なドラマを短い時間で味わいたい」という方は、プレイしてみてください。 -
もし、このトマトが永遠なら……いかにもこの作者さんらしい、面白い設定と凝った仕掛けを施された学園ドラマです。 まず、猫耳異星人という時点で、序盤は完全にドタバタラブコメの雰囲気。各登場人物同士のかけあいも楽しく、コメディとして十分面白く読めるのは、この作者さんがこれまで積み上げてきた作品同様です。 そして、中盤辺りで様子が変わってきてからの一気呵成の展開が、今作の一番の見どころです。後半は「なるほど、そういうことだったのか」と思わせる面白さがありますし、クライマックスの一番の見せ場が、心に迫って非常に美しい。 この作者さんの物語は、「余韻が長く尾をひく」傾向にありますが、今作もそのようなタイプです。これは、伏線の積み上げ方の巧みさ、構成の上手さによるところが大きいと思います。材料を組み合わせ、その効果を最大限に活かすという点において、この作者さんのストーリーテリングは卓越しています。 そしてラスト。変な「飛び道具」を使うことなく、しっかり納得感があり、しかも綺麗なハッピーエンドは、さすがの一言でした。1時間半ほどで読める物語ですが、かなり内容が濃く。満足感の高い1本でした。気軽に読めて、しっかりとした感動を味わいたい方には特にお薦めします。 -
リコレクトエデン久々に読み応えのある長編を読みました。私は617分で読みましたが、メモをとりながら読んだので、読んだ時間をしてはちょうど10時間というところです。結論から言いますが、これまで2000本くらいのフリーノベルゲームを読んできた私も、これは「年に1本出会えるかどうか」と自信を持って断言できるレベルの物語でした。 ジャンルとしては超能力バトルSFということになるのでしょうが、私としては純粋な恋愛ノベルだと思いました。それほどに「愛」の描写が厚くて熱くて篤い。こんな熱量のこもった恋愛物語は、商業作でもなかなか読めないのではないでしょうか? 私は六花ルートから読みました。一ノ瀬ルートと六花ルートのどちらから読んでも良いのですが、一ノ瀬ルートから読めば、時系列順で把握しやすいでしょうし、六花ルートから読めば、あとから真実が分かる面白さがあります。これはお好みでどうぞ。 物語構成としては、とにかく「要素の組み合わせ方、その出すタイミングが上手い」。この一語に尽きます。中には定石通りと言えるような展開もありますが、そこに至るまでの積み上げがしっかりしているので、定石通りの展開でも、とんでもない威力で心に爆弾が来ます。これは、長編でないと味わえない感動です。 また、登場人物の心情描写が素晴らしく、読んでいるうちに全員に感情移入できました。特に小野や貴咲など、脇役の存在感が抜群でした。また演出にも力が入っており、op主題歌がオリジナルであることを生かした、ラスト前の演出には、声が出るほど心を動かされました。 そして白眉はラストです。これほどまでにスケールが大きく、綺麗に収まったハッピーエンドは、見たことがありません。テーマそのものは実にシンプルなのです。そのシンプルなテーマを支えるすべての要素が結実するラストには、ただただ呆然です。 SFではあるものの、用語集も用意されており、理解しにくいところはありません。「心にずしんと響く恋愛物語を読んでみたい」という方に、自信を持ってお薦めします。 -
KISS ー忘れられない想いー大学生の恭一が、幼馴染のさゆに告白を決心。そんな恭一の長いような短いような一日を描いた恋愛物語です。 なのですが、中盤以降の展開には絶句しました。決して見たこともないような斬新な展開というわけではないのですが、まさかそんなことになるとは、予想もしていなかったのです。プレイヤーの意表を突くのは、決して展開の意外性だけではなく、そこまでの展開との対比なのだなと実感しました。その意味では、今作は抜群でした。 中盤は、ちょっと演出や展開が冗長なところもあります。しかし後半の息をもつかせぬ展開に、またもや驚かされることに。「あそこが伏線になっていたとは!」と驚かされました。 その伏線は、もう少し説明が必要だったようには思いますし、欲を言えばラストシーンのもうちょっと先まで書いた方が、収まりが良かったような気もします。ですが、読み手の心を大きく揺さぶる、非常に優れた物語です。 ネタバレを書かずに感想を書くのは苦労しますが、その理由を知りたい方は、とにかく今作を読んでみることです。
